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世界的ヒットとなったぬいぐるみ「LABUBU(ラブブ)」を追い、ポストPOPMART(ポップマート)を狙う戦いも激しくなっている。雑貨大手の名創優品(MINISO)傘下の「TOP TOY」や「52TOYS」がライバルに挙げられることが多いが、最近の話題の中心はLABUBUのマーケティング手法を徹底的に模倣し、芸能事務所の後押しもあってヒットしている「WAKUKU(ワクク)」だ。
パクリとは思えない人気ぶり
LABUBUは急に人気が出た新星のように見えるが、実際は10年近く前に生み出されたポップマートの古参IPだ。昨年、K-POPグループ「ブラックピンク」のタイ人メンバーであるリサがSNSで紹介したことで、グローバルでの人気に火がついた。
一方、WAKUKUは2020年に創業した深圳熠起文化(Letsvan)が2024年に立ち上げたばかりの新参IPだ。つながった眉毛と上目遣いが特徴で、「古い部族のハンター」という設定。LABUBU人気にあやかってつくられたのは間違いない。
普通に考えれば「パクリ」と一蹴されそうなものだが、実際はアリババグループやJDドットコムのECサイトでよく売れており、販売ランキングでポップマートのIPといい勝負をしている。既に日本にも上陸しており、販売代理店を務めるハシートップインは「アジアで人気があり、有名俳優やアイドルもハマるなど話題を呼んでいる」と紹介。しかしこの文言にはからくりがある。
マーケティングを完コピ
Letsvanは中国の大手芸能事務所で、王一博など人気タレントを多数抱える「楽華娯楽」と提携しており、同事務所に所属する著名タレントが昨年以降SNSで度々WAKUKUを紹介することでバズを生み出した。Letsvanと楽華娯楽は最近、合弁会社も設立している。
つまり、SNSでのワククブームは大手芸能事務所が全面的に関与してつくられた。
中国メディアによると2024年末に放送された中国ドラマ「永夜星河(えいやせいが)〜シークレット・ラブミッション〜」がヒットすると、主演の虞書欣(ユー・シューシン)と丁禹兮(ディン・ユーシー)がSNSでWAKUKUを紹介し始めた。2人とも楽華娯楽に所属している。
虞書欣はさらに、芸能人仲間だけでなく、2021年の東京五輪、2024年のパリ五輪で金メダルを獲得した飛び込み競技の全紅嬋選手にもWAKUKUを贈った。マスコットを受け取った著名人がSNSで紹介し、WAKUKU関連の投稿は10億回以上のインプレッションを獲得したという。
著名人の発信力とファンマーケティングというLABUBUがブレイクした道筋を高度にコピーし、瞬く間に露出を増やしたのだ。
WAKUKUは海外進出もLABUBUを模倣している。中国メディアによると最初の進出先としてタイを選び、現地の著名人であるFaye Peraya(フェイ・ペラヤ)をアンバサダーに起用、限定版の先行発売によって話題性を高めた。
販売チャネルはMINISOに便乗
WAKUKUはマーケティングにおいてLABUBUを模倣しつつ、販売チャネルはポップマートのライバルに乗っかった。ポップマートのライバルの一番手に名前が挙がるのは、世界中に店舗を展開するMINISOが2020年に設立したTOP TOYだ。自社IPを軸に直営店を出店してきたポップマートの店舗数が2024年末で401店なのに対し、MINISOはフランチャイズを基本としており2024年末時点で7504店(うち海外が3118店)を展開する。LetsvanはMINISOとTOPTOYを通じてWAKUKUを販売することで、自社店舗を出すことなく販路を構築できた。
LABUBUの“平替”需要
WAKUKUは誰がどう見てもLABUBUの便乗商法だが、LABUBUが入手困難でプレミアムがついていることを背景に、「LABUBUの平替」として売れている。平替とは有名ブランド、人気ブランドの「コスパの良い似た代替品」というポジティブな意味で、景気が低迷する中で消費のトレンドとなっている。
メガヒットしたLABUBUの方程式を利用してWAKUKUが1年という短期間で成功したことは、日本のAKB、坂道グループのような「成功の方程式」を思わせる。
MINISOの店舗網はポップマートを圧倒しており、LABUBUより先にWAKUKUが投入される市場が出てきて、LABUBUのパイを奪う可能性もある。
いずれにせよ、ポップマートの正念場はLABUBUブームが一服した後だ。パクリが次々に現れてもブランド力が毀損されないように、強い追い風が吹いている今のうちにLABUBUや同IPが属する「ザ・モンスターズ」のストーリーや背景、さらにはポップマートというブランド名を海外でどれだけ浸透させられるかが成長持続の鍵を握っている。
文:浦上早苗
福岡市出身、早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で教員。現在は経済分野を中心に執筆編集、海外企業の日本進出における情報発信の助言を手掛ける。近著に『崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』(大和書房)『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。X: sanadi37
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