ファーウェイがスマートカー分野に参入 アップルへの追い上げになるか

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ファーウェイがスマートカー分野に参入 アップルへの追い上げになるか

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「今後、自動車事業で500億ドル(約5兆3000億円)の売上高を見込める」と2019年初に予測していたのは、中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)ビジネスグループ総裁の閻力氏だ。同社の「ビジネスアンテナ」はますます伸び、その定着度も深まりを見せている。クルマづくりには参与しないと繰り返し述べてきたファーウェイの野心は想像よりもはるかに大きいものだった。

2020年4月8日の春季新製品発表会で、同社は自動車業界参入の「切り札」となる「HUAWEI HiCar(ハイカー)」システムを発表した。実機デモによる動画では、HiCarでは車載カメラとスマホが連動し、ドアの開け閉め、ビデオ通話、居眠り運転アラームなどの必要不可欠な機能がそろっている。

2020年新製品発表会で説明する華為消費者業務CEOの余承東氏

出所:ライブスクリーンショット

4月23日には「HUAWEI Hi Charger直流クイック充電モジュール」オンライン発表会が行われた。自動車業界に参入する際に最も触れてはいけない基礎技術に、自動運転チップ、車載システムの基礎OS、LiDARから従来の自動車の枠組みを覆すイーサネット技術があるが、今回の新製品発表で蓋を開けてみるとHiCarが多くの耳目を集めていた。これは同社が抱く「自動車業界への夢」の氷山の一角に過ぎない。

「市場参入」を急ぐ

自動車業界への参入を発表してから半年、自動車メーカーの「もっといいクルマづくり」のサポートを公言しているファーウェイは「友達の輪」の開拓を積極的に行ない、「仲間」を引き込んでいる。「上汽大通(SAIC Maxus)」、「広州汽車集団(GAC Motor)」、「比亜迪(BYD)」、「奇瑞汽車(Chery Automobile)」など中国国内外の自動車メーカー30社と提携を結び、HUAWEI HiCarをサポートする車種はすでに120余りに及んでいる。

4月22日、「北汽新能源汽車(BAIC BJEV)」は同社傘下のハイブランド「ARCFOX」シリーズで初めてとなる量産SUVを発売した。同モデルはファーウェイの次世代5Gチップ「巴龍(balong)5000」を搭載している。「北汽集団(BAIC Group)」董事長の徐和誼氏は、ARCFOXのコントロールシステムは基本的にファーウェイ社のシステムを採用していることを明かした。このほか、BYDも現在HiCarとの提携を積極的に調整しており、第3四半期には同社の自動車でHiCarサービスを体験できる見通しであることを明かしている。

余承東氏は、ファーウェイが造り出すエコシステム体験はアップルをはるかに上回り、中国国内外のAndroid陣営ですら実現不可能だとの考えを示した。「というのもOSにおいてこのような事ができる能力がないからだ。私たちにはチップ、アプリ、通信プロトコルやインターネット標準の制定をする力がある。エコシステムを発展させようと思うのであれば、ファーウェイのエコシステムに加われば、先行きのよい売上高と収益が舞い込んでくることになる」とも語っている。

資料出所:国信証券経記研究所 作図:未来記者日報

ある自動車アナリストによると、ファーウェイの巴龍5000自動運転チップは、一般の自動車メーカーや自動運転技術企業では「作り出せない」という。もしファーウェイのチップを採用しない場合、現時点では米エヌビディア(NVIDIA)社など海外サプライヤーのチップを使うほかなく、そうなれば市場要素以外のリスクがあまりにも大きすぎる。車載システムについても同様である。

とはいえ、この自動車業界の変革の嵐は、これまでに比べさらに激しく予測が困難となっている。合弁メーカー従業員である蒋迪氏は36Krの取材で、完成車メーカーの市場再編成の時期であると同時に、ファーウェイの技術も成熟している段階とは言えず、いずれにしろ時期尚早であるため、まずは技術面に没頭してからの参入でよいと語った。「ファーウェイは力を持っているし、この戦略には忍耐力が必要で、パイも大きいが現時点ではパイを切り分ける時期ではない」。 まさに「猛虎山を下る」勢いのファーウェイだが、自動車業界ではどの程度そのビジョンを実現できるのだろうか。

まず計画、次に行動

飽和状態になりつつスマホ市場は頭打ち状態に近づきつつある。2017年から3年連続で出荷量が減り、ファーウェイも次なる成長市場を探さざるを得ない状態だ。最も変化が激しく、生産高が16兆元(約240兆円)に達する自動車業界において、ファーウェイは今後数年で1000億元(約1兆5000億円)規模の成長を遂げる見込みがあると徐直軍氏は分析する。

グーグルは2009年には自動運転分野に参入し、アップルの車載システム「Apple CarPlay」も2013年に登場している。また「シャオミ(小米科技)」も早々に自動車メーカーの株主となっている。これに比べ、昨年ようやく正式に市場参入を果たしたファーウェイはいくぶん出遅れた感が否めない。

