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中国では少子高齢化が急速に進んでいる。労働者不足など様々な問題があるものの、一方で60歳以上の人口は2億9000万人超で人口比では21.1%を占めていて、有望な「シルバーエコノミー」市場として注目を集めている。これらの世代は退職をして、特に積極的な買い替えを行わず、時間に余裕があり、蓄えもあることから、必要が生じてからの金払いがいいことで知られている。特に半強制的にスマートフォンを持ち歩かされたゼロコロナ以降は、高齢者がスマートフォンで動画を見るようになり、オンラインショッピングをするようになった。おまけにネットリテラシーが不十分なことから、カモになりがちということもあり、しばしば話題となっている。
ここ最近、中高年に人気となったのは、抖音(ドウイン)、ビリビリやテンセントビデオのプラットフォームで配信している「ショートドラマ(短劇)」だ。文字通り1話あたりの尺が数分と短く、「速いペース」「強い感情」「高密度」であることが特徴的だ。
実はショートドラマの歴史は古く2008年には出ていて、もともとは中国のトレンドをリードする若者から利用が始まり、2018年には現在の主流となる縦画面でのコンテンツが出てきている。中国の他の業界の発展でもよくあるパターンだが、政府がショートドラマ振興政策「関于推動短劇創作繁栄発展的意見」を発表した2022年末以降、コンテンツが急増し一気にメジャーになった。そして最近では中高年をターゲットにしたショートドラマが続々と誕生している。
「熟年ラブストーリー」が熱い
中高年をターゲットにしているとはいえ、中には中高年だけでなく若者にも見られ、1週間で1億回の視聴をたたき出すコンテンツも多数ある。たとえば「閃婚老伴是豪門(訳:電撃結婚した夫は富豪だった)」というタイトルは、抖音で4億8000万再生を記録したヒットコンテンツとなっている。内容は中年女性が金持ち男性とばったり出会い恋に落ちつつ、中年の人々が直面する子供の教育、家族の再会、結婚と恋愛、キャリア闘争などを描くドラマだ。関心を持たせながら次回のストーリーへと続けてみさせようと、スッキリするポイント、悲しく感じるポイント、虐められるポイントを高頻度で散りばめるのが特徴だ。
何かの拍子に金持ちの人と出会い恋に落ちるというのは特に中国人には刺さる動画コンテンツのようだ。2024年夏以降、「閃婚老伴是豪門」のあとに続けとばかりに「閃婚五十歳(訳:五十歳で電撃結婚)」「人到五十,閃婚覇総(訳:五十歳になって、オレ様のボスと電撃結婚)」「閃婚媽媽(訳:電撃結婚したお母さん)」などといった、アラフィフの女性が社長と合コンで出会い、夕暮れ時に社長と恋に落ちるといった流れの「熟年の恋」におちるものが数多く出た。中国の人気製品には模倣製品がつきもので、動画コンテンツもまた例外ではないが、それにしても2匹目のどじょうを狙った作品もまたこれほどみられるというのはちょっとした特需だ。
ネットリテラシーが不十分な高齢者が陥るトラップも・・
100話以上あるコンテンツが多数あり、視聴は最初の話は無料だが、続けてみていくと途中から課金が必要だ。9.9元(約200円)で全エピソードを視聴できるが、視聴設定の変更で数十元かかるというケースも多い。そうした課金の罠にネットリテラシーが不十分な高齢者は気づかず、お金を落としていく。子どもや孫がその話を聞き頭を抱えたのち説得するも、高齢者は話を聞かず憤怒するケースがよくあるそうだ。
シンプルに1人あたり10元支払うとして、1コンテンツあたり1000万回以上、つまり1億元(約20億円)をゆうに超える課金額のコンテンツも少なくはない。誰が見ているかだが、「閃婚老伴是豪門」に課金をする利用者の実像は60~70%が男性、41歳以上が70~80%を占めたという。女性より男性のほうが人気というのは意外に思えるかもしれないが、理由のひとつとしていい歳になった懐かしの女優を起用していることが挙げられる。地域では広東省、浙江省、江蘇省、四川省などの比較的に経済が発展した地域に集中している。今後さらに利用地域は広がり、利用者は増えそうだ。
一方制作費はというと、女性向けコンテンツで約40万元(約800万円)が相場で、特殊効果や衣装を加えると45万元(約900万円)から50万元(約1000万円)程度まであがる。それにしても約1000万円投資して、ありきたりなシナリオで当たれば20億円を稼げるのなら、これは確かに作らない手はない。ただ既にピークは過ぎていて、今から作ってもできたころには競争は激しく視聴者からも飽きられていて稼げないだろうと分析されている。最初に一山当てた人々は今、反撃、復讐、古代モノをテーマとしたショートドラマを制作している。また性格が悪すぎる嫁対義母の極端な対立や、モラルを越えた不倫を描いたテーマにしたものも既にあり、暇を持て余す中高年が見続けると悪い影響が出るのではと心配されるコンテンツも横行している。
高齢者の購買力は若者よりもさらに強い。 「中国高齢化産業発展報告」は、2050年までに中国の高齢者人口の消費潜在力が4兆元(約80兆円)から106兆元(約2100兆円)に増加すると予測している。短編ドラマに限っては、多くのネチズンがソーシャルメディアで不満を漏らしており、親たちは倹約には慣れているかもしれないが、短編ドラマにお金をかけるのは悪いことではないという人もいる。
一方で高齢者は騙されやすい。そこにつけこんだ虚偽広告や高すぎる請求額や返金できないシステム、低俗すぎるコンテンツといった苦情も消費者センターに届く。怒られるまで荒稼ぎというのは中国の新サービス勃興期によく見られる光景で、しばらくは需要急増とそれを狙った悪徳業者によるカオスが続くだろう。
(文:山谷剛史)
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