「自然発火」をなしに、BYDが次世代車載電池「ブレード・バッテリー」を発表

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「安全基準を再定義する」「“自然発火”の四文字は新エネルギー車業界の辞書から抹消する」。3月29日、中国EV大手「比亜迪(BYD)」の王伝福会長兼社長は自ら次世代バッテリー「ブレード・バッテリー」の発表会に登場し、新しいバッテリー技術について上記のように表現した。

新エネルギー車業界が苛酷な市場競争に陥る中、EVメーカーによる訴求の核心は、「航続距離」「性能」「コスト削減」の三点にある。BYDのブレード・バッテリーはこうした背景で誕生した。製造・加工技術の急成長によってバッテリーシステムの空間利用率およびエネルギー密度を引き上げ、コスト面での強みも兼ね合わせている。

同製品を発表したのはBYDのバッテリー事業を独立させたサブブランド「弗迪電池(FinDream Battery)」。同社初の製品となる。弗迪電池の何龍会長によると、従来型のバッテリーパックはバッテリー単体をバッテリーモジュールに、バッテリーモジュールをバッテリーパックにという工程で製造される。これには大量の構造部品を用いて連結や固定を行う必要があり、その空間利用率は40%に留まる。

ブレード・バッテリーの外観(BYD提供)

対するブレード・バッテリーはBYDが得意とするリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用し、既存のバッテリーを長さ2メートルにまで引き延ばし、厚さを13.5ミリに抑えている。設計上はバッテリーをモジュール化せずにバッテリーパックにまで仕上げ、結果的に空間利用率を高めている。

「ブレード・バッテリーはエネルギー体であり構造体でもある。バッテリーパックを直接支える梁のようなものだ」と何会長は説明し、同製品の体積利用率は50%以上向上したという。これは航続距離が50%以上伸びたことと同義であり、高エネルギー密度の三元系リチウムイオンバッテリーと肩を並べたことに等しい。

しかし、BYDは十八番であるリン酸鉄リチウムイオンバッテリーでも技術面でライバルの「CATL(寧徳時代新能源科技)」に先を越されている。CATLは昨年9月にブレード・バッテリーに類似するCTP(Cell to Pack)技術を発表済みだ。やはりバッテリーモジュールを省いて直接バッテリーパックを組み立てる設計で、ロイターの報道によると今年7月から米EV大手テスラへの供給を開始するという。バッテリー総電力量でも長らくCATLに勝ちを譲り、新エネルギー車の販売台数では昨年、世界一の座をテスラに奪われ、BYDとしては今すぐにでも強力な反撃の一手が欲しいところだ。ブレード・バッテリーはこうした使命を背負っている。

安全パイを打つ

新エネルギー車に必携の動力バッテリー分野は、長きにわたって三元系リチウムイオンバッテリーとリン酸鉄リチウムイオンバッテリー二つの技術的アプローチが存在した。前者はエネルギー密度が高く、メーカーが航続距離を追求する際にはこちらが主流となってきた。

CATLはこうした中で突然現れ、瞬く間に世界大手各社のサプライヤーとなった。新興産業に特化したコンサル機関「高工産業研究院(GGII)」のデータでは、CATLは昨年、バッテリー総電力量が32.31GWhに達し、前年比37%もの伸びをみせて世界一となった。続くBYDのバッテリー総電力量は10.78GWhで、前年比6%減だった。

しかし、三元系リチウムイオンバッテリーの欠点は熱安定性に欠けることであり、自然発火事件が後を絶たない。対してリン酸鉄リチウムイオンバッテリーは熱安定性が強みで、安全性が武器となっている。

BYDはブレード・バッテリーの発表会当日、安全性評価試験の一つである穿刺テストを実施した際の動画を公開した。同じ条件下において、三元系リチウムイオンバッテリーは穿刺の瞬間に激烈な温度変化を来たし、表面温度はたちまち500℃を超え、極端な熱暴走を起こして発火現象が起こる。しかしBYDのブレード・バッテリーは穿刺後の表面温度は30~60℃だった。

安全性評価試験の動画より

中国科学院の欧陽明高院士はブレード・バッテリーについて、放熱面積がより大きくなったことと、ショート回路が比較的長く、熱産生能力が低減することでバッテリーの熱暴走による影響もより小さくなると説明した。

弗迪電池の何会長は発表会の席上で「過去には穿刺テストは国家基準に含まれていたが、多くの三元系リチウムイオンバッテリーが合格できず、国家基準からは外された」と発言している。事実、中国工業情報化部は昨年初め、穿刺テストを「最も複雑で厳格なもの」としてその実施を一時見送りにすると発表している。

安全性は自動車メーカーが背負う最も核心的なミッションだ。しかし産業が急成長期にあれば、その優先度は下げざるを得ない。昨年、EVメーカー各社はこぞって航続距離500キロを目指し、結果として熱暴走による自然発火事件が続発した。

新エネルギー車国家監督管理プラットフォームの統計によると、昨年5月から7月のわずか3カ月間に、中国では79件のバッテリー関連事故が発生している。「航続距離を争うことで動力バッテリーに過度の期待をかけ、実情からかい離した目標を生んでしまったことは、新エネルギー車の安全性に対する評価に深刻な代償を負わせてしまった」。BYDの王会長は今こそが新エネルギー車業界を変える時だと主張する。

王会長によると、ブレード・バッテリーはBYD社「王朝(Dynasty)」シリーズのBEV(純電気自動車)「漢(Han)」モデルのみに搭載予定だ。漢は航続距離605キロ、0~100km/h加速(時速0キロから加速して時速100キロに達するまでの時間)は3.9秒だ。

「リン酸鉄リチウムイオンバッテリーで航続距離600キロを実現したなら、市場に与える衝撃は非常に大きいものになる」。ある業界関係者はそう話し、「安全性および低コストによって低~中価格帯市場の需要も満たすだろう」としている。弗迪電池の何会長によると、ブレード・バッテリーにはすでにほぼすべての主要ブランドから技術的提携の引き合いが来ているという。

技術改革前夜

ブレード・バッテリーは動力システムの構造は改善したが、材料技術の革新や性能の改良を果たしたわけではない。

すでにBYDと業務提携することが決まっているEVメーカー「理想汽車(LEADING IDEAL)」の李想CEOは、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの弱点は低温環境に弱く、またレンジエクステンダー付きEV(EREV)やハイブリッドカー(HV)に採用するのも難易度が高いと指摘。低価格帯のBEVあるいは温暖な気候の南部で走行する車両に適していると述べた。

一方で車載バッテリーの内製化を目指しているとされるテスラは今月、車載バッテリーに関する戦略説明会を開く予定となっている。外部の憶測では、テスラが昨年5月に買収し子会社となった米「Maxwell Technologies」のドライ電極およびウルトラキャパシタを用いてバッテリーの内製化を目指すのではないかと推測している。テスラは昨年10月にもバッテリーの自動生産ラインや製造設備などを手がけているカナダの「Hibar Systems」も買収している。ドライ電極技術がリチウムイオンバッテリーに用いられれば、テスラのバッテリー技術は固体バッテリーの実現に向けてまい進することになる。エネルギー密度を高めながら、安全性も持たせられるのだ。BYDのみならず、すべてのバッテリーメーカーにとってこれは脅威だ。

新エネルギー車業界はまさにビッグバン前夜にある。技術も急速に改革され、リン酸鉄リチウムイオンバッテリー関係の技術が蓄積されれば、BYDも確実に市場の入り口を捉えられるだろう。ただし、これが同社にとっての唯一の戦略であってはならない。
(翻訳・愛玉)

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