36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。
原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録
フレキシブル触覚センサーを手がける中国スタートアップ「悟通感控(Wutong Sensing Control)」はこのほど、プレシリーズAとその追加ラウンドで数千万元(数億円)を調達した。出資者は尚勢資本(Shangshi Investment)や広発基金(GF Fund)傘下の瑞元資本(Ryan Capital)など。
悟通感控は2023年設立。静電誘導方式の薄膜センサーを独自開発し、ロボット向け「電子スキン」の大規模商用化を後押ししている。エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)時代では、ロボットが精密な操作を行うには、人間の皮膚に近い高感度な触覚が不可欠だ。同社は第4世代静電誘導技術によって、これまで両立が難しかった感度・安定性・計測範囲の課題を同時に克服した。
「イオン顕微鏡」に着想、安定量産を実現
悟通感控のコア技術である静電誘導式フレキシブルセンサーは、イオン顕微鏡の原理に着想を得た。イオン伝導材料が電極界面で形成する「電気二重層」を利用することで、加圧時には従来の静電容量式センサーよりも1000倍強い電気信号が発生する。感度の高さと測定範囲の広さを兼ね備え、紙1枚分の重さの変化を感知する一方で、最大4メガパスカルの圧力にも耐えることができるため、「軽いものをうっかり壊さず、重いものも滑り落とさない」ロボット制御を可能にした。
フレキシブル材料では、高温下での継続的な荷圧によるひずみや、計測値が徐々に基準値からずれていく現象が起こりがちだ。悟通感控はこれらの問題を解消するため、材料内部に高弾性ネットワークを構築して分子鎖を固定する「分子固定法」を開発した。実測では1万回の加圧後でも誤差は3.34%にとどまり、長時間加圧した際のひずみの発生率も10分の1程度に低下した。また、電気回路を通じて温度の干渉を打ち消せることも実証されたという。
量産に向けた準備も進んでいる。従来の静電誘導式センサーはリソグラフィ技術に依存しているため、生産コストが高額になる。一方、悟通感控の独自技術では、材料自体が雪の結晶のように自然に微細構造を形成するため、エッチングの工程や金型が必要なく、生産コストを大幅に下げられる。すでに2000平方メートルの研究開発・試作ラインを設けているほか、中国初のイオン性薄膜の量産ラインを建設中で、主要原材料の国産化も実現している。
医療から新エネまで、幅広い分野に応用
同社が最初に注力したのは医療機器分野だ。人工膝関節置換手術では、術後の安定性が医師の経験に依存しやすいという課題がある。悟通感控の圧力センサーパッドは、大面積のフレキシブルセンサーアレイを採用し、関節内の圧力分布をリアルタイムで可視化する。これにより、医師の感覚的判断が客観的データに置き換わり、手術の精度が大幅に向上する。整形外科機器大手の春立医療(Chunli Medical)などと提携し、臨床試験と商用化段階に入っている。
リチウムイオン電池の安全監視にも応用を広げている。従来のBMS(バッテリーマネジメントシステム)は電圧・電流・温度を監視するが、熱暴走の初期兆候を検知しにくい。悟通感控は電池モジュールにフレキシブル圧力センサーを内蔵し、電池膨張をリアルタイムで監視。圧力信号は他の指標よりも早く異常を示すため、熱暴走や衝突を早期に検知できる。
すでに国家重点プロジェクトの検証に合格し、蓄電システム関連設備への大規模導入を実現。また、中国南方電網、国家能源集団、中国自動車技術研究センターなどの国有大手企業と連携している。
エンボディドAI時代の“電子スキン”へ
電子スキンは、エンボディドAIを支える鍵となる部品だ。悟通感控のセンサーは医療用テープのように薄く柔軟で、ロボットの指先や関節部に貼るだけで繊細な触覚を付与できる。これにより、サービスロボットや産業用ロボットの把持力や精密作業の効率が向上する。
調査会社QYResearchは、世界のフレキシブル触覚センサー市場は2022年の15億3000万ドル(約2200億円)から29年には53億2200万ドル(約7800億円)に拡大し、年平均成長率は17.9%に上ると予測する。とくに医療向けとロボット向けが成長の原動力になるとみられる。
悟通感控は現在、「二輪駆動」戦略で事業化を推進していく方針だ。医療分野で安定したキャッシュフローを確保する一方、新エネルギーとロボティクス領域で高成長を目指す。技術の成熟とコストの低減が進むにつれ、触覚センサーはスマートデバイスの標準機能として普及し、機械が“世界を感じ取る”時代が現実味を帯びてきた。
*1元=約21円、1ドル=約147円で計算しています。
(翻訳・田村広子)
36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。
原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録





フォローする
フォローする



