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世界的通信機器メーカーのファーウェイ(華為技術)と、民生用ドローン世界最大手メーカーのDJI(大疆創新科技)は、ソフトウェア・ハードウェア一体型ソリューションのプロバイダーとして自動車業界へ進出している。とはいえ自動車そのものを作るのではなく、両社とも自動車メーカーが優れた製品を作り出す支援をしている。
上汽通用五菱汽車(SGMW、以下「五菱」)はこのほど、自動運転ソリューションを手がけるDJIの子会社「DJI Automotive(大疆車載)」との協業で得た成果として、先進運転支援システム「霊犀智駕系統(Lingxi Intelligent Driving System)」を発表した。同システムは「あらゆる種類の障害物を認識し、回避する」ものだという。
しかし、ほとんどのメーカーの製品とは異なり、霊犀を搭載した五菱の自動車はLiDARセンサーも搭載せず、高演算力の自動運転用チップも搭載していない。DJIは祖業のドローンで培ってきたアルゴリズムを武器に、10万元(約200万円)クラスの小型車に自動運転性能を持たせることに成功している。
一方、ファーウェイと提携する北京汽車(BAIC)系列の「極狐(Arcfox)」、長安汽車(Changan Automobile)系列の「阿維塔(AVATR)」、長城汽車(Great Wall Motor)系列の「沙龍(SAR)」はすべて高級車ブランドだ。価格はともすれば30万〜40万元(約600万〜800万円)にもなるもので、LiDARなどの強力なハードウェアを基礎にして先進運転支援性能を実現する。
DJIはコストパフォーマンス、ファーウェイは自動運転技術で製品に付加価値を与えている。ますます競争の激化する自動運転分野で受注を獲得するために両社が採る戦略は相反するものだ。
次の成長分野を模索
技術力の高いDJIとファーウェイの2社が自動車業界に参入した動機はほとんど同じだ。
2020年、ファーウェイのスマートフォン事業は米国からの制裁で深刻な打撃を被った。IT専門調査会社IDCのデータによると、ファーウェイ製スマートフォンの20年の世界出荷台数は前年同期比21.5%減の1億8900万台だった。この影響でファーウェイの消費者向け端末事業の同年の売上高は4829億元(約9兆7900億円)、前年同期比3.3%の微増にとどまった。
DJIは世界の消費者向けドローン市場で90%以上のシェアを握り、独占状態といっていい。しかし、業界規制や飛行禁止などの理由でDJIのドローン事業は下向きになりつつあり、売上高の伸びも減速気味だ。関連データによると、DJIの売上高と純利益は18〜19年は一ケタ成長、20年になってようやく売上高30%増、純利益33%増に転じた。
一方、スマートカー分野はまだ前途有望な成長初期段階にある。「2022年中国スマートカー成長の趨勢に関する洞察レポート(中国智能汽車発展趨勢洞察報告)」によると、中国では自動運転レベル2以上のスマートカーの販売台数が25年までに1000万台を突破すると見込まれ、スマートカーの浸透率も49.3%に達すると予想されている。スマートコクピット市場の規模も1000億元(約2兆300億円)を超えるとみられている。
DJI、ファーウェイの相反する戦略
スマートカー市場に参入したDJIとファーウェイ両社の選んだ戦略はまったく異なる。ファーウェイはハイエンド路線、DJIはコストパフォーマンス重視だ。
ファーウェイと提携するブランドは、多くがさらなる箔付けを狙っている。
例えば、製品の平均価格がこれまで8万元(約160万円)だった長城汽車は、傘下ブランドの沙龍で48万8000元(約990万円)もの価格をつける「沙龍機甲龍(SAR Mecha Dragon)」を売り出した。LiDARセンサーからコンピューティングプラットフォームまで全面的にファーウェイを起用してインテリジェント化を図った製品だ。同じく平均価格10万元(約200万円)ほどだった長安汽車もファーウェイとの提携後、高級ブランドの阿維塔を立ち上げ、リミテッドエディションに60万元(約1200万円)もの価格をつけた。
DJIと提携するのはこれとは対照的で、多くが低〜中価格帯のブランドだ。例えば「小鵬汽車(Xpeng Motors)」のセダン「P5」最上位版は、DJI子会社「覧沃科技(Livox Technology)」製の車載用LiDAR「HAP」を2個搭載して価格は20万9900万元(約430万円)。また、五菱傘下の宝駿「KiWi EV」ではDJIエディションを発売しており、五菱とDJIが共同開発した先進運転支援システムの霊犀を搭載して価格は10万2800元(約210万円)だ。
技術戦略で見ると、DJIはテスラの「ピュアビジョン(カメラのみでセンシングを実行する)」と同様のソリューションを採用している。ドローン分野で積み重ねてきたデュアルカメラの技術を自動運転システムに応用し、デュアルカメラを融合した点群生成のアルゴリズムを用いて深度データなどの幾何データを取得。これによって前方の障害物が走行の安全に危険を及ぼすかどうかを判断できるため、LiDAR依存から脱却できた。
ピュアビジョンの長所は低コストで規模拡大がしやすいことだが、自動車そのものはセンシング能力や演算力に限りがあるため、システムの限界もはっきりしている。DJIが開発に加わった前出の霊犀は、開発時に対応が想定されていない、あるいは対応不可能な場面に遭遇した際はデグレード(縮退)モードに入り、ドライバー自身が車両を制御するよう求められる。
しかし、これは問題の解決ではなく転嫁に過ぎない。ユーザー側は先進運転支援システムがより自主的にトラブルを解決してくれることを望むが、実際にはシステムで処理できないトラブルが生じると、車両の制御はドライバー自身が行わなければならない。
つまり、ドライバーの注意が逸れたり、スマホに気を取られたりすれば危険が生じるということだ。例えば、現行バージョンの霊犀では信号を認識できないため、交差点ではドライバーが操作する必要がある。高精度地図にも対応しないため、変則十字路(食い違い交差点)や施工中の道路に遭遇すると、やはりドライバーが操作することになる。
北京汽車系高級ブランド「極狐(Arcfox)」のセダン「αS」はHI(ファーウェイ・インサイド)エディションで、感知・意思決定・方向転換・制動・構造・電源の6つにそれぞれ予備システムを配した完全冗長構成を採用した。これはファーウェイがコストよりも安全性を選んだということに他ならない。高コストになる代わりに、極端な状況が生じても予備システムが作動し、車は路肩に寄って停車する。どんな天候やどんな状況であってもシステムが最大限に働くのだ。
現段階で考えられるのは、DJIのピュアビジョンは五菱の量産車に対応するための一時的なソリューションであり、今後は次世代LiDARを用いた製品を打ち出してくる可能性があるということだ。一方のファーウェイは、ハードウェアとしてのLiDARを量産車に採用させたものの、ソフトウェアの部分はこれからバージョンアップさせていくだろう。いずれの技術戦略にしても、量産車に採用された後はユーザー体験とシステムの信頼性で競っていくことになる。
(翻訳・山下にか)
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