米国で「最優秀CEO」 に選ばれたZoom創始者、「近い将来、ビデオ通信が働き方の主流となる」
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コロナショックで世界中の株価が暴落している中、チャットやWeb会議ツールを手掛けているZoom(ズーム)が逆行高となっている。感染症拡大を背景に、Zoomのユーザー数が大幅に増加し、3月23日に同社の株価は一時164ドル以上に上がり、上場後の最高値を記録した。
Zoom創業者の袁征(Eric S.Yuan)氏は、米国求人サイトGlassdoor が発表した「2018年CEOランキング」では、99%の従業員支持率でトップに輝いた人物だった。白人以外のCEOがトップにランキングされるのは初めてのことだった。
袁氏はこの受賞について、「今回の受賞は私個人に対するものではなく、Zoomの企業文化ー人類の幸福や思いやりといった価値観を大切にする企業文化が評価されたものだ」とツイートしている。
彼はつてシスコでVPoE(Vice President of Engineering)を務めていたが、2011年に離職し、Zoomを設立。なぜZoomはここまで成功できたのか、その競争優位性やビジネスモデルについて袁氏が語った。

中国人エンジニアがシリコンバレーのCEOへ 彼が歩いて来た道のりとは
WebExのベテランエンジニア、シスコのVPoE、全米ランキングトップの最優秀CEO。ある意味、これらの肩書きは袁征氏の人生を端的に表している。
90年代、ビルゲイツが情報ハイウェイについて行った演説は、若き日の袁征氏を奮い立たせるのに十分なものだった。「私たちはネット上で書籍を購入し、ネット上にあるメールBOXを使用する。インターネットは完全に異なるひとつの世界だ」彼はインターネットが未来をつくると確信していた。「その当時、ウェブブラウザの代表的存在だったネットスケープとYahooの強大さ、米国での人気の高さに気づいた。」彼はチャンスの波を捕まえようと単身渡米を決意したが、アメリカビザの取得は思ったよりスムーズにいかなかった。1994年から1995年にかけて申請を拒否された回数はなんと8回。9回目にしてようやく取得することが出来たという。袁征氏はその当時を振り返り「これは忍耐力を鍛えるいい機会だと自分に言い聞かせた」と語っている。
1997年、当時はまだ英語がうまく話せなかった袁征氏だが、WebExへ入社。創立エンジニアの一人となり、VPoEへと昇進するまで、同社で14年間勤めることとなった。2007年にはシスコがWebExを32億ドルで買収。その後、袁征氏はVPoEへと昇進した。シスコの傘下となったWebExは、彼の指揮下で、当初10名しか在籍していなかったエンジニアが800名以上に増え、収益は8億ドル以上となった。
シリコンバレーで働くほとんどの中国人エンジニアにとって、袁征氏のようなポジションに立つことは、人生のピークを意味するだろう。しかし彼はこれだけでは満足せず、2011年に起業を決意。Zoom立ち上げにあたって、40人以上のエンジニアが彼についてきてくれた。
WebExを離れることにした理由について聞かれると、「当時のWebExは、パワーポイント等の資料をオンライン共有するWEB会議サービスに重点をおいていたが、ユーザーはテレビ会議の画質や音声のクオリティアップを求めていた。コラボレーションソリューションではなく、顧客のニーズに的確に応えられるソリューションを提供する必要があった」と答えている。その頃、Facetimeなどのビデオ通信ソフトウェアは、ユーザーに満足してもらえるようなレベルとは言えず、大いに改善の余地があった。袁征氏はこの市場にビジネスチャンスを見いだし、クラウドを活用したプラットフォームを設立することを決意したのだ。
このようにして、WebExの次世代を目指し、Zoom Video Communicationsが設立された。
袁征氏は卓越した技術者である一方、マネジメント経験豊富な指導者の顔を併せ持っている。Zoomの設立には、時機到来に加えて、このふたつの顔が大きく寄与したと考えられる。シリコンバレーの開放的な環境は、彼にとって多くの優秀な起業家から学ぶ場でもあった。「ハングリー精神、自己開発意欲はとても重要だ。私はエンジニアとして技術スキルを磨くことに集中するだけではなく、マネジメント能力を鍛えることにも力を注ぐようにした」それこそが、WebExへ入社後、VPoEまで上り詰めた主な要因だという。
実際、シリコンバレーのテクノロジー企業で昇進し、指導者として働く中国人エンジニアはまれである。このような成果をどうやって達成したかと聞かれると、「一つには、米国テクノロジー企業のオープンで透明なビジネスモデルによるもの、二つには、社交性とコミュニケーション能力である。もちろん、勤勉であることや喜んで学ぶことも大切だ」と述べている。
事業の構想は恋愛から生まれた
Zoomを立ち上げることとなったそもそもの発端は、1980年代当時、彼が大学生の頃にガールフレンドと遠距離恋愛をしていた経験によるものだった。そこからテレビ電話の開発を思いついたのだ。
Zoom設立当初から、オンライン会議ソフトウェア市場は競争の激しいマーケットだった。WebExなどの大企業を始めとして、Apple Facetime、Google Hangoutが殆ど同じ時期にリリースされたが、そのような状況下でも、Zoomは”ダークホースとして徐々に頭角を現していった。
