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自動運転シミュレーションは、自動運転のなかではさほど注目されなかった事業分野だが、2019年6月に発表された「中国自動運転シミュレーション技術研究報告」によると、自動運転シミュレーションソフトとテストは、5年以内に100億ドル(約1兆円)級の市場に成長する可能性があり、多くの企業がこの大きな市場に狙いを定めているという。
1日100万キロのテストも可能
自動運転車の実用化には大量のデータが必要だ。テスラのイーロン・マスクCEOは、自動運転システムの量産化のために少なくとも96億キロのテストが必要だとし、米シンクタンクの「ランド研究所」は177億キロ必要だとの試算結果をまとめた。
これは100台の車が時速40キロで毎日走行しても500年かかる計算だ。つまり、実際の走行テストに頼るだけでは、自動運転の実現は不可能だということになる。
そこでシミュレーションの登場である。この技術は仮想のシーンを立ち上げ、自動車の制御装置をアルゴリズムに変え、仮想シーンのなかで繰り返し学習させる方法である。実際の走行テストではアルゴリズムが変われば数十台の車両による数百キロの実験が必要となり、コストが高騰するが、シミュレーションならコンピュータ上で初歩的な検証を行うことができる。
走行テストの代わりになるだけでなく、悪天候や交通事故など、走行テストでの再現が難しい極端な状況をもシミュレートできるのがこの方法の強みだ。
大手の参入
自動運転シミュレーションには、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)とファーウェイがともに参入している。
もっとも早く参入したのはバイドゥだ。同社はシミュレーションエンジン「Apollo」内に大量の道路情報と自動運転のデータを蓄積している。2020年3月には中国初のL4自動運転オープンテスト基地を重慶で立ち上げ、「シミュレーション+閉鎖空間内実験+公道走行テスト」の全プロセスを一カ所で行えるようにした。
しかし、業界関係者によると、バイドゥのシミュレーションシステムはオープンなプラットフォームではなく、あくまで自社の自動運転開発のためのものである。そのため、中核となる情報が非公開で、他社技術との互換性が低いといった制約がある。自動車メーカーがバイドゥの技術に過度に依存した場合、単なるハードウェアのサプライヤーに成ってしまう恐れがある。
ファーウェイは自社では自動運転車両を開発せず、自動車メーカー向けにシミュレーション技術を提供するという立場を明確にしている。同社は2019年4月に自動運転クラウドサービス「Octopus」をローンチし、1万以上のシーン、3000以上の並行テストを提供し、1日500万キロ相当のシミュレーションを行うことができる。
テンセントもファーウェイと同様の立場だ。2019年11月、同社は「TAD Sim」をローンチし、高度なゲームエンジン、車両空力モデル、交通流シミュレータを搭載し、限りなく実際の状況に近いシミュレーションができるとしている。
参入が最も遅かったアリババは、2020年4月に先端技術研究機関「阿里巴巴達摩院(Alibaba DAMO Academy)」を通して、「ハイブリッドシミュレーション走行プラットフォーム」を発表。実際のデータを使って自動的にバーチャルシーンを生成し、そこに人がランダムに介入することをシミュレーションできるという。アリババはこのプラットフォームでL5の自動運転へつなげるとしているが、まだ細部情報の公開が少なく、どこまでオープンになるのかも不明だ。
中国のインターネット大手のほか、グーグル傘下の「Waymo」は自社のテストのみに使われる「Carcraft」システムを持ち、現在までに161億キロのシミュレーションを行ったという。同社は2019年末にシミュレーション技術向上のため、英国の「Latent Logic」社を買収した。
ゼネラル・モーターズ傘下の「Cruise」も自社向けのみのシミュレーションシステムを持っている。著名なゲーム開発者Tom Boyd氏がこのシステムの責任者だ。同社のシステムではシミュレーションの距離よりも、どれだけ多くのシーンをテストできるかを重要視している。そのために歩行者も運転手も交通ルールを守らない仮想の都市をシステム上に作ったほどである。
セコイア・キャピタルのパートナーである張帆氏によると、上記大手のほか、「AutoX」、「文遠知行(WeRide)」、「小馬智行(Pony.ai)」などL4の自動運転技術でしのぎを削るトッププレイヤーもハードウェアとアルゴリズムの技術に長けており、彼らに足りないのはアルゴリズムの学習用のデータだけである。そのため、これらの企業は国内の自動車メーカーと戦略的に提携することでデータを取得し、自動運転シミュレーションを行っているのだという。
(翻訳:小六)
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