「荒稼ぎ」時代の終焉・・ライブコマース先進国の中国から学ぶライバーの生存術

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中国のライブコマースは下火になっているという。

昨年9月、「口紅王子」の愛称で知られる中国トップクラスのライバー(ライブ配信者)李佳琦(Austin)は、コスメブランド「花西子」を販売する際、アイブローの値段が高いと言う視聴者に対し「どこが高い?給料が上がっていないのでは?まじめに働いている?」と対応をして炎上。以前にも、一回のライブコマースで100億円規模を売り上げる、Austinと並ぶ女性ライバーのviyaは、21年に脱税で巨額の罰金が科せられ、表に出られなくなった。それでもライブコマース自体はなくなることもなく、目立てて稼げると多くの若者がライバーになろうとしている。

中国ライブコマースの女王「薇婭(viya)」:あらゆる物がライブ配信で売れる

大学生がアルバイトでライブコマースのライバーとなることもよくある話で、専門学校を卒業した学生たちが工場に就職せずに、早々に有名になり金を稼ごうとライバーの道を進んでいる。人気のライバーになるべく、見栄えのいい服や化粧品を身銭をきって購入しキレイに着飾り、話術を身につける。とはいえ稼げる人はごく一部であり、ライバーやインフルエンサーは稼げる職業かというとそんなに稼げるわけでもない、むしろ稼げなくなった。

過労でも稼げない今のライブコマース業界

「以前は売るのに長けたライバーは月に2万~3万元(約40万〜60万円)稼げた。しかし今は競争が激しくなったので、月1万元余りしか稼げない」「実力のあるライバーだけではなく、有名無名を問わず、所得が減っている」という声があがっている。調査結果でもそれが出ている。iiMedia Consultingのデータによると、2023年1〜3月期の中国全土のライバーの月給は3000~3万元(約6万〜60万円)で、しかもその大半の月給は6000元(約12万円)から8000元(約16万円)で1万元に届かず、前年同期比で約30%も低下した。ライバーだけでなく、ライバーを支える運営スタッフの月給も約2割下がった。毎日経済新聞が求人サイトをいくつかチェックしたところ、アルバイトのライバーの時給は20~25元(約400~500円)に。もう稼げる職業ではなくなった、という認識が広がっている。

6月末には高級アイスで失敗した「鐘薛高」の配信ルームで女性ライバーが生放送中に突然倒れた。ライバー業界のハードワークぶりが注目を集めた。女性ライバーは果物を販売していて、10万8000人が視聴していた。彼女は倒れる瞬間までセールストークを暗唱していたが、すぐに代わりのライバーが登場し場を持った。「本当に疲れてそうだ、メイクでも隠しきれないひどい目のクマ..」「そこまでしてやる?」といった視聴者が心配する声が相次いだ。著名ブランドの配信ルームで突然倒れたから注目されたものの、無名のライバーなら体調不良で登板しない場合には話題にならないし、しかも登板時間不足による契約違反でライバーを管理するMCNから高額の賠償金を請求されるという話も絶えない。

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ライバーが稼げていた背景は、Austinやviyaのようにトップライバーに人徳とカリスマ性が飛び抜けてあったからではない。Austinやviyaが売る商品は大量に売る代わりに最安値で売られるというのが暗黙の了解であり、最低価格を信頼した視聴者はこぞって購入した。ライブコマースも全体的には同じで、配信ルームで話し上手なプロのライバーが売るからには最安値で売ってくれるだろうという期待を視聴者はもって見ている。ところが配信ルームが増えて商品販売で競合すればこれ以上の値下げはできない。さらに値下げするならそれこそ人件費を削り、可能であればバーチャルヒューマンに売り子を置き換えてずっと話させたほうがいい、となる。こうしてライバーは稼ぎが減り、立場が弱くなっている。

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最も荒稼ぎしたAustinすらも疲れ果てて、配信中やインタビューで「私は毎日ひどい頭痛に悩まされながらここに座っています」 「私はもう働く必要はありません。私は従業員とあなたのために働いています」と言い、配信ルームの外に出たいという悩みを吐露していた。 今Austinはテレビ番組の脇役ながら出演し新しい世界を体験している。

プロのライバーより素人が活躍できる新しい舞台も

中国では競争過多と業界崩壊がつきもので、ライブコマースやライバーもダメでした、という話ではない。ライブコマースが今も成功し、ライバーが活躍しているところもある。農村の農家発の野菜直売ライブコマースでは、立派なスタジオも見るからに美しくしたプロのライバーもいるわけではないが、そこには技術サポートする企業などが入り、産地でとれた美味しそうな農作物を見せることでしっかり商品は売れるようになっている。

食べ物だけでなくものづくりでも生き残るところはある。遼寧省葫芦島市興城は、水着の一大生産地であり、それを示すように興城のランドマークとして巨大な赤いビキニのモニュメントが目印の「ビキニ広場」がある。水着工場で働いているのは長く勤務する地元の40代50代の女性が多い地方都市ではあるが、水着産業と巨大ビキニモニュメントにより、興城は「中国で最もセクシーな県」と言われることがある。

ビキニ広場

そこでライブコマースで成功した水着メーカーがある。水着産業の街なので、水着工場は多くありすぐに模倣されるという問題もあったが、地方都市で若い人材が皆外に行ってしまうのを逆手にとり、ちょっとしたものではあるがライブコマース配信環境を他社に依頼して構築してもらう。当初はプロのライバーに依頼して販売を行ったが、このときはプロのライバーがスタイルがよく美人なので男性視聴者にはウケがよくビューは稼げたものの、それが売上にまるで繋がらなかったという失敗をしていた。

工員は長く水着を量産していることから、本当に女性が必要としているのはぽっちゃりしていても年齢によるたるみがでてきてもそれをカバーできる見栄えの良い水着だと肌で感じている。そこで興城のある水着メーカーは、地元のぽっちゃりした女性をライバーとして起用し、水着を着用してライブ販売を行った。するとこれが同じ悩みを抱える中国中の女性から共感を得て大量の注文を得るようになる。

 

中国だけではない。日本でも華人がこれまで地元で構築した人脈を活用し、日本の手作り作品や民芸品をスマホ片手に中国向けにライブコマースで販売するという動きもある。ライブコマースの定番では型にはまった。ライバーが過剰になっていると報じられているが、海外や中国の若者の少ない地方でライブコマースは競合は少なく、今も活用できる手段になっている。レッドオーシャンに入らなければ稼げるツールなのだ。

(文:山谷剛史)

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