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中国発の越境電子商取引(EC)プラットフォーム「SHEIN(シーイン)」や「Temu(テム)」は、トランプ関税で世界の貿易が混乱する中で、新たな戦略的市場としてヨーロッパに注目している。
トランプ米政権は、4月に中国からの輸入品に対し145%に関税を引き上げた。これに対し、中国は米国製品に125%の追加関税を課した。米中間の貿易摩擦が激化し、世界のサプライチェーン(供給網)に深刻な影響を与えることとなった。
さらに米国は、中国(香港を含む)からの800ドル(約12万円)以下の小口輸入品に対する関税免除措置(デミニミス・ルール)を停止した。この政策停止は、小包配送を活用していた越境EC企業に直接的な打撃を与えた。Temuは新たな関税を回避するため、米国での販売を現地事業者に移管し、米国内で取引を完了させると発表した。
こうした状況を受け、中国企業は新たな販路を開拓するため、欧州や東南アジアなどの市場への投資を増やしている。
米調査会社Sensor Towerによると、SHEINとTemuは欧州の複数の国でマーケティングを強化しており、中でもフランスと英国での広告費が最も増加している。SHEINのこの両国での広告費は前月比で35%増加し、Temuもそれぞれ40%と20%増加した。
SHEINの欧州子会社の決算資料によると、2023年の売上は前年比68%増の76億8400万ユーロ(1兆2600億円)に達しており、SHEINにとって欧州は重要な市場の一つとなっている。
Temuも欧州での現地化を加速させている。今年4月、国際物流大手DHLとの提携を発表し、特に「ローカル・トゥ・ローカル(local-to-local)」のモデルを進めている。将来的にはこの方式が欧州における総売上の80%を占めるようになる見込みだ。
一方で、TikTok(ティックトック)は「TikTok Shop」を通じてEC事業の拡大を進めており、これまでにイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなどの地域でサービスを開始した。
アリババ傘下のAliExpress(アリエクスプレス)もまた、欧州市場に深く根付いている。データサービスのSimilarweb(シミラーウェブ)の統計によると、スペインとフランスはアリエクスプレスのトラフィックへの貢献度で4位と5位に位置し、スペイン市場ではアマゾンに次いでトラフィックのシェアで2位になった。
さらに、京東集団(JDドットコム)はイギリスで越境ECサイト「Joybuy」のテスト運営を開始している。同社のもうひとつの小売ブランド「ochama」は、オランダ、ポーランド、フランスなどに自社倉庫を設置し、欧州24カ国で「ドア・ツー・ドア」の配達と、セルフ引き取りのサービスを提供している。
市場規模という点では、欧州は世界第3位の小売EC市場であり、2023年の市場規模は6319億ドル(約92兆円)と、大きな可能性を秘めている。

しかし、欧州市場の複雑さを無視することはできない。地理的にも言語的にも多様で、東欧から西欧までの各国の経済力、消費の習慣、ECの普及率には大きな違いがある。また、さまざまな地元のEC企業があり、市場シェアを多くの企業で分け合っている。さらに、データ保護から環境規制まで、欧州の市場アクセスルールも比較的複雑で、特に大規模プラットフォームに対する規制を強化する傾向にある。
*1ドル=145円、1ユーロ=163円で計算しています。
(36Kr Japan編集部)
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