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中国では、ゲーム・マンガ・アニメを中心とした「二次元文化」と呼ばれるサブカルチャーのファン層が年々拡大している。日本で言うところの「オタク文化」に近い存在だが、中国ではそれに対するネガティブなイメージは比較的少ないようだ。
中国SNS大手の微博(Weibo)が発表した「2025年汎二次元内容生態研究報告」によれば、二次元ファンの数は5億人に達するとされている。こうした背景を受けて、日本のコミックマーケット(コミケ)のように、二次元に特化した同人イベントも中国各地で盛んに開催され、高い人気を集めている。
近年では、日本など海外発コンテンツに加え、中国国内で制作された人気コンテンツも台頭し、ファン層の年齢が徐々に高まるといった変化も見られる。こうした背景のもと、中国の二次元ファンイベントの運営や内容に変化が起きている。
ファン層の高齢化と女性化、イベントも「体験型」へシフト
中国の大都市圏(一線都市)のイベント業者によれば、来場者の中心は中高生だが、近年は中年層の来場も目立ち始めている。また、新型コロナウイルス流行前は男性ファンが多数を占めていたが、現在では女性の比率が高まり、イベントによっては7割近くが女性という。
ゲーム全般やフィギュア関連のイベントでは依然として男性の参加者が多いが、漫画やアニメでは女性ファンが目立つ。中国各地の都市にあるグッズショップでも同様の傾向が見られ、性別で見ると女性ファンの方が顕著に多いことがうかがえる。
イベントの内容も変化してきた。かつては各サークルによる同人グッズの販売合戦だったが、近年は声優や著名コスプレイヤーとのサイン会などの交流イベントなどの体験型へ比重が移りつつある。こうした変化に伴い、声優やコスプレイヤーの出演料に必要なコストがどんどん高まっていく。コスプレイヤーの料金は過去2年間で概ね2、3倍から著名な人物では10倍まで跳ね上がり、100万元(約2000万円)近くかかるのも珍しくないという。加えて開催場所のテナント料もそれほど下がることはなく、イベントのニーズはあるのに来場客を呼ぶのには場所代もかかるしゲスト料もかかると、開催のハードルがあがっていた。
“出展難民”が生んだジャンル特化型
そうした背景の中、中国の二次元イベントにとって転機となる出来事が2024年末に起きた。それが、中国最大級の同人イベント「第30回COMICUP展会(CP30)」だ。前回のCP29の初日の来場者数が20万人超で記録を更新した。こうした流れを受け、CP30ではさらに人が増えるだろうと、上海国家会展中心を使用し、1日あたり1万近いブースを用意した。しかし、申請ブース数はそれを遥かに超える4万4000となり、用意されたスペースを大きく上回る事態に。出展できず、行き場を失ったファンサークルの一部は、ジャンルやコンテンツごとに自主的に連携を始めた。この動きがきっかけで、「Only展」「O展」と呼ばれるジャンル特化型の小規模ファンイベントの開催が急激に増加した。
「Only展」とは、特定の作品やキャラクター、ジャンルに特化している。たとえば、「呪術廻戦」のみを対象としたイベントや、同作の登場人物の「五条悟」だけに絞ったもの、さらに「五条悟」と「伏黒恵」の組み合わせに限定したファンイベントなどがある。ジャンル別では、「ボーイズラブOnly」や「VTuber Only」といった形式もある。変わったところでは、母の日に合わせ、「SPY×FAMILY」のヨルや「推しの子」のアイなどに絞った「母キャラOnly」や、「カードキャプターさくら」や「とある科学の超電磁砲」などに絞った「過去作Only」といったユニークなテーマ設定もある。そこではファン同士が集まり、コスプレやダンスパフォーマンスを行ったり、同人誌やグッズ販売を行う。規模によっては、著名コスプレイヤーや声優を呼んだりしている。

手作り感のある小規模イベントだけに、Onlyの開催コストは二次元全般のイベントに比べて比較的低く、ターゲット層もより明確だ。参加者は好きなコンテンツで集まるので、よりマニアックなファン交流ができ、同人作品を発表したら受け入れてくれる場があるとして、大都市の一線都市や、省都クラスの二線都市でのOnlyの開催数は増加の一途だ。特に活気のある上海では1カ月で12以上のOnlyが開催され、また中国全土で5月だけで中国産乙女ゲームOnlyが70回余り開催されるという。
Onlyもまた支える主な層は女性消費者であることから、集客するために女性ファンを意識したイベントとなりやすい。あるOnlyでは500枚のチケットが売れ、その80%が若い女性、それも未成年が多いという。ただマイナーなテーマだと集客が少なく採算が撮れないケースが多い。そのため、人気のないIPをテーマにしたOnlyはほとんど開催されず、どうしても定番のOnlyばかりとなる。たとえば、前述の呪術廻戦の「五条悟」と「伏黒恵」の組み合わせだけに絞ったイベントは上海で開催されたが赤字に。また、二線都市以下では、まだまだ小さい場所を借りての開催が一般的で、販売チケット数も限られることから、収益を確保するのが難しく、赤字を抱える主催者も少なくない。
拡大する地方都市のイベント需要
Onlyとは別に、もうひとつ大きな変動も紹介したい。中国の三線都市以下とされる地方都市で、アニメ・漫画・ゲームなどの二次元全般をカバーする大型イベントの開催が増加しているのだ。大都市ではイベント開催にかかる費用は年々高騰し、競争激化している。一方で、地方都市では比較的低予算でもイベントを開催できる。こうした動きは、二次元に限らず、地方都市へのビジネス展開を模索する中国全体の経済トレンドとも重なる。地方での集客を可能にしているのは、学生などが当たり前のように二次元を楽しむようになり、イベントを開催すれば人が集まってくるようになったからだ。地方都市でもOnlyイベントはあるにはあるがファンの絶対数が限られているので、「原神」などのビッグタイトルのOnlyや、漫画限定Onlyといった比較的広い層をターゲットとしている。
近年、中国ではアニメやゲーム関連のグッズショップがショッピングモールの客寄せとなっている。これと同様に顧客を呼びたいショッピングモールがイベント会社に依頼し、イベントを開催するときがある。また、入場料を取る有料イベントの場合、中国向けTikTok「抖音(Douyin)」をはじめとする動画・ECプラットフォームが補助金を出し、チケット販売を支援することもある。
例えば、本来80元(約1600円)の二次元イベントのチケットが、抖音経由で12.9元(約260円)と大幅な値引き価格で購入できる。このようなプラットフォームによる補助は、地方都市でのイベントへの送客を後押しするだけでなく、抖音のユーザー拡大、モバイル経由での消費習慣の定着にも貢献している。まだ、アプリ経由の消費が浸透してない地域で、若年層を中心にデジタル消費を根付かせることにも一石を投じているわけだ。このように二次元イベントは周辺経済にも恩恵をもたらしている。
約20万人のフォロワーを抱えるコスプレイヤーが、あえて大都市ではなく、地方都市の二次元イベントだけに参加し、ファンと交流するという動きもある。地方のファンは一度ファンになってくれると継続的にファンでありつづける傾向があることから、名前を覚え、ファンの要望に積極的にこたえようとする。低価格で楽しめてファンと交流できるというのは、以前紹介した、人気となっている中国の地下アイドルのファン活動に通じるものがある。
大都市での二次元人口がイベントのキャパオーバーとなった結果、Onlyと地方イベントが拡大した。今後さらに増える二次元ファンに業界はどう対応していくのか、注視していきたい。
(文:山谷剛史)
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