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水素エネルギーが世界的に注目される中、中国も水素燃料電池などの活用策を積極的に推進している。中央政府は2019年の「政府活動報告」で水素エネルギー活用を明記、充填施設などのインフラを整備するとともに、燃料電池車の販売に補助金を支給。自動車メーカーも関連技術開発を急速に進め始めた。今や水素生産量では世界一となった中国だが、一方で技術水準やコストの面では米国、日本とはまだ格差が大きい。中国の積極策に勝算はあるのか?
新エネルギーの普及を政策で支援
水素と酸素の反応により放出される化学エネルギーには、燃焼熱と電気の2種類があり、エネルギー効率の高さや発生源の幅広さという特徴がある。さらに水素エネルギーは世界的な気候温暖化の緩和や二酸化炭素の排出削減にもメリットがあり、国際水素エネルギー協会は、2050年までに世界の二酸化炭素排出削減量の2割が水素利用によって達成されると予測している。
ここ10年あまりの間、欧州、米国、日本をはじめとする各国・地域は、燃料電池を含む水素エネルギー分野に数十億ドル(数千億円)を投じてきた。各国政府は詳細な水素エネルギー自動車発展計画を相次いで制定している。
この中でも中国の積極姿勢は目立っている。中国は豊富な天然ガス資源を背景に現時点で世界最大の水素生産国となっており、年間の水素生産量は2200万トンと世界の34%を占めるほどだ。すでに2006年に水素エネルギーと燃料電池という文言が国の計画文書の中に登場していたが、2019年には全国人民代表大会で発表する、中央政府の施政方針に相当する「政府活動報告」にも初めて水素エネルギーが書き加えられたこれにより各地方政府も水素エネルギー産業の育成強化を相次いで発表した。
特に水素と酸素を反応させることで電気を得る燃料電池搭載の自動車開発支援には熱心で、初期の燃料電池車(FCV)には乗用車の場合で1台あたり20万元(約300万円)の国家補助金を支給したほか、バスでは国や地方の補助金は最高100万元(約1500万円)にも及んだ。「上海大通(MAXUS)」のFCVであるV80の例を挙げると、同モデルの指導価格は130万元(約2000万円)だが、補助金受給後の価格はわずか30万元(約450万円)だ。現在では「京津冀」と呼ばれる北京・天津・河北省、長江デルタ、珠江デルタなどの地域がFCV産業の発展を積極的に進めている。
中国自動車工程学会が策定した水素燃料電池発展戦略によれば、中国は2030年までに100万台クラスのFCVの普及を実現させるという。
企業の側も積極的にFCV開発を推進。先日、「上海汽車集団(SAIC)」傘下の「捷氫科技(SHPT)」の燃料電池事業が正式に始動し、2021年までに1万2000台分の燃料電池と付属システムの生産能力を実現する計画を進めている。これとほぼ時を同じくして、「奇瑞汽車(Chery Automobile)」もこの分野で新たな動きを見せた。
さらに創業から5年の水素燃料大型トラック製造を手掛けるスタートアップ「尼古拉(Nikola)」は、ナスダックでの上場を宣言した。これは、世界で初めてのFCV完成車メーカーによるIPOとなる。
理想と現実の格差
他の主要国の動向はどうか。日本は水素エネルギーおよび水素燃料電池の普及を最も強力に推し進めてきた。同国政府は2014年にすでに「水素社会」実現に向けた戦略の方向性を明確に提起しており、欧州最大のコンサルティング会社ローランド・ベルガーの統計では、2018年末の世界の水素ステーション数369カ所のうち日本が96カ所で世界トップにたち、世界の水素ステーションの26%を占めた。トヨタはこれまで一貫してFCVを新エネ車の究極的な目標に定めており、その技術は世界をリードし続けている。
一方、米国は技術やコストの面で絶対的優位にある。同国は世界最大の燃料電池フォークリフトメーカーの「プラグ・パワー」を有しており、現時点で2万台を超える燃料電池フォークリフトがすでに存在する。また韓国のFCV市場も力強い発展を見せ始めており、昨年のFCV世界販売台数は前年比90%増の7500台を突破し、販売台数世界トップとなった。
これに対し、中国ではまだ新エネルギーを使ったエコカーの中でもFCVの人気は電気自動車には及ばず、今年2月に新エネ車の販売が8か月連続の減少となった際には、FCVの生産、販売ゼロという不名誉な記録を記録した。
新興産業の研究・コンサルティング会社「Trendbank」のデータによると、中国で昨年末までに建設された水素ステーションはわずか51カ所にとどまった。このほか、中国のFCV市場についていえば、完成車、水素燃料電池システムおよび川上・川下産業はいずれも展開されているものの、部品関連企業は今も少ない。プロトン交換膜や触媒など大部分の基幹部品・材料は輸入に依存した状態だ。
水素貯蔵も中国の弱みとなっている。諸外国の液体水素貯蔵・輸送技術は比較的成熟しており、米国や日本などは液体水素の輸送コストを高圧水素の8分の1に引き下げている。これに対し、中国の液体水素技術、液体水素生産工場および関連する産業化の面ではほぼ空白だ。
現実問題として、中国がFCVの普及を実現するには今のところまだかなりの時間がかかりそうだ。とはいえ長期的にみればそう悲観する必要もないかもしれない。一部のアナリストは、燃料電池は航続距離の長い大型商用車の分野では非常に有望であり、短期的に乗用車分野での普及を追い求めるべきではない、と考えている。有力な自動車業界関係者はかつて「2020年にはFCV販売台数5000台、25年までに商用車1万台と乗用車4万台の計5万台、30年に100万台」という青写真を描いた。実際には2019年の販売台数が6000台超となったため、今年の目標値を1万台弱に修正したところだ。国家能源集団の総経理を務める凌文氏は「グローバル戦略でもありエネルギーのモデル転換でもある水素エネルギーの発展は、中国が必ず通らなければならない道だ」と述べている。
(翻訳・神部明果)
(編集・後藤)
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