日本では犯罪、中国では商才。小学生が発案した「当たりの存在しないくじ」に教師の評価が真っ二つに分かれたわけ

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新聞社で10年ちょっと働き、未婚で息子を出産。男性優位、長時間労働の日本での仕事に限界を感じ、息子とともに日本を飛び出すことを決断した、経済ジャーナリストの浦上早苗さん。向かった先の中国で数々のトラブルに巻き込まれながらも自由な“人民たち”や留学生仲間、同僚の助けを借りて自身を再構築していく過程を描いた『崖っぷち母子、仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』から、中国と日本のビジネス習慣の違いを窺えるエピソードを一部抜粋してお届けします。

商機を探す習慣

留学生寮生活にすっかり慣れたある日、冷蔵庫の余りもので大量の炊きこみごはんを作った。私は残ったごはんを翌日の昼食にするつもりだったが、ソウはどんぶりによそい、「おすそわけしてくる」と出て行った。そして10分後、トイレットペーパー6ロールを手に戻ってきた。さらにお茶碗にごはんをよそって出て行き、今度は未使用の箱ティッシュを持って帰ってきた。

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トイレットペーパーはちょうど切れていたので、ごはんと引き換えに手に入ってとても得した気分だったが、ソウが「いやあ、これはいい商売だよ」とほくほくしているのを見て、こういう才覚はどこから生まれるのだろうと興味を持った。

日本経済新聞の名物連載「私の履歴書」にも、子ども時代に商売っぽいことをやって家計を助けたり、同級生相手に金を稼いで親や先生に怒られたりするなどのエピソードがよく出てくるが、今の日本ではあまり聞かない。一方、中国人は息を吸うように金儲けの機会を探している。

2010年代に日本に留学した中国人のほとんどがやっていた副業が「代購」、簡単に言えば転売ヤーだ。中国人の所得が上がり、海外製品を〝爆買い〟するようになると、海外に住んでいる中国人は一斉に転売ヤーになった。留学生たちは日本に着くとまずネットショップを開設し、自身のSNSで「仕入れたもの」「仕入れられるもの」を宣伝する。注文が入ると手数料を上乗せした価格を受け取って、発送する。

ドラッグストアや家電量販店で購入したものを、自身の利益を上乗せして転売し、郵便局から発送するという非常に原始的なビジネスモデルなのだが、中国政府が個人輸入に関する法律を見直すくらい広がった。学生転売ヤーがものを売るのはSNSでつながっているリアルな友達なのに、100円ショップで買ったコスメを1000円で転売したりしていて、DNAの違いをまざまざと感じた。

小学校の前では、登下校の時間に文房具を売る人がいた。商売は常に近くにあった

いや、DNAというより環境なのかもしれないと、中国で暮らしているうちにどんどん商魂たくましくなっていくソウを見て思った。ソウ10歳の夏、小学校でフリーマーケットと縁日を足して2で割ったようなイベントがあった。ソウは夕方、本を何冊も抱えて帰って来た。聞くと、家からペンを2本持って行って、物々交換で少しずつものをグレードアップし、最後に自分が気に入っていた漫画のシリーズ一式に換えたという。

そこまでは私も感心した。だが、ソウはこの体験で味を占め、どんどんあこぎになっていった。

小学生の商売のからくり

次の縁日イベントの日、ソウはお手製のくじ引きを作って行った。

番号を書いた小さな紙に糸をつけ、紙の部分を中身の見えない箱に入れる。糸を3本引いて現れた数字の組み合わせが、1等賞から3等賞に該当すれば賞品がもらえるという設計になっていた。

縁日の後、「いやー、儲かった儲かった」とご機嫌で帰ってきたソウは、テーブルに小銭をじゃらじゃらと出した。お札もちらほら、合わせて50元くらいあっただろうか。日本食のレストランで、ちょっといい定食が食べられるお金だ。

「このお金どうしたの?」と聞くと、ソウは「くじ引きで儲けた」という。

「え? 本物のお金でやってたの?」

だいぶ中国マインドが身についていたとはいえ、根本はしっかり日本人の私は慌てた。小学校のイベントなのに現金でやりとりするなんて、生きた金銭教育と言えなくもないけど、怖いよー。ソウはさらに恐ろしいことを言った。

「当たりは1人も出なかった」

そう手作りのくじ引きであたりは一人も出なかった。

え、えーーーー。10歳のソウがどのくらい計算ずくだったのかはわからないが、当たりの出る確率をエクセルで計算してみると、1000分の3しかない。ソウは家からゲーム機を持ち出して、1等の賞品として子どもたちを釣り、1回5元でくじを引かせていた。中には何回も挑戦する子どももいたという。

ちょうどその頃、日本では高級ゲーム機の賞品で客を釣って当たりの存在しないくじを引かせていた露天商が詐欺容疑で逮捕され、ニュースになっていた。ソウのやっていること、日本ではほぼ犯罪じゃん。

私はソウに「商売は、相手も自分も幸せにならないと続かないよ」と、「買い手よし、売り手よし、世間よし」を理念としていた日本の近江商人の話をした。賞品を掲示しているのに、当たりを出さないで、お金だけもらうのは良くないことだと諭し、儲けたお金の一部で、次の縁日の賞品を準備するよう言い聞かせた。

翌日夕方、託児所にソウを迎えに行くと、先生たちが私を見るなり「縁日の話聞いたよ。ソウはほんと賢いね」「将来金持ちになるよ」と口々に褒めてくれた。

え……。

私が昨日ソウを説教したのに、中国の託児所では賞賛されている。近江商人の理念はここでは通じないのか。先生に褒められたソウは、私に遠慮しつつも嬉しそうにしていた。商売に多少の図々しさ、交渉力は必要だけど、日本でそれやったら「賢い」じゃなくて「ずるい」となるんだよ。その点だけは日中でダブルスタンダードを持つのではなく、日本基準に合わせてほしいと、平凡な日本人の私は願ったのだった。

浦上早苗:早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社記者、中国・大連に国費博士留学、少数民族向けの大学講師を経て現職。主な分野は中国新興企業、価値観・時代の変容と経済活動、マス向けコミュニケーション。近著に『崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』(大和書房)『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。

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