AIで“仮想細胞”を再現──中国・百曜科技、基盤モデルの産業応用へ

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人工知能(AI)を活用し、細胞の反応や挙動をコンピューター上で再現する「仮想細胞」技術に注力する中国スタートアップ「百曜科技(BaiYao Technology)」はこのほど、エンジェルラウンドで数千万元(数億円)を調達した。峰瑞資本(FreeS Fund)が出資を主導し、順禧基金も参加した。

百曜科技の創業チームは2023年に、億単位のデータ量を誇る生物種横断的な単一細胞の事前学習基盤モデルを発表した。その後さらに改良を加えて、グラフ構造に基づく新モデルへと進化させ、AIが遺伝子制御や異なる環境における細胞の状態変化の法則を理解し、実際の細胞の振る舞いを再現できるようにした。この成果は、中国学術誌の「Cell Research」で巻頭論文として紹介され、「Advanced Science」「National Science Review」など国際誌にも掲載されている。

同社の基盤モデルは、事前学習とファインチューニングを組み合わせたもので、高い汎用性を備える。これにより、産業応用可能な仮想細胞プラットフォームの構築に向けて、技術基盤が整ったとする。

事前学習については、基盤モデルに生物学的な知識を組み込み、学習の指向性を高めることで、より生物学の理論に沿った出力結果が得られるようになる。また、10億を超える単一細胞の遺伝子発現データを初めてモデルに統合し、ヒトとマウスを用いた生物種横断的な学習を実施。これにより、動物実験データをヒト細胞の予測に効果的に転換できる可能性が生まれ、応用範囲は基礎研究から創薬、細胞治療まで広がる。

仮想細胞技術は近年、新たなバイオ×AI領域として注目されている。高精度な細胞データ取得が可能となり、生命情報が多層的に蓄積されることで、AI解析の前提条件が整備されつつあるためだ。

政策支援も追い風となる。中国は第14次五カ年計画で「AI生命科学」を国家戦略に位置づけ、研究インフラ整備を加速。米国でもFDA(食品医薬品局)が2025年4月、抗体医薬開発でAIモデルや臓器チップを動物実験の代替として推奨する方針を示した。

事業化については、米国のXaira TherapeuticsやAsimovといった企業がすでに模索を始めており、がんの新たな分子標的の発見や幹細胞の分化誘導、細胞の工学的改変などの分野で仮想細胞モデルの応用を試みている。

百曜科技は「仮想細胞は、基礎研究や新薬開発における重要課題の解決に貢献する。将来的には細胞の動的プロセスをデジタル空間で完全再現できるようになるだろう」と強調する。

しかし仮想細胞の構築は、極めて複雑で多元的な課題を伴う壮大なプロジェクトだ。アルゴリズム開発の難しさに加えて、強力な演算能力や高品質データなどのリソースが不可欠だ。より完全性の高い仮想細胞モデルを作り上げるには、数百億ドル(数兆円)規模の投資が必要ともされる。同社は「技術はまだ黎明期にあるが、すでに理論的な有効性は実証された。今後、高品質データ蓄積とアルゴリズムの進化により、研究やバイオ医薬産業の効率は劇的に向上する」と展望を示している。

*1元=約22円、1ドル=約154円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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