EV、PHVの保険料は高級車並み。それでも保険会社は赤字、その理由

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中国では電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)など新エネルギー車の普及が進んでいるが、SNSで新エネ車の保険に関わるトピックを検索すると、「保険料が高い」、「更新料が高い」、「ガソリン車よりもお金がかかる」といった不満が多く見られる。

新エネ車のオーナーが自動車保険料の高さを嘆く一方で、保険会社の多くは保険料収入が増加を続けているにもかかわらず、損益分岐点上で苦しんでいる。新エネ車は自動車保険を主力とする損害保険分野で、保険会社の「お荷物」になりつつある。

シャオミEVの保険料はBMWレベル

2024年4月、広東省深圳市に住む楊さんは人生初となる自家用車を手に入れた。購入したのは約30万元(約660万円)の小米汽車(Xiaomi Auto)のEV「SU7」で、初めての自動車購入ということもあり、堅実に小米汽車のアプリで直接自動車保険に加入した。

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楊さんによると、アプリでは保険会社3社から選択が可能で、内容にわずかな違いがあるものの、保険料はいずれも通常コースが約9500元(約21万円)、VIPコースが約9900元(約22万円)だった。

自動車購入にあたって下調べしたところ、深圳市はそもそも他の都市に比べて自動車保険料や新エネ車の維持費が高く、「9900元という保険料は、おそらく40万元(約880万円)のBMWやアウディなどに相当するレベル」と楊さんは指摘する。

楊さんの感じた印象を裏付けるデータがある。中国銀行保険信息技術管理が公表した「新エネ車保険市場分析レポート」によると、新エネ車の平均保険料はガソリン車よりも約21%高かった。

中国のシンクタンク・盤古智庫でシニア研究員を務める江瀚氏も、最近新たに購入した理想汽車(Li Auto)の新エネ車について、車両価格はそれまで乗っていたガソリン車よりも安いが、保険料の初回支払いが7000元(約15万円)と以前の倍になり、中国平安保険には引き受けを拒否されたという。

新エネ車の保険料が高くなる理由について、江氏は以下のように分析する。まず新エネ車の技術革新が速く、車両価値の評価が複雑になるため、保険会社がリスク評価と料金設定により多くのリソースを投じる必要があり、運営コストが増加していることが挙げられる。

次に、新エネ車はバッテリーやモーターなどの主要部品のコストが高く、破損した場合の修理費用が高額になるため、保険料が高くなってしまうという。保険会社としては潜在的なリスクをカバーするために、料金を高くせざるを得ないのだ。

さらに江氏は、急成長期にある新エネ車市場では関連データが十分蓄積されておらず、保険会社がリスクを正確に予測することが難しいため、一部の保険会社では慎重な姿勢をとり、更新条件を厳しく設定していると見ている。

シャオミ車オーナーの楊さんは自身の経験から、このほかに2つの原因を付け加えた。ひとつは、シャオミなど新エネ車の価格帯やブランドイメージから、初めて自動車を購入する若年層が大半を占めており、こうした初心者ドライバーは事故率が高いこと、そしてEVはガソリン車よりトルクが大きく加速性能に優れているため、スピードが出やすく事故のリスクも高くなるということだ。

このことは事故発生率にも反映されている。東呉証券によると、新エネルギー車の保険使用率はガソリン車の約2.5倍になるという。申万宏源証券の調べでも、新エネ車のうち自家用車の事故発生率は30%と、ガソリン車の19%に比べ明らかに高くなっている。

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保険会社は赤字ラインぎりぎり

東呉証券の分析によると、新エネ車は営業用車両の比率が高く、若いユーザーが多いことや、維持管理が難しいことなどが相まって、保険使用率が高くなっているという。申万宏源証券の調べでは、新エネ車の保険使用率は平均で85%に迫っている。

保険使用率の高さは保険会社のコンバインド・レシオを直接押し上げることになり、負担増につながる。(編集部注:コンバインド・レシオとは保険会社の収益力を示す指標で、損害率と事業費率を合算したもの。低いほど収益力が高く、100%を超えると赤字)

保険業界専門メディアの慧保天下が損害保険会社84社の2024年1-9月の支払能力についてまとめたところ、49社でコンバインド・レシオが改善したが、それでも52社が100%を超えていた。つまり、損害保険会社の半数以上が赤字のリスクを抱えていることになる。

保険会社の損害保険部門で主力を担っているのは自動車保険だが、新エネ車の普及が進むにつれ、保険支払額の増加は保険料の増加をはるかに上回っている。例えば2023年には前者が80%だったのに対し、後者はわずか2%だった。

東呉証券の予測では、新エネ車の保険料は2025年に1947億元(約4兆2800億円)規模に達し、自動車保険全体の約20.1%を占める見込みで、2030年にはそれぞれ4821億元(約10兆6000億円)、約37.1%になるとしている。つまり、新エネ車の自動車保険が損害保険会社の収益に与える影響が徐々に大きくなるということだ。

現在の状況を見ると、新エネ車保険は保険会社にとって重荷となっている。中国人民保険の副総裁で人民財産保険総裁の于澤氏は2023年の決算発表で、新エネ車向け自動車保険事業ではコンバインド・レシオが自動車保険全体より約7%高いことを明らかにした。

また、2024年4月に自動車保険事業に参入した比亜迪(BYD)は、保険料収入を伸ばしているもののまだ利益を出せていない。最新のデータによると、同社の24年1-9月の保険事業収入は5億4600万元(約120億円)、うち7-9月期は4億7800万元(約105億2000万円)だった。一方で、24年1-9月の累計赤字は8780万9700元(約19億3000万円)で、7-9月期は1億600万元(約23億円)だった。

新エネ車の普及率が高まるにつれ、今後も新エネ車向け自動車保険が保険会社の利益水準を下げる状況が続くのだろうか。

これについて江氏は、業績に一定の影響を与える可能性はあるが、保険会社が価格設定モデルの最適化やリスク管理能力の向上を進めていくとの見込みを示している。東呉証券も、新エネ車と自動運転の登場により損害保険業界に新たなビジネス分野が生まれたため、保険業界としても発展モデルを再構築する必要があると指摘する。

新エネ車の保険料が今後下がるかどうかについて江氏は、複数の要因が関係していると考える。新エネ車の技術が成熟し市場が拡大すれば運用コストも下がると見込まれるほか、保険会社がリスク管理能力を改善し、保険料の合理化を進めることも期待できる。しかし同時に、支払コストの変化や政策変更などの要因が影響を及ぼす可能性もある。

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*1元=約22円で計算しています。

(翻訳・36Kr Japan編集部)

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