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中国は近年、アジアやアフリカなどの新興国で職業訓練校の建設を進めている。政府が全土で力を入れているわけではなく、一部地域が海外展開に積極的だ。特に北京に近い天津市と、ベトナムと国境を接する広西チワン族自治区の柳州市が中心的役割を担い、山東省、江蘇省や貴州省も職業教育の海外展開で実績を積み上げている。
国内で成熟した職業教育システム
中国国内には職業訓練校が多く存在する。街中では「当校では機械の組み立てを学べる!」といった職業訓練校の広告を見ることもしばしばある。2023年時点で、専門学校を含む職業学校は1万1000校超え、約3500万人の学生が在籍しているという。短大や大学教育を補完する世界最大規模の職業教育システムも形成されている。昨今人材不足とは言われているものの、毎年約1000万人の技能人材を社会に送り出している。
世界中に広がる「メイド・イン・チャイナ」の製品を支えているのは、大学・大学院卒の高度人材だけではない。専門学校出身の熟練人材が製造業や新興産業、サービス業の現場で重要な役割を果たしており、これらの分野の従業員の7割以上を占めるとされる。都市ごとに競合するほど職業訓練校の数が多く、モノづくりの現状を考えれば、職業教育のノウハウは相当に蓄積されている。
この教育システムを海外にも展開しようというのが、現在の動きだ。近年、中国企業はTemu、ShineやAliexpressなどの越境ECプラットフォームへの出品や、外国向けに特化したスマート製品を通じて市場を拡大している。特に第2次トランプ政権以降、中国への制裁リスクを踏まえ、生産拠点を海外に移す動きも強まっている。こうした潮流の中で、職業訓練校の海外展開が進んでいる。
国際職業教育ブランド「魯班工房」、23カ国に展開
天津では2015年、「一帯一路」構想の一環として国際職業教育ブランド「魯班工房」を立ち上げた。現在までに計23カ国(うち12カ国はアフリカ)で展開しており、中国と現地の教育機関が提携して各国の産業ニーズに合わせて、共同でプログラムを開発。結果、これまでに数百種の教育コースが設けられ、延べ7000人を超える魯班工房の教員を育成し、3万3800人の学生が学び、12万人超の人々が技能訓練を受けている。
最初の魯班工房は2016年にタイのアユタヤに設立された。当初のコースはメカトロニクスのみで学生数は20人規模だったが、やがてIoT、鉄道メンテナンス、スマートカーなどを含むプログラムへと拡大し、高い就職率を実現した。似たような例はパキスタンのパンジャブ州の魯班工房において、電気自動化技術とメカトロニクス技術の2つの専攻を開発。パキスタンの学生はドローンを使った農地への農薬散布を学んだ。ケニアの魯班工房では、ヒューマノイドこと二足歩行ロボットのコーディングや訓練を学ぶ環境ができている。
物流や交通系は一帯一路の色合いがより強い。中央アジアのウズベキスタンでは現代物流管理と情報技術の専攻を設けていて、スマート物流シミュレーション研修室をつくり、ウズベキスタンの学生はインテリジェント物流業務の全プロセスを実際に体験して学べるようになった。またアフリカのジブチでは、鉄道工学技術と鉄道運行管理という2つの教育プログラムを設け、アフリカ初の国際電化鉄道であるアディスアベバ・ジブチ鉄道の運行を担う人材育成に貢献した。
柳州は現在25校の専門学校と約14万人の学生を擁すパイロット都市だ。建設機メーカーの柳工集団や自動車メーカーの上汽GM五菱や東風柳州汽車といった柳州発の企業のグローバル展開と連動して職業教育を推進している。コース設計や教材開発は企業の実際のニーズに完全に基づき、研究成果を体系化して教材化。さらに各国のニーズに対応するため、ASEAN各国の言語など外国語にも翻訳して展開している。
中国式職業教育モデルの狙い
これまでタイ、ベトナム、インドネシアなどASEAN諸国に加え、アフリカのガーナなどでも教育プログラムを提供。中国語や専門技術を学ぶほか、優秀者は奨学金や中国本土での研修やインターンシップを受けることができるという。
現地の若者にとっては技能を身につける機会となり、中国企業にとっても海外拠点で即戦力を確保できる利点がある。こうして、中国式職業訓練校は学費収入と、現地の企業は有能な人材の雇用創出を両立するモデルとなっている。
日本でも企業主導の職業教育は珍しくない。大学を挙げても豊田工業大学や流通経済大学などがある。中国の特徴は、それを国外へ展開し、自国企業の海外進出に対応する人材を現地で育成する点にある。結果的に比較的優秀な人材を現地で育てて選別して採用していくことから、今後しばらく中国企業は世界各地で人材不足に悩む可能性は低くなるだろう。
(文:山谷剛史)
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