Soraが消えた動画生成AI市場で、PixVerseが日本に本気を出す理由【再掲】
米OpenAIが動画生成AI「Sora」の終了を突然発表したことで、動画生成AIビジネスの収益性や著作権問題を巡る議論が改めて注目を集めている。
一方、2024年1月に動画生成ツール「PixVerse」をリリースしたスタートアップ・AIsphere(愛詩科技)の共同創業者・謝旭璋(Jaden Xie)氏は、自社サービスの商用化以来、早期段階からプロダクトの収益化を実現していることを挙げ、「Soraの終了はOpenAI特有の問題であり、動画生成AI市場そのものの成長性は依然として高い」と強調する。特に日本市場は世界的に見てもアニメ動画の生成が活発で、企業IPを活用した二次創作ビジネスの拡大が期待できるという。

AIsphere共同創業者・謝旭璋(Jaden Xie)氏
動画生成の圧倒的なスピード感
「PixVerse」は、北京に本社を置くAIsphereが運営する動画生成AIプラットフォームだ。同社は2023年3月、TikTokを運営するバイトダンスで映像技術責任者を務めた王長虎氏によって設立された。PixVerseは今年、グローバル顧客への対応強化を目的にシンガポールにも拠点を開設している。
共同創業者の謝氏によると、PixVerseの登録ユーザー数は1億人、月間アクティブユーザー(MAU)は1500万人に達し、2024年1月のリリースからわずか2年あまりで世界最大級のプラットフォームへ成長した。利用者は世界177カ国以上に広がり、国別では米国が最多。日本、ブラジル、インドネシア、西欧での利用も多いという。
同社は2026年3月、シリーズCで3億ドル(約480億円)を調達し、企業評価額10億ドル(約1590億円)を超える「ユニコーン企業」の仲間入りを果たした。謝氏は競合他社と比較したPixVerseの優位性について、Artificial AnalysisをはじめとするAIモデル評価サイトで、自社の動画生成モデルが2年にわたってトップクラスの評価を維持している点を紹介し、「技術力の高さとお得感」と説明した。


PixVerseの最新モデル「V6」は、Artificial Analysisの動画生成モデル評価で「画像生成部門」2位、「テキスト生成部門」4位にランクイン
特に生成速度は他社を大きくしのぐと強調、「PixVerseの最速モデルは、5秒の動画をわずか5秒で生成できる。他社ツールが同尺の動画に1〜2分を要する中、圧倒的な優位性となっている」と自信を示す。有料版は月額10ドル(約1590円)から提供。「同料金で他社より多くのサービスを提供しており、コストパフォーマンスの高さが支持されている」と分析した。

PixVerseの動画生成モデルによるアニメーション生成の一例
Sora撤退は「事業に及ぼす影響なし」
動画生成AI業界は、OpenAIの「Sora」が2026年3月に事業の終了と撤退を発表したことで激震に見舞われた。OpenAIは2025年9月に最新版の「Sora 2」をリリースし、同12月に米ウォルト・ディズニーとの提携を発表したばかりだった。背景には動画生成における膨大な計算リソースの消費と、収益モデル確立の難しさがあったとされる。
謝氏はSoraの終了について、「驚きはなかった」という。
「OpenAIは基盤モデルにおいて非常に強力だが、動画技術そのものの競争力は必ずしも高くなく、専業スタートアップに対する優位性を確立できていなかった。彼らが得意領域に集中すると決めたのは合理的な判断であり、私が同様の立場であれば、より早い段階で事業整理を判断した可能性もある」
動画生成AIのマネタイズが難しいとの懸念が広がっていることについて、謝氏は「我々は有料プランを始めた初月に黒字化した。動画市場そのものが巨大であり、Soraが最も話題を集めていた時期でもPixVerseのユーザー数は減らなかった」と述べ、Soraの撤退が事業に及ぼす影響は全くないと断言した。
SensorTowerの推計データによると、Soraアプリの30日継続率は8%とのことだった。これに対し、謝氏はSimilarwebのデータを引用し、PixVerseの直帰率(Bounce Rate)はSoraよりも低いと述べた。直帰率が低いという数値は、ユーザーがそのウェブサイト上で実際に試作を行おうとしている意欲の表れで、同氏は、「サードパーティプラットフォームのデータを見る限り、我々のアプリおよびウェブサイトの継続率は業界内でも最高水準にある」と語った。

