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ある職場で、当日欠勤を繰り返すアルバイトがいた。コロナ禍のリモート環境なので、そのアルバイトスタッフは、slackに「レポートが終わらなかったので、今日は休みます。すみません」などと書き込むのだが、上司はいつも「👍」とだけ返事していた。
私を含め、多くのスタッフが「上司は甘やかしすぎだ」と思っていたが、ある日そのアルバイトは「来月から来なくていいから」と告げられた。私たちが「いつも👍と返信してたじゃないですか」と上司に聞くと、彼は「私の👍にはいろいろな意味がある」とだけ答えた。
絵文字はテキストコミュニケーションに欠かせないコミュニケーションツールだ。
「読んだ」「了承した」「ありがとう」などの定型返答の代わりになるし、親しさを表現したり表現を和らげるためにも使う。一方でその解釈は受け手に委ねられ、ずれが生じることも少なくない。
中国の高等裁判所にあたる江蘇高院が6月下旬、SNSの公式アカウントで絵文字が訴訟の証拠になった件数を発表し、大きな反響を呼んだ。
同高院によると2018年以降、絵文字が証拠として使われた訴訟は158件。2018年は8件、2019年は23件、2020年66件、2021年61件とここ数年で大幅に増えた。ただ、先に述べた通り、絵文字の多くは統一された基準がなく、使う人や受け取る人の主観に解釈が委ねられるため、司法も悩んでいるようだ。
広東省の住宅賃貸借訴訟では、賃借人が大家からの家賃値上げの通告に対し、契約期間満了後に「太陽」を示す絵文字のみ返信した。大家はこれを「家賃値上げの合意」だと主張し、判決は大家の主張を認めた。
別の訴訟では、メッセージアプリのWeChatで喧嘩の末に爆弾の絵文字を連続で送った人物が、「脅迫」だと主張され、謝罪や慰謝料を求める訴訟を起こされた。こちらは裁判所が調停に入り、判決前に和解した。
捜査をかいくぐるために、隠語の代わりに絵文字を使うケースも増えている。現地メディアの報道によると、ある犯罪グループは薬物取引の際に、それぞれの薬物を「キャンディー」「ワイングラス」の絵文字で表現し、購入者と連絡していた。
「OK」絵文字の証拠力、判断割れることも
「👌」が「同意」の証拠になるかどうか、判断が分かれたケースもある。
広州市の裁判所は契約を巡る民事訴訟で、「絵文字は気分、感情、思考の表現を補助する視覚イメージであり、法的意味での約束とは言えない」と、当事者が送った「👌」の絵文字を同意の表現と認めなかった。一方、厦門の裁判所は、送り主の日ごろの履歴やチャットの文脈を分析し、「同意」したと見なした。
同高院は「絵文字の意味には複数の解釈がありうるので、個人の趣味嗜好が絡むネット上の会話では、態度を示す重要なメッセージはできるだけテキストで表現するか、曖昧さを生じにくい絵文字を選択することで、双方の真意を明確にし、無用な誤解や紛争を回避することが望ましい」と注意を呼びかけている。
(浦上早苗)
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