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ソフトウエアの世界では、自然言語でAIに指示してプログラムを行う「Vibe Coding(バイブコーディング)」が普及し、コードに精通していない人でもアプリケーションを開発できるようになった。こうした変化は、開発期間が長く技術的な参入障壁も高いハードウエア分野にも及び始めた。ハードウエア開発にAIを導入する「AI For Hardware (AFH)」という新たなパラダイムが、静かに動き始めている。
AIを活用したハードウエア設計プラットフォームを手がける中国スタートアップ「指数科技(Index Tech)」は代表的な一社だ。同社がこのほど、プレシリーズAで約1億元(約22億円)を調達した。雲啓資本(Yunqi Partners)が出資を主導し、誉尊資本と尚勢資本が参加した。指数科技が打ち出すのは、AIモデルを用いて電子回路図や組み込みコードを直接生成し、ハードウエア開発を「無人化」するという、これまでの常識を覆す発想だ。
目指すは電子設計界の「新エネ車」
指数科技は2023年12月に設立され、本社を広東省深圳市に置く。創業者の葉群松氏は過去に、米重工大手ハネウェル・インターナショナルのイノベーションラボに在籍していた。
電子設計自動化(EDA)分野は、米シノプシスなど少数の大手企業による寡占状態が長く続いてきた。葉氏は「既存の枠組みの延長では、後発企業が大手に追いつくのは現実的ではない」と判断し、アプローチそのものを変える必要があると考えたという。
「これまでのEDAは結局のところ作図ツールであり、エンジニアはいまなお作業時間の8割を配線や部品選定といった付加価値の低い工程に費やしている」。葉氏は自社を、電子設計分野における「新エネルギー車」に例える。燃料エンジンという従来の枠組みで競うのではなく、スマート機能やバッテリー性能など新たな価値で勝負するという意味だ。
指数科技の設計プラットフォームは、4層以下の回路基板を効率的に生成できる。消費者向け電子機器の大半をカバーできるうえ、開発期間はこれまでの20~30日から1~2日へと大幅に短縮できる。しかも、膨大な成功例でトレーニングしたAIモデルを使用するため、EMC試験(電子機器の電磁ノイズに関する試験)の初回合格率はエンジニアによる設計を大きく上回る。エンジニアによる設計では通常3~5回の手直しが必要になるのに対し、AIで設計した場合は2回未満で済むため、修正に伴うコストも大幅に削減できる。
汎用AIでは越えにくい参入障壁
汎用AIモデルが将来の競合になるとの見方もあるが、葉氏はハードウエア分野には独自の高い参入障壁が存在するとみる。
まずはデータだ。ハードウエア設計に関わるデータは形式がばらばらでノイズも多く、そのままではAI学習に適さない。指数科技は、AI学習に最適化したハードウエア向けコーパスを独自に構築し、大規模なデータ整理と合成を進めてきた。
第二は評価体系だ。ソフトウエアのコードなら、実行すれば即座に正誤が判明するが、組み込みコードはチップに書き込んで初めて検証が可能になる。指数科技は、強化学習と混合専門家モデル(MoE)をベースに、業界初となる組み込みコードを評価するベンチマークの構築に取り組んでいる。
現在、法人顧客40~50社にサービスを提供しており、年間の受注額は8000万元(約17億6000万円)を突破した。しかし、ただし、葉氏は「これはあくまで通過点だ」と話す。
今後は、まずメイカーのコミュニティーに参入し、徐々にプロのエンジニア層へと浸透させ、最終的には一般消費者にまでサービスを広げる構想だ。AIモデルが実際の利用シーンの中で進化していけば、将来的には、専門知識を持たない一般ユーザーも対話形式で要望を伝えるだけで、AIが設計を行い、製造サプライチェーンと連携して完成品を自宅に届ける世界を見据える。
同社の従業員数は50人未満で、今後も「100人を超えない」方針を掲げる。葉氏は「AIを前提にすれば、1人当たり売上高が1億ドル(約150億円)を超える企業が生まれても不思議ではない」と語る。法人向け事業はデータとキャッシュフローの基盤づくりと位置づけ、長期的には人員を増やさず、ツールの高度化によって成長を目指す考えだという。
ハードウエア設計のハードルが限りなく下がれば、煩雑な工程に縛られず、創造性を起点としたものづくりが可能になる。AFHは、ハードウエア開発の在り方そのものを変える起点となるかもしれない。
*1ドル=約154円、1元=約22円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)
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