中国イノベントと武田薬品、最大1.7兆円のライセンス契約 「Co-Coモデル」でリスクと利益を共有

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中国バイオ医薬品企業の信達生物製薬(Innovent Biologics=イノベント・バイオロジクス)と武田薬品工業は10月22日、総額で最大114億ドル(約1兆7500億円)規模となるライセンス契約を締結したと発表した。

この契約は、中国の製薬企業が海外大手と組むライセンス契約としては過去最大級の規模とされる。イノベントが開発する新たな抗体医薬品のグローバル展開に向けた重要なステップとなりそうだ。抗体医薬品には、抗体(がん細胞を標的化)と細胞毒性薬物(がん細胞を殺傷)を結合した新世代の抗がん治療薬などが含まれる。

契約によると、まず12億ドル(約1800億円)の一時金が支払われる。このうち、1億ドル(約153億円)は武田によるイノベントへの出資金として充てられる。また、進捗に応じて最大102億ドル(約1兆5700億円)に上る成功報酬(マイルストーン)も盛り込まれている。

イノベントは今回の取引について「中国企業が創薬で海外に進出する際のライセンス契約として、史上最高額を更新した」と述べた。この金額は、2023年に第一三共製薬が英アストラゼネカと結んだ次世代型のモノクローナル抗体薬物複合体(ADC)に関する取引の220億ドル(約3兆4000億円)に次ぐ、世界第2位の規模とされている。

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「Co-Coモデル」:リスクと利益を共有する新たな協業形態

今回の協力の中核となるのは、免疫活性化をがん局所に限定することで高い効果が得られ、「ファースト・イン・クラス(FIC)」になる可能性がある画期的な新薬だ。対象は、PD-1/IL-2二重抗体薬の「IBI363」と抗体薬物複合体(ADC)の「IBI343」だ。IBI363は肺がんや大腸がんに、IBI343は胃がんやすい臓がんの治療への応用が期待されている。

また、早期開発段階の二重特異性ADC「IBI3001」に関しては、武田に対して選択権(オプション)のみを付与する形となった。

従来の「一括ライセンス譲渡」とは異なり、イノベントは武田と共同で開発コストを分担し、将来的な利益を共有する「Co-Development & Co-Commercialization:共同開発・共同販売」モデル(以下、Co-Coモデル)を採用した。武田が中国本土、香港、マカオ、台湾を除く世界地域での開発や販売の権利を得る。米国市場では、両社「武田6対イノベント4」の比率で共同開発費・利益分配を行うという。

この種のモデルは、ブロックバスター薬(年間売上10 億ドル超が見込まれる画期的な新薬)にのみ使われることが多い。イノベントは、武田のグローバル臨床・承認・商業化のノウハウを活用し、自社を「中国発の新興バイオ企業」から「グローバル・ファーマ」へと引き上げることを目指す。

一方の武田製薬は、80カ国以上で事業を展開し、売上高の52%を米国市場が占める。イノベントは、武田が描く今後5~10年のIBI363の開発計画は、自社のグローバル戦略と高度に合致するとの見方を示した。

イノベントの愈徳超会長は、「この提携を通じて、単なるビジネス上の協業に留まらず、自社のグローバル開発能力を高め、2030年までに世界をリードするバイオ製薬企業となる目標を達成したい」と語った。

注目のIBI363:次世代免疫療法の有望株

IBI363 は、世界で初めて第III相臨床試験に入ったPD-1/IL-2二重抗体薬であり、PD-1/PD-L1経路の阻害とIL-2シグナルの活性化を同時に行うことができる。これにより、従来のPD-1治療が効きにくい PD-1耐性患者やPD-L1のチェックポイントが効きにくい冷腫瘍(Cold Tumor)の患者にも有効である可能性がある。また、特定の腫瘍や抗原に限定せず、複数種類のがんや免疫環境に対して効果を発揮する次世代の「広範囲免疫治療法」として期待されている。

2024年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表された第I/II相臨床試験のデータによると、 IBI363は扁平上皮非小細胞肺がん(Sq-NSCLC)患者で顕著な有効性を示した。イノベントと武田もまずこの適応症を主要ターゲットとして開発を進め、今後、大腸がん・悪性黒色腫・胃がんなどへ適応拡大を計画している。ASCOの報告では、IBI363単剤を用いた進行性大腸がん患者の全生存期間(OS)の中央値は16.1か月に達し、 既存の標準治療を上回ったという。

今回の取引は、 金額の面でも協業モデルの面でも、中国の製薬会社が「世界の創薬勢力図」に本格的に参入したことを示す象徴的な一歩といえる。

*1ドル=約153円で計算しています。

(36Kr Japan編集部)

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