徐直軍氏は囲み取材の際、ファーウェイのソフトには確かに不足点も有るとした。ただファーウェイは「十分な技術者を抱えている」とし、依然強気な姿勢は崩していない。ファーウェイ創業者の任正非氏は2019年1月の取材で、同社には少なくとも700人ほどの数学者、800人余りの物理学者、それに6万人に上るエンジニアがいることを明かしている。

これらの人材はファーウェイが自動車業界に参入する際の重要な切り札である。同社の給与水準はIT業界全体でも肩を並べる企業はない。ファーウェイは研究開発への資金投入を最も惜しまない企業のひとつだ。ここ10年間で同社の研究開発費は6000億元(約9兆円)を超え、2011年以降では年間売上高の10%以上を占めている。任氏は米「ウォールストリートジャーナル」の取材の際、2020年の研究開発費は200億ドル(約2兆1000億円)を超える見通しであると話していた。

研究開発費に莫大な資金を投入できる底力は、ファーウェイの巨大な収益力にある。2019年、同社の全世界での売上高は8588億元(約13兆円)、純利益は627億元(約9400億円)、営業活動でのキャッシュフローは914億元(約1兆4000億円)であった。2019年8月から足元までで、同社の投資件数はここ10年間の総数の半分をすでに超えている。この10件の投資プロジェクトのうち、8社が半導体産業チェーン企業、6社が自動車分野関連である。ここからもファーウェイが「自動車チップ」を手がける決意が十分に見て取れる。

「哈勃科技投資(Harbo Technology Investment)」はファーウェイ傘下の投資会社
データ:天眼査 作図:未来記者日報

時間との勝負

徐直軍氏は半年前、ファーウェイがスマートカー分野への本格参入を発表した際に「テスラが現在できることは、弊社もできる」と述べている。しかし、自動車業界で十数年にわたって市場を開拓してきた企業に比べ、ファーウェイは獲得したいパイのいずれにおいても、競合相手の固い鉄壁に取り囲まれてしまっている。

自動車サプライチェーンで最も目を引くのはやはりスマートチップ分野だ。現時点で力を持っているのは今も変わりなく一次サプライヤー(Tier1)だ。この構図を変えることは決して容易なことではない。

チップ業界大手のインテル、エヌビディア、米「クアルコム(Qualcomm)」なども自身の分野はしっかり守っており、M&Aなどで常に実力を強化している。自動運転に特化して21年間研究を続けてきたインテルの子会社「Mobileye(モービルアイ)」が開発した「EyeQ」はすぐさまこのブームに乗った。その結果、世界規模で5000万台を超えるクルマに搭載され、世界の先進運転支援システム(ADAS)の70%を占める独断状態だ。完成車メーカーと新興メーカーは独自の得意分野を伸ばす一方、ソフト・ハード、データ、ユーザーをカバーするADAS市場から少しでもシェアを獲得し、スマートカーの中枢を牛耳ろうとしている。

インテルのテスト車 出所:ロイター社

ファーウェイが最も得意とする車載スマートソリューション分野においては、中国国内外の大手テクノロジー企業もすでに同じ土俵でしのぎを削って久しい。

アップルとグーグルはかなり前から業界トップを目指しており、中国IT企業御三家「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」も急速なシステムアップデートにより幾度となく陣取り合戦を繰り返している。テンセント(騰訊)の「AI in car」は広汽集団と手を組んでいるほか、IT大手バイドゥ(百度)の「Carlife」はすでに60社余りの自動車メーカーの400車種に搭載されている。アリババは車載装置・スマホ接続の過渡的なソリューションからはすでに抜け出し、同社傘下の「斑馬網絡(Banma Network Technology)」の「AliOS」がすでに搭載されている。

業界全体には焦りが広がっており、ファーウェイに残されたのは時間との勝負だ。

少なくとも車載装置・スマホ連携の初期段階の攻勢において、ファーウェイは明らかに優位だ。米調査機関IDCのデータでは、2019年のファーウェイのスマホ出荷台数は2億4100万台で世界2位。他のIT企業と比べても、スマホのOEMにはハードとエコシステムでの強みがあり、同ブランドでの車載装置とスマホとの連携もより簡単に行え、「ヒト、クルマ、家を繋ぐオールシーンのエコシステム」の構築は同社の計画でもある。

HUAWEI Cloudショールーム 出所:ファーウェイオフィシャルサイト

中国は世界最大規模の新車市場だ。数年後も世界最大規模の自動車保有市場であり続けるだろう。この「パイ」は十分食べ応えがある。ここ数年にわたって、ファーウェイはどの分野においても「世界一」に挑み続けてきた。無線基地局はスウェーデンのエリクソンを抜き、スマホデバイスではサムスンとアップルをターゲットにした。スマート家電で目指すのはグーグルとアマゾンだ。現在、この「遅刻者」はまた新たな戦いの火蓋を切ったのだ。

(翻訳:lumu)

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