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2020年、中国のEC業界で一番の話題はライブコマースだ。アリババ系の海外向けECサイト「アリエクスプレス(AliExpress、全球速売通)」はライブコマースを海外でも展開しようとさまざまな試みを行っている。
アリエクスプレスは2019年7月にライブ配信機能をリリースし、これまでに全世界のユーザー向けに1万回を超えるライブ配信を行ってきた。海外において今後1年で1万人、3年以内に100万人のライバーを育成する計画を表明している。
アリエクスプレスは、2010年にアリババの国際BtoB事業から誕生した輸出BtoCプラットフォームだ。設立から10年を迎え、現在は全世界18カ国語に対応するサイトを持ち、海外ユーザーの数が1億5000万人を超え、220以上の国と地域をカバーしている。
中国市場と異なり欧米ではECの普及率は高くないが、今年発生した新型コロナウイルスがその状況を一変させた。アメリカを例にとると、過去10年間でECの普及率は5.6%から16%まで上昇したが、新型コロナウイルスの感染拡大期間中にこの数字は27%にまで跳ね上がった。
海外消費者の購買習慣は新型コロナウイルスによって変化しつつあり、ライブコマースを普及させるには良いタイミングだ。
実力派ライバー不足が課題
中国国内におけるライブコマースの盛り上がりを見て、輸出企業も海外市場におけるライブコマースに意欲的だ。
アリエクスプレスにはさまざまなライブ配信の方式がある。そのうちの1つはショップの自前配信で、ショップの従業員あるいは自前で用意したライバーが配信を行う。これ以外にもショップがアリエクスプレスを通じて人気ライバーにライブ配信を依頼したり、アリエクスプレスが提携している国内外のMCN(マルチチャンネルネットワーク)に依頼してライブ配信を行うことも可能だ。
人気ライバーとショップとの連携を深めるためにアリエクスプレスは「Connect」という新たなマッチングプラットフォームをリリースしている。ここにはすでに数千人の海外ライバーが登録しており、彼らはプラットフォーム上で自ら注文を取り、収入を得られる。
目下、業界の最大の課題は、海外ライブ配信に適したライバーが不足していることだ。
IT企業大手の「NEUSOFT(東軟集団)」はMCNも手掛けており、2年前からアリエクスプレスと提携している。瀋陽、大連、杭州の3カ所にライブ配信拠点を構え、海外にも支社を持つ。中国在住の外国人を発掘するとともに、海外でも人気ライバーとなりそうな人材を探している。
同社のデジタルソーシャルメディアマーケティングセンターのプランニングディレクター王志浩氏は外国人ライバーを集めるのは難しいと語る。ライバーに必要な条件は、話す言葉が明確で、自分の意思を表現でき、ショップがアピールしたい内容を正確に伝えられることだが、その条件に合う人材は少ない。
中国国内では豊富なライブコマースの経験があるため、中国のMCNは海外でも優位に立てるが、彼らが直面するのはローカル化の問題だ。反面、海外のローカルMCNは現地での管理能力はあるが、ライブ配信についての経験が不足してる。
海外ライブコマースは黎明期、しかし競争は始まっている
海外ユーザーはどのようなライブ配信を好むだろうか。この点については国や地域による文化の差が大きく、中国での経験がそのまま通用しない。
過去1年間、アリエクスプレスはさまざまな形式を試し、最終的に海外ユーザーはバラエティーに富んだ娯楽性の高い内容を好むことが分かってきた。
ペルソナを見ると、ライブ配信を視聴するユーザーは35歳前後で、子供がいる主婦か、流行に敏感な男性が主流で、興味深いのは男性ユーザーの比率がやや高いことだ。ライブ配信で好まれる商品は、スマートフォン・通信機器、美容健康関連商品、電子機器、インテリア関連商品、家電がトップ5を占める。
中国との大きな違いは、海外の消費者は対話を好むという点だ。アリエクスプレスが4月末にライブ配信によるユーザー参加型クイズを行ったところ人気が高く、視聴者は6万人を超えたという。
しかし今のところライブコマースがGMV(流通取引総額)にもたらす効果は限定的だ。アリエクスプレスは多様なライブ配信によって、ショップへのアクセス増加とユーザーからの反応が増えることを期待している。重要な指標となるのは、ライブ配信時のユーザーの反応、お気に入りやカートへの商品追加、ライバーのお気に入り登録などだ。昨年7月から現在までにアリエクスプレスのライブ配信の視聴者数は数十倍に増加し、特に新型コロナウイルスの感染が拡大した3月の増加が著しく、4月には各指標によってその増加がはっきりと裏付けられた。
ライブコマースの将来性を見込んでいるのはアリエクスプレスだけではない。他の大手も虎視眈々と機会を狙っている。
現在、この分野に参入するプラットフォームは大きく3つに分類される。1つめはアリエクスプレス、アマゾンのようなECプラットフォーム、2つめは「TikTok」、「Kwai」のようなショート動画プラットフォーム、3つめはFacebookに代表されるソーシャルメディアプラットフォームだ。
東南アジアではアリババ傘下のECプラットフォーム「Lazada」がライブコマースに乗り出し、テンセントのバックアップを受けるShopeeもライブ配信へ力を注いでいる。
アマゾンは2017年にAmazon Liveをリリースしており、動画サービスとオンラインショッピングの融合を図っている。元々は編集済みの動画だけをサポートしていたが、現在はバージョンアップしてライブ配信機能を備え、この機能は中国でもショップ向けに公開されている。
Facebookは今年5月にFacebook Shopsをリリースし、本格的にEC領域に進出した。同社のザッカーバーグCEOによると、近いうちにFacebookはライブコマース機能をリリースする予定とのこと。
中でも特に期待が高いのはTikTok(中国国内版は「抖音(Douyin)」)だ。TikTokのグローバルMAU(月間アクティブユーザー数)は5億人を超えているが、抖音と比べると収益化はまだ初期段階だ。TikTokのライブコマースに関しては、同社がショッピングカートの内部テストを行っているという情報がある。
証券大手「光大証券(Everbright Securities)」のデータによると、2019年のライブコマースの規模は4400億元(約6兆6000億円)と推測され、そのうちアリババの「タオバオライブ(淘宝直播)が2000億元(約3兆円)で首位を占めた。このタオバオライブでの成功体験と技術的バックアップによって、アリエクスプレスは海外市場の競争でも一定の優位を保つだろう。
しかし、国や地域を跨いだ物流システムや文化の違いを考慮せず、単に中国での成功モデルをコピーするだけでは、海外におけるライブコマースを成功させるのは難しい。
(翻訳・普洱)
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