日本市場の独自性に商機
PixVerseは消費者向けのツールの色合いが濃かったが、現在は法人需要の開拓にも本格的に舵を切っている。2026年1月には世界初となるリアルタイム生成を可能にする「R1」を発表したほか、同年3月末に発表された最新モデル「V6」では、音声付きの複数シーンを一括生成する機能を搭載。キャラクターの表情やカメラワークの安定性が飛躍的に向上し、プロの広告制作現場にも対応可能だとアピールする。
現在、テレビ局や映像制作チームなどの見込み顧客が、PixVerseの製品を導入して動画制作に活用する試みを行っているという 。例えば、交通事故のような危険を伴うシーンを生成技術によってどのように代替できるか、テストが進められている 。
今年に入ってオープンソースのAIエージェントツール「OpenClaw」が爆発的なブームとなり、ChatGPTに続く次世代のトレンドとして急浮上している。仕事を自律的にこなすAIエージェントは法人の業務を飛躍的に効率化すると期待を集めており、Open AIのSora撤退は法人向けAI市場やエージェント開発にリソースを集中させるためだと見られている。同社もエージェント分野の技術革新が動画制作を強力に自動化・後押しすると考え、OpenClawを組み込んだ製品をリリースするなど、潮流を捉えようとしている。
日本はPixVerseにとって、法人需要の拡大という観点でも重要な戦略市場の一つだという。これまで積極的なプロモーションやローカライズを行っていないにもかかわらず、ユーザー数は国別でトップ5に入っているからだ。
(PixVerseの最新モデル「V6」による生成動画の一例)
謝氏によると、日本市場の特徴は2点:
「一つはアニメ制作を目的とするユーザーが圧倒的に多く、アニメコンテンツがたくさん生成されていること。もう一つは、市場が非常に独立している。世界的なトレンドが必ずしも日本ではやるとは限らず、逆に日本の流行は海外へは広がりにくい」
裏を返せば、日本独自のニーズを深く理解しローカライズを進めることで、アニメ制作スタジオやプロクリエイターの利用を大きく伸ばせる可能性がある。
一方で、特に日本市場の深掘りにおいて避けて通れないのが「著作権保護」の問題だ。Soraのリリース時には人気アニメを彷彿とさせる動画が多数生成されて物議を醸し、バイトダンスの「Seedance 2.0」も同様の権利侵害が指摘され、同社はグローバル展開を延期した。
謝氏は「有名なIP(知的財産)の生成はできないようにしている。当社は著作権問題に同業他社より慎重に対応しており、その姿勢を証明したい」と強調する。将来的には、日本のクリエイターをはじめ、広告・マーケティングやアニメ・動画、Eコマースなど需要の高い業界の顧客開拓を進めるとともに、IPを保有する日本企業との協業を通じて、ユーザーが公式のIPを基に二次創作を楽しめるプラットフォームを提供し、企業のIPビジネス拡大を支援したいとの意向を強く示した。
文:浦上早苗
経済ジャーナリスト、法政大学IM研究科兼任教員。福岡市出身、早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で教員。現在は経済分野を中心に執筆編集、海外企業の日本進出における情報発信の助言を手掛ける。近著に『崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』(大和書房)『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。X: sanadi37
※本記事は2026年4月16日初出の記事「“Sora撤退は合理的な判断だ”ーー動画生成AIユニコーンPixVerseが語る『勝敗を分けた真因』」を再配信します。