低品質・高価格の万博EVバス、1社独占で150台受注。なぜBYDは「蚊帳の外」だったのか?ーー後編

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低品質・高価格の万博EVバス、1社独占で150台受注。なぜBYDは「蚊帳の外」だったのか?ーー後編

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大阪・関西万博で走るEVバスは、大阪メトロ発注の150台(万博シャトル)と大阪市内オンデマンド40台の計190台。いずれも北九州市のEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)が取り扱い、中国メーカー製(WISDOM/YANCHENG/VAMO)だ。なお、オンデマンド車両は不具合多発で運行停止中。

前編の記事では、その3社の車両について整理した。本稿では、世界的実績のある中国BYDが採用されず、EVMJが1社独占で受注に至った経緯を詳しく追う。 

大阪・関西万博のEVバス、日本製だと偽り不具合多発!製造元の中国3社の実像:https://36kr.jp/376370/

2022年時点では「BYD採用」だった? 関係者証言

EVMJが万博バスと同じWISDOM製EVバスを初めてバス事業者に引き渡したのは2022年である。なお、この年の納車は那覇バス2台と伊予鉄バス1台の合計3台だけ。一方、BYDは2015年2月より京都の路線バス(プリンセスライン)にはじまり、10年間で約500台を納車している。世界的にも大型商用EVのトップクラスの販売台数を誇り、2025年8月現在の累計販売台数は8万台を超えている。有名なロンドンの2階建てバスもBYD製になって久しい。

ロンドンで走る2階建てのBYD製バス

筆者は2018年頃から全国のBYDバスを導入する事業者に取材をしており、北は福島県大熊町、南は沖縄やんばるの森に至るまで30近いバス会社や自治体に話を聞いてきた。タイヤがパンクしてその新しいタイヤが来るまで時間がかかったというトラブル例はあったが、走行不能となるような不具合はなく、アフターサポートもおおむね満足のいくものだとの評価が多い。

万博で採用するEVバスならBYDのような安心・安全第一の製品にすべきではなかったのか?と思うが、BYDバスは入札にも参加していないとのこと。不思議に思って取材を進めていたところ、関係者から驚く話を聞いた。

「2022年頃、大阪シティバス(大阪メトロの子会社)向けにBYD K8の試乗を実施しました。アルファバス(本社:中国江蘇)と比較のうえ、万博導入の大型EVバスはK8に決めていたんです。しかし、その後親会社の大阪メトロへBYDバス購入に関して稟議を上げた際に『EV モーターズ・ジャパンという会社が扱うEVバスもあるからそこも検討するように』との指示がありました。詳しい経緯は聞いていませんが、気づいたらEV モーターズ・ジャパンが万博用に100台(のちに150台)のEVバスを受注したことを知りました」

また、BYDやアルファバス以外にも話が来ていた。ジーリーグループ(吉利汽車)の商用車専門子会社 「遠程汽車』(Farizon Auto)」にも打診があったというのだ。

「2022年1月末、万博の関係者からFarizonのEVバスを万博で使えないか?という話が来ました。最終的には、『中国製のバスなので採用しないことになった』と聞かされて終わりました。万博は日本製のEVバスで揃えたかったのでしょう。」

つまりBYDもファリゾンも「日本製のEVバスではない」という理由で万博での採用が見送られることになった。では1社独占で150台が採用されたEVMJのバスは日本製なのか?答えはNOである。

確かに2022年〜2023年頃のEVMJ佐藤社長のインタビュー記事には「2023年中には工場が完成し、国内での最終組み立てを始める」といった内容であふれている。この時期は、記事を書いたメディアも日本政府も万博協会も大阪メトロも、「国内製造のEVバス」であることを信じて疑わなかったはずだ。

しかし「国産EVバス」は2025年9月現在も実現には程遠い状況である。北九州市若松区の同社工場(ゼロエミッションパーク内、100億円工場としても有名)の建設が資金不足で遅れたこともあり、2025年春にやっと第二期工事が終わった。100億円工場は筆者も現地まで行って見てきたが、確かに巨大で立派な建物であった。同じ敷地内に高級感漂う新社屋も併設されている。

「国産EVバス」計画は未達、工場は最終架装のみ

万博向けバスを含めて現在も、この巨大な工場の中で最終組み立ては行われていない。最終の架装(料金箱や行先表示、乗降用ボタン、ドラレコ設置など)だけが行われていると聞いているが実際はどうなのか?

