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「2019年のスマホ出荷台数が2億台を超えた!」中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の端末製品ライン総裁である何剛氏は10月22日、感嘆符が並んだ投稿を中国最大手SNS「WeChat(微信)」のモーメンツにアップした。2億台というのはシンボリックな数字で、昨年の世界出荷台数にほぼ匹敵する。
今年5月にファーウェイは非常に大きな危機を迎えていた。米国政府が、輸出規制対象を列挙する「エンティティーリスト」にファーフェイを追加したのだ。グローバル企業のファーウェイは、2018年のスマホ出荷台数のうち約半数を海外市場が占めた。特に欧州ではハイエンドブランドのイメージを確立しつつあり、昨年発売した「Mate20 Pro」の価格は1000ユーロ(約12万円)を超え、米アップルや韓国のサムスンと肩を並べた。
西がだめでも東がある。36Krが取材した流通業者は「中華圏全体が(ファーウェイの)生命線」と話す。もともと成長が鈍化していた中国のスマホ市場は、2019年に競争が激化。「今年は中国のスマホ市場が『hard』から『hell(地獄)』になった」と業界関係者は説明している。
冬から春へ、風向きが変わる
2018年12月、ファーウェイの創業者である任正非氏の娘で同社CFOの孟晩舟氏がカナダで逮捕された。この事件が同社製品に対する消費者の購入意欲を間接的に刺激するとは誰が想像しただろうか。販売チェーン店の幹部によると、アップル以外のブランドに消費者がこれほど熱狂するのは久しぶりだったという。
販売代理店にとってファーウェイの製品は、価格が高い上にマージンも大きい(18%前後)。加えて、今年の販売ペースは他ブランドを大きく上回っている。
流通の経験と資源を持つ小売業者がわずか10日ほどで製品の入れ替えと店舗の改修を終え、まさに一夜にして多くの地方都市でファーウェイ製品の販売店が次々と開店した。
中国のスマホ市場は今年第1四半期(1~3月)の成長率が3%に縮小しており、その中でファーフェイの成長率が2ケタ達したことは「恐るべき」と表現できる。
こうしてわずか2~3カ月で、ファーウェイ、シャオミ(小米科技)、「OPPO」「vivo」という中国の四大メーカーによる国内スマホ市場の均衡状態は打ち破られた。
任氏は今年3月、「米国政府がわれわれを宣伝してくれたことに感謝したい。ファーウェイの知名度は高まり、全世界の人々がファーウェイの存在を知った」と述べていた。
ただファーウェイは、国際情勢がまだ楽観できないことも理解していた。
春:危機、中国へのUターン
春は中米関係をめぐるニュースで埋め尽くされた。5月16日、ついに米国政府はエンティティーリストにファーウェイを追加。同20日には、米グーグルがファーウェイに対する基本ソフト(OS)「アンドロイド」およびその他サービスの技術的サポートと提携を停止したと報じられている。
グーグルによるサポートがこれほど早く停止されるとはファーウェイも想定していなかった。ファーウェイのコンシューマービジネスグループCEOである余承東氏は5月、テクノロジー系メディアの米「The Information」に対し、「ビッグサプライズ」という言葉で自身の思いを表現した。余氏は昨年、2019年第4四半期(10~12月)にサムスンを追い抜いて世界トップのスマホメーカーになると自信満々に語っていた。だが、日本市場では米国の輸出規制から一週間で、ファーウェイ製スマホの世界シェアは15.3%から5%へと大幅に下落した。
米ブルームバーグ通信は6月、ファーウェイの海外スマホ出荷台数が40~60%減、販売台数が4000~6000万台減となる可能性を報じた。
しかし、ファーウェイには幸運にも中国国内に依然として巨大な広がりを持つ市場があった。
4月末から5月初めに、ファーウェイは社内で販売促進戦略を打ち出した。その目標は今年の国内シェアを50%に引き上げることだ。余氏も同じ数値目標を公表しており、これは年内に国内で販売されるスマホの2台に1台がファーフェイ製になることを意味する。
このニュースが報じられると、業界ではかつて携帯電話市場を席巻したフィンランドの通信機器メーカー、ノキアを引き合いに出し、「50%とはどういうコンセプトなのか。ノキアの全盛期でも50%に届かなかったのに」という驚きの声が上がった。
夏:中国市場を攻める
ファーウェイが業界を掌握できるのは、技術力と製品力があるためだ。業界関係者の多くは、ファーウェイの反撃が成功したのは単に「愛国心」によるものではなく、結局は「製品が良かった」ためとの見方を示す。製造技術からチップ、カメラ、バッテリー、放熱性、システムの動作に至るまで全体的な評価が高い。
中でも、スマホ「P30」の貢献は大きかった。ファーウェイによると、P30シリーズ(廉価モデルのP30 liteを含む)の販売台数は発売からわずか85日間で1000万台を超えた。昨年発売された「P20」は1000万台に到達するのに147日かかっている。