Zoomの成功のカギは「幸福」だと言う。袁征氏は「人生の目的とは幸福を追求することであり、永続的な幸福は他人の幸せを生むことで得られる」と説明し、さらに、Zoomのモットーは、社員と顧客の幸せを一番に考えていると付け加えた。
袁征氏は、Zoomの企業哲学だけでなく、そこで働く人びとが共通して持っている意識として、オープンなコミュニケーション、企業活動の透明性、情報の共有についても言及したが、組織として最も重要なのは信頼関係だと言う。Zoomは、会社と一緒に成長できる人材をこれからも募集していくとのことだ。
彼がGlassdoorで最優秀CEOに選ばれる少し前、有名なプロフェッショナルサービス会社Ernst&Youngも「2018 Entrepreneur of the Year」賞を受賞している。このような名誉と称賛は、Zoomの企業としての信頼性をより高めることとなるだろう。
現在、ユニコーン企業のZoomが毎年提供しているビデオ会議の時間は200億分を超える。また、Fortune 500にランキングされている企業の1/3と約200校の大学を相手にビジネスを行っているZoomだが、同社が初めて有料会員を獲得したのは2012年。オンライン教育プラットフォームのソリューション提供を求めて、スタンフォードの継続教育カレッジから連絡をうけたのが最初だった。
袁征氏はこの出来事について、自分は本当に運が良かったのだと語った。「当時は様々なオンライン教育プロジェクトが爆発的に伸びていて、Zoom設立初期の頃にお付き合い頂いた顧客は殆ど、教育分野に携わる人びとだった」ちょうど教育業界がIT技術を導入し始めた時期に、Zoomはその分野の顧客を獲得することに成功したのだ。
Zoomが設立当初から個人顧客ではなく企業をターゲットユーザーとしたのは何故なのかとの質問には、「一般消費者をターゲットとしたビジネスモデルは固定化されていて、ユーザーに製品を無料体験してもらうため、広告を打つことからはじまる。これが消費者市場の主なマーケティング戦略だ。一般消費者と比べて、ナレッジワーカーやリアルタイムでやり取りをするビジネスミーティングで発生するニーズには、より切実なものがある」 と述べた。
Zoomは中小企業と大企業それぞれに異なった戦略を用いてアプローチすることで、両社のニーズバランスを保っている。大企業のテレビ会議で求められる高度なセキュリティについても、同社では完全に対応可能であるとしている。
他のソフトウェアと比較すると、Zoomの最大の利点はその使いやすさにある。ダウンロード後、アカウントへログインするだけで、すぐに複数人と通信を開始することができるのだ。加えて、サーバーとネットワーク環境が不安定な場合、オンライン通話はよく途切れてしまうことがあるが、Zoomなら比較的スムーズな通信が可能である。
Zoomのビデオ通話機能は高いレベルのものだが、それでもやはり音質を重視している。「もし音が聞こえなかったり音質が悪いなら、人は見向きもしない。それで、まず音質の確保に力を入れる必要がある。たとえ通信速度が半分になっても、Zoomは正常にビデオ通話できることを保証している」と、袁征氏は語る。
その他、ソーシャルプラットフォームの分野では、米国のSlackとアリババが手掛けた「釘釘(Dingtalk)」が、チャットや音声通信をメインとしたサービスを提供しているが、クライアントへプレゼンテーションをする場合、もしくは同僚とリアルタイムで討論する必要がある場合には、ビデオプラットフォームの方が利便性が高い。袁征氏は「現代のビジネス現場において、Zoomは他企業が真似できないようなサービスを提供することができる」と述べた。
Zoomの未来及びビデオ通信によるワークメソッド
現在、テレビ会議を代表とするビデオ通信を用いた働き方が注目を集めているが、将来的には、このようなオンラインコミュニケーションやWEB会議室がビジネスの主流となるのだろうか?
この問いに対して、袁征氏は「ミレニアルズ(Millennials)世代」の例を取り上げ、「彼らはインターネット時代に成長し、音声通信よりもビデオ通信に慣れている。ビデオ通信を用いたコミュニケーションツールはこれからビジネスの主流となるだろう。」と述べた。また、この先職場スペースはますます少なくなり、一方で会議室はますます多くなると予測している。そうなれば、クラウド型のコラボレーションプラットフォームが才能を発揮するようになっていくのだろう。
現在のZoomの事業は主にビジネス分野に集中しているが、将来的に一般顧客向けのビジネスを展開する計画はないのかと訊ねられると、「将来的にはあり得るかもしれないが、現段階では考えていない。現状、私たちの目の前には大企業のビジネスユーザー市場が広がっていて、そこにはまだ大きなチャンスが隠れているからだ」 と話した。
Zoomは設立からこれまで、主に英語圏の国で活躍してきた。地域別の収益比率では北米が約90%を占め、残りが英国とオーストラリアとなっている。しかし今年に入ってから同社は、フランス、ドイツ、日本の三ヶ国で新たな市場を開拓しはじめた。
敬愛するリーダーとおすすめの本
Facebook CEOのマークザッカーバーグとウォルマートの元CEOハロルド・リー・スコット・ジュニアは、袁征氏が最も敬愛する起業家であり、指導者である。とりわけ、ウォルマートの元CEOは彼に深い影響を与え、マネジメントと指導能力の知識を高めるきっかけとなった。おすすめの本については、ブリッジウォーターの創業者レイ・ダリオの著書「PRINCIPLES(プリンシプルズ) 」を挙げている。
※以前公開した記事を再編集したものです。