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米デューク大学の行動経済学者ダン・アリエリー教授の研究によれば、人は適正価格かどうかを判断する際、記憶などの要素に大きく左右されるという。ある場合、消費者が自ら「安い」というイメージを作り上げているのだ。安さを売りにしている米会員制スーパーのコストコや中国のソーシャルEC大手「拼多多(Pinduoduo)」は、消費者のイメージをうまく誘導して成功したといえる。
「安い!」と感じさせるコストコの陳列マジック
コストコは世界8カ国に進出している米国最大の会員制倉庫型スーパーで、2018年の年間売上高は1000億ドル(約11兆円)以上に達した。6200万人以上の会員を抱え、会員更新率は実に88%に上る。
2019年8月27日、中国でコストコ上海店がオープンしたが、想定を超える客が殺到して一時閉店を余儀なくされた。オープン時に店内にいた友人から店内の商品陳列を聞いて、安いと感じさせるテクニックを分析した。
コストコ店内に足を踏み入れてまず目にするのが韓国メーカーLGの冷蔵庫だ。一般的なネット価格より400元(約6300円)近く安い。しかし冷蔵庫というのは購入頻度の低い商品だ。安いからといってすぐさま買う人はほとんどいないだろう。それでも、有名メーカーの商品が相場より安く売られているのを見て、多くの消費者は「やっぱりコストコは安い」という印象を抱くのだ。
店内をさらに進むと、コストコのプライベートブランドの日用品が現れる。日用品や生活雑貨は購入頻度の高い商品であり、特に主婦層はこれらの商品規格や価格を熟知している。プライベートブランドは宣伝費や輸送費を大幅に削減できるうえ、例えばティッシュの厚みを減らして原材料を節約するなど、独自の方法で価格を抑えることが可能だ。購入頻度の高い商品をプライベートブランドで安く販売することで、安いというイメージをさらに強化している。
店の一番奥には中国の有名な蒸留酒「茅台酒(マオタイ酒)」が超特価で販売されている。購入頻度が中程度のこの商品は、入り口付近ではなくあえて店の奥に陳列されている。そして超特価の茅台酒の隣にあるのがパン売り場だ。
パンは購入頻度が高いだけでなく、規格がさまざまなため、高いのか安いのかをすぐに判断するのが難しい。しかも店内を巡ってここに来る頃には、大部分の消費者は安いかどうか考えることもなくなっている。その結果「コストコのパンは安くておいしい」というイメージがすり込まれるのだ。
拼多多が送料無料でも安いカラクリ
拼多多の創業者である黄崢氏はかつて、目指すのは中国の「コストコ+ディズニー」だと語った。拼多多は、安いと感じさせるコストコの戦略をどう踏襲しているのだろうか。
もともと安価な商品を取り扱っている拼多多だが、安いというイメージを構築するために利用したのは「送料無料」だ。
拼多多が設立された5年前は、ECが中国で市民権を得てからすでに10年以上が経過した頃だった。何億人という消費者の意識に「送料」という概念ができあがっており、どこまでなら大体いくらか、消費者の多くは感覚的に分かっていた。
しかし拼多多のように集約されたECプラットフォームから大量に受注する場合、運送会社は相場よりずっと安い価格でサービスを提供できる。受注量が多ければ多いほど、1件あたりのコストが小さくなるからだ。
例えば、拼多多でリンゴ1キロが送料込み9.9元(約160円)で販売されているのを見て、消費者はこう考える。「送料だけでも9.9元以上するのだから、リンゴはタダ同然だ」
しかし実際にかかる送料はわずか1元(約16円)で、リンゴそのものの価格は500gあたり4元(約63円)と、スーパーと同じかむしろ高いくらいだ。それでも「送料無料」とうたうことで、消費者は「安い」というイメージを抱くようになるというカラクリである。
この手法は、ブランドの概念がなく、スーパーの価格が基準になる生鮮食品には適しているが、ほかの商品カテゴリにはたいてい代表的なブランドがあり、価格や利益が細かく設定されている。ブランド品の多くはそれ自体が高価で、感覚的に安いと感じるのは難しいだろう。拼多多は商品カテゴリを拡充することで、今後の大幅な収益アップを狙っているが、この方法が通用するかは定かでない。昨年第3四半期の決算以降の株価を見るに、投資家たちは一様に不安視している模様だ。
作者:庄帥零售電商頻道(Wechat ID:zhuangshuaiec)
(翻訳・畠中裕子)
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