ヒューマノイド量産の鍵は「データ」、モーションキャプチャー世界首位・中国Noitomの次の一手

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モーションキャプチャーデバイス出荷量で世界トップシェアを誇る中国のテック企業「諾亦騰科技(Noitom Technology)」の共同創業者・戴若犂氏は2023年末、印象的な2本の電話を受けた。米国のロボット製造ユニコーンと大手自動車メーカーが、それぞれモーションキャプチャーを110セット購入したいという話だった。

Noitomは2012年設立で、業務用モーションキャプチャー市場において世界シェア7割を握る。米国の大ヒットドラマ「ゲームズ・オブ・スローンズ」、映画「ウルヴァリン」や「スターウォーズ」などにも同社製品が使用されている。通常は映画制作向けに数台単位で購入されるが、100台超の注文は異例だった。

実は、この注文は映画撮影のためではなく、人型ロボット(ヒューマノイド)のトレーニング用だった。エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)の開発が盛んになるにつれ、質の高い人間の動作データが不足するようになっていたが、Noitomのモーションキャプチャー技術は、高品質で多様な動作データを効率よく収集するのにうってつけだったのだ。

モーションアクターが、頭・手足・腰など主要な関節にセンサーやマーカーなどを装着し、さまざまな動きをする。そこから収集したデータを、遠隔操作などを経てロボットのセンサー情報や運動制御情報としてマッピングし、ロボットに学習させる。まさに手取り足取り、ロボットに動きを教えるのだ。

Noitomの遠隔操作システムを使いデータ収集する「PNDbotics」の人型ロボット「Adam-U」

こうした流れを受け、戴氏はロボット領域に注力する方針を固めた。2025年初めにロボティクス事業部を独立させ、ロボット向けデータサービスに注力する「Noitom Robotics(諾亦騰机器人)」を設立した。新しい会社が9月にエンジェルラウンドで数千万元(数億円)、11月にプレシリーズAでも数億元(数十億円)の資金調達を実施している。

収益化で先行、数億円を受注

Noitom Roboticsは既に収益モデルを確立している。2025年1-8月の受注額は数千万元(数億円)に達し、前年同期比で6倍となった。アリババ達摩院(Alibaba DAMO Academy)や智元機器人(Agibot)、バイトダンス(字節跳動)、小鵬汽車(Xpeng)、テンセントなど中国の主要ロボットメーカーほぼ全社がNoitomの製品をデータ収集用に購入しているほか、大学の実験室や地方政府の研究施設との協力も進んでいる。

Noitom Roboticsのビジネスモデルは、「Project T」(遠隔操作)と「Project D」(データ収集)に大きく分かれる。

Project Tは、モーションキャプチャーの販売から導入支援までを一手に担う。将来的には、人型ロボットを工場や家庭に導入する際に、遠隔介入や緊急時対応などを含め安全に活用できるシステムも提供する。

Project Dは、広東省深圳市に建設予定のデータ収集工場で数十万時間分の人間の動作データセットを構築し、ライセンス付与やサブスクリプションにより収益化することを計画している。

戴氏は、Project Tの売上高は年間数億元(数十億円)、Project Dは数十億元(数百億円)になると見込んでいる。

Noitom Roboticsとロボットの遠隔操作やデータ収集で協力する顧客

ロボット用データ収集の難題を解決

ロボット業界では、どのようなデータが必要かという点について考え方が分かれている。膨大な実機データを使う模倣学習用モデルが必要と考える人々と、統一モデルが存在しないままやみくもにデータを積み上げても効率は上がらず、コストがかさむと考える人々がいるのだ。実機データは数々の制約を受けるため、インターネットの動画データを直接ロボットに与える、AIを使って合成データを生成する、あるいはモーションキャプチャーを使って人間のデータを集めてそのまま利用するなど、多くのメーカーはデータの範囲を拡大するという手段を選んでいる。

ロボットがネット動画から世界を学ぶ。中国新興のAIデータ革命、収集コストは200分の1に

意見の溝が埋まらないことから戴氏は、必要なデータを4層に整理して説明する。

  1. 最上層:100〜1000時間の実機データ(高品質だが高コストで汎用性低い)

  2. 第2層:1万〜10万時間の高精度な「人間とのインタラクションデータ」

  3. 第3層:100万〜1000万時間の低精度インタラクションデータ

  4. 最下層:数億時間の動画データ・合成データ

Noitom Roboticsの人型ロボットが遠隔操作によりデータ収集するフロー

戴氏も、実機データで盲目的に汎用性を追求することに反対している。「自動車の実証が10万キロメートルで十分であり、10億キロメートル走らせる必要がないのと同じ理屈で、遠隔操作に関して膨大な量のデータを求めるのはおかしなことだ」とし、「人間の動作こそが汎用性の源泉だ。開発チームは、掴む、持ちあげる、ひねる、押すといった動作を細かく分解し、長期的なタスクの設計を通じて、データ収集工場で体系的にデータを収集している。ちなみに、戴氏は、低精度ながら大量の人間データを収集する手段として「AIスマートグラス」が最も有効だとみる。

Noitom Roboticsはすでに数十万時間分のデータセットを構築中で、一部はオープンソース化する予定だ。

Noitom Roboticsのデータ収集工場イメージ

*1元=約22円で計算しています。

(翻訳・36Kr Japan編集部)

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