「それらの最後の架装は一時期福岡県内のバス会社に委託していましたが、現在は工場内で行っています。工場の中は全国から不具合多発で『返品』されてきたEVバスがたくさん入っていて、現場の担当者が対応に当たっています。現場は本当に一所懸命、何とかバスが再び不具合なく走れるように必死で修理や点検をしています。バス会社やバスを購入した自治体からクレームの嵐で、皆さん、疲弊していますよ。本当に気の毒です」

要するにEVMJのバスは万博含めてどれ一つとして国内最終組み立ては現状、できていない。では、ファブレス(製造工場を持たない)なのか?というと、実はファブレスとも言えない。

なぜなら…

「ファブレスなんてとても言えない状況です。配線図さえ渡してこないんです。全く相談や報告もなく勝手に中国メーカー側で仕様変更(座席の数を減らすなど)して日本に送ってきます。契約書では開発契約・売買契約・アフター契約になっていますが、実際は『書類は書類。オレ(某中国メーカーの担当者)が法律!』とまるでチンピラみたいな会社なんです。架装部品の設定をするので依頼しても本当に最小限の部分しか図面を送って来なくて不十分です。正確な架装なんてできませんし、エーミング(車両に搭載された『電子制御装置』を正常に動作させるための校正・調整作業のこと)も行わずに客先に納めています」

「実際、契約書といえばバスの売買契約書しかありません。アフターケアやその他の契約は何もない(あるとしても隠しているかも)、という状態です。その状態で何かの情報提供を呼びかけても、『契約が無いから』と中国側からは言われています。」

信じられない状況だがこの状態ではとてもじゃないが、ファブレスとも言えない。万博で1社独占、大量採用されたバスメーカーがなぜこんなに低品質なのか?実際にトラブルも多発しており、中にはブレーキホースの損傷など大事故につながりそうな危険極まりない不具合報告も複数寄せられている。

万博会場内を走る「e Mover」ウィズダム製

高価格・高補助の構造

そしてさらに驚くのはこんなに低品質なバスであっても価格を高く設定することで高額な補助金が簡単に出されている事実である。年間400億円の予算がついている環境省の「商用車等の電動化促進事業(タクシー・バス)」においては、バスの小売価格やパワー、環境負荷度の低さ、独自の新技術、環境にやさしい素材を使うなどで補助金の基準額が決定するが、これも実車を持ち込んでの電費測定テストは一切なく、すべてカタログ数字などを記入するだけの超簡単な審査とされる。

その結果、コスパの良いBYD(J6やK8)より品質評価の低い中国3社(WISDOM/YANCHENG/VAMO))で、バスの補助金はおおむね300万円~500万円前後高額に設定されている。不具合多発で1年のうちほとんど工場に入っていたとしても事業報告書の「走行距離」に記入する数字は自己申告であり、 あまりにもザル審査で多額の補助金が購入事業者のところに流れている。

国交省は総点検を指示

9月上旬、日本の国交省はEVMJが輸入した300台以上のEVバスの総点検を命じた。筆者のところには非常に危険な不具合も多数報告されており、点検結果を虚偽の内容にすり替えたケースもあるという。それらは万博バスの中にも存在している。

万博開幕まで残りわずか。来場者の安全を最優先に、透明性のある点検・是正と、運行判断の徹底が求められる。

前編ー大阪・関西万博のEVバス、日本製だと偽り不具合多発!製造元の中国3社の実像:https://36kr.jp/376370/

(文:自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子)

※本記事は寄稿によるもので、記載内容は公開情報や取材をもとに編集しております。当メディアはその正確性や完全性を保証するものではありません。

 

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