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中国IT大手のアリババグループで、ビジネスツールなどのプラットフォームを手がける「DingTalk(釘釘)」が、日本市場を皮切りに本格的なグローバル展開に乗り出す方針を示した。
その先鋒として送り込まれるのが、AI搭載ボイスレコーダー「TALIX & DingTalk A1」だ。2026年1月5日から自社サイトで先行販売、1月17日に一般発売されるこの製品は、DingTalkとクラウドサービスを日本市場に浸透させるための戦略的な入口となる。
中国では発売3カ月で10万台を売り上げ、アリババの電子商取引(EC)の「天猫(Tmall)」や抖音(TikTok中国国内版)で販売トップを記録したA1。その海外初展開の地に、なぜ日本が選ばれたのかーー。Ding TalkのAIプロダクトマネージャーの霊音氏は、2025年12月23日の日本メディア向け説明会で、その理由を語った。
「日本は世界で最も品質要求が高い市場だ。製品の品質だけでなく、包装、物流、すべてにおいて最高水準が求められる。日本市場で成功すれば、欧米市場への展開も容易になる」
日本語に885億円相当の投資 、100万時間の学習
A1の最大の特徴は、日本市場向けに徹底的にカスタマイズされた音声認識モデル「Fun-ASR」だ。アリババ通義(Qwen)研究所と共同開発されたこのモデルには、40億元(約885億円)相当の投資が行われ、100万時間以上の日本語音声データで学習をしたという。

開発チームは日本全国を回り、20種類以上の方言と地域アクセントを収集。また、地下鉄や駅のアナウンス音声など、1000種類以上の環境ノイズデータも取り、日本特有の公共交通機関の音響環境にも対応させた。
「中国の地下鉄のアナウンスは大きいが、日本は非常に静か。こうした細かな違いまで学習させた」と霊氏は説明する。
さらに、50名のAI専門家チームが、法律用語から業界専門用語まで、高精度で認識できるよう調整。GPT-4やMicrosoftのモデルとの全面的な対比テストも実施し、人名・地名認識などで同等以上の性能を確保したという。
TSMC製6nmチップと6基のマイク
薄さ4mm、重量40.8gのカードサイズボディに、業界初とした、台湾積体電路製造(TSMC)製の6ナノメートルのプロセスAIオーディオチップを搭載し、500種類以上のノイズをリアルタイムでフィルタリングするという。マイク構成も贅沢で、全指向性マイク5基に加え、骨伝導マイク1基を搭載し、5〜8mの遠距離集音を実現する。
さらに、660mAhの大容量バッテリーにより、連続録音45時間、待機時間60日間という驚異的なスタミナを実現。Type-C充電対応により、スマートフォンと充電ケーブルを共有でき、利便性を向上した。
通話録音と環境録音の自動切り替え機能も搭載。電話中は骨伝導マイクで、対面会話時は全指向性マイクで録音するよう、AIが自動判断する。ユーザーは何も操作する必要がない。

また、ライバル商品などで対応していないケースの多い翻訳機能も搭載している。21言語のリアルタイム翻訳・同時通訳機能も搭載。
特筆すべきは、中・英・日の翻訳機能が無料で提供される点だ。霊氏は「競合製品が機能を分けるのはコスト面の問題だが、我々はより多くの人にAIを体験してもらうことを優先した」と説明する。
DingTalk連携が狙い
A1の利用には、DingTalkアプリのインストールが必須となる。これは製品の制約とはとらえておらず、むしろアリババの明確な戦略だ。
「DingTalkは現在、日本での認知度は低い。しかし、効率を上げたいというニーズは全人類共通だ。A1を通じて、日本のユーザーにDingTalkを知ってもらいたい」と霊氏は語る。
日本向けには、A1ユーザー専用に簡素化されたDingTalkインターフェースを提供。従来の複雑なSaaS機能は隠し、「録音」と「AIアシスタント」のシンプルな画面から始められる。A1で録音したデータはDingTalkアプリに自動同期され、AIが生成した「ネクストアクション(ToDo)」はタスク管理ツールやカレンダーに自動登録される。
さらに、メール自動送信やLINEとの連携も可能。「すべてのワークフローを無感覚で自動化する」のがA1のゴールだという。
サーバーはシンガポール
中国発のサービスで懸念されるデータセキュリティについて、担当者は明確に回答した。
「DingTalkグローバル版のデータは、すべてシンガポールのサーバーに保管される。中国のサーバーとは完全に分離されており、中国国家情報法の適用を受けることはない」。
録音ファイルも暗号化され、デバイス紛失時も認証なしでは閲覧不能だ。アカウントでログインしなければ読み込めない仕組みだという。国際セキュリティ基準(ISO/IEC 27001、SOC2/3等)にも準拠し、世界7億ユーザー、2600万企業組織が利用するDingTalkのセキュリティ実績を強調した。

ハードウエア起点の戦略
A1の定価は32800円だが、発売記念として100台限定で21800円とするなど、段階的な価格設定が予定されている。また、サブスクリプション料金(月間の文字起こし枠)については、競合の「PLAUD」と同等水準になる見通しだ。
販売目標については、中国市場で3カ月で10万台を達成した実績を踏まえ、「日本でも同規模を目指す」と明言した。

アリババグループにとって、A1は単なるガジェット製品ではない。DingTalkというワークプラットフォーム、アリババ・クラウドというインフラ、そしてQwenという大規模言語モデルを、日本市場に浸透させるためのハードウエアとして起点のタッチポイントとして活用したい考えだ。
日本市場での成功は、アリババのグローバル戦略にとって試金石となる。世界最高水準の要求に応えられるか、日本のビジネスパーソンはこの「AI時代の効率革命」をどう受け入れるか。今後、その答えが明らかになる。
(取材:36Kr Japan編集部)
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