中国のスマホ業界には、昔から販売チャンネルに関する暗黙のルールがある。仕入れた商品の一部を投機的な売買を行う業者へ安値で転売し、早々に資金を回収するというものだ。メーカーはこうした投げ売りがあることを知っているものの、販売チャンネルとの関係を保つために見て見ぬふりをしてきた。
しかし、今年のファーウェイは容赦しなかった。販売代理店から別の代理店への大規模な転売が起これば、価格は雪崩を打って下がってしまう。かつてのレノボ(聯想)や中国の新興スマホメーカー「魅族(Meizu)」のように在庫管理に失敗すれば、転売をコントロールできずに大きな痛手を負うことになる。
ファーウェイは販売業者に「クリーンな流通の確保」を繰り返し求めた。どの業者が罰せられたかなどの状況を毎週周知し、是正策も打ち出した。ファーウェイからのプレッシャーを受けた販売業者は、とにかく製品を売りまくるしかなくなった。
もちろんファーウェイは、販売業者にできる限りの支援も行っている。例えば法人向け販売では、販売代理店に業界ごとの担当チームをつくることを奨励し、各都市の大口顧客リストも渡しているという。
テクノロジー市場分析などを手掛ける「Canalys」によると、2019年第2四半期(4~6月)のファーウェイの国内シェアは38%で、全盛期のノキアと同水準に達した。
夏:OPPOとvivoの反撃
ファーウェイの攻勢によって、まずはOPPOとvivoの販売店が打撃を受けた。
5月にはOPPO製品販売店の閉鎖が加速。三級都市の販売業者は、市内にある大型販売店の7割がファーウェイの看板を掲げる販売店、もしくはファーウェイ製品専門販売店に変わったと話す。
この状況を乗り切るため、OPPOはすぐさま価格1000元台(約1万5000円~)のスマホを数機種リリース。サプライヤーとは本来700万台で確定していた1000元スマホの生産台数を一気に2300万台に増やしたが、全てが完成するのは来年だ。ただ、この動きはOPPOブランドの一貫した価値志向型価格設定と矛盾しており、シャオミにもプレッシャーを与えることとなった。
シャオミのスマホ「Mi 9」が今年初めに発売された一週間後に、vivoのサブブランドスマホ「iQOO」が正面対決に打って出た。iQOOの外観、レイアウト、マーケティング手法、そして価格設定まで、vivoはシャオミのやり方を踏襲している。また、OPPOがインドから逆輸入したサブブランド「realme」は5月に中国で初代「realme X」を発売し、シャオミのサブブランド「Redmi(紅米)」と真っ向からぶつかった。
必死に反撃するOPPO、vivo、シャオミだが、中国スマホ市場の落ち込みと共に出荷台数は減少している。市場全体で第2四半期のスマホ出荷台数の減少率は6.1%と、第1四半期に比べ2倍に拡大。ファーウェイの好調さが際立った。Canalysによると、第2四半期のファーウェイの出荷台数は31%増加した。
秋:技術
国産サプライヤーとって、今年はむしろめったにないチャンスとなり、ファーウェイのスマホが主導するかたちで国産パーツによる代替が突如として加速し始めた。関係者によると、昨年の売上高が4000万元(約6億円)だった部品メーカーは、今年の売上高が8000万元(約12億円)に上る見通しで、その大部分をファーウェイから受注したという。
だが同時に、国内のスマホサプライチェーンには緊迫した雰囲気も漂う。「期限に関する要求が厳しく、さらに素早い供給を余儀なくされている」と、サプライチェーンの関係者は話す。一方のファーウェイも国産サプライヤーに対する支援を強化し、多数の社員を工場に派遣してサプライヤーと共に品質向上を図っている。
ところが、重要部品の一部で国内メーカーの能力不足が露呈された。
顔認証によるロック解除機能はここ数年で最大のスマホ技術の進歩であり、三次元情報を計測可能なToFカメラによって実現した。ToFカメラのコアパーツとなるソニーのCMOSイメージセンサー「IMX」はデバッグがしやすいため、多くのメーカーが争奪戦を繰り広げている。ファーウェイは運良くこのセンサーを「Mate30 Pro」に搭載できた。
現在、ハイエンドフラッグシップモデルを1000万台以上売るのはアップルとサムスン、そしてファーウェイのみだ。業界関係者によると、P30の3Dモデルでファーウェイがソニーと決めたチップ価格は大口注文によって値引きされ、10米ドル(約1100円)以上する通常価格を下回るという。
しかし、ファーウェイが難関を乗り切ったと言うのは時期尚早だ。グーグルのアンドロイドとエコシステムという「大きな穴」を埋めるのはまだ難しい。業界では、ファーウェイが自社開発OSの「鴻蒙(Harmony)」をスマホに搭載せざるを得なくなるが、アプリのエコシステムを構築するにはどうしても2年はかかるとみられている。
任氏は7月に行った講演で「ファーウェイのコンシューマービジネスグループは長期にわたる困難な戦いを迎えるかもしれない」と話している。
(翻訳・神戸三四郎)
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