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中国新エネルギー車最大手の「BYD(比亜迪)」が発表した最新決算によると、2020年第1四半期(1~3月)の純利益は1億1300万元(約17億円)で、前年同期の7億4973万元(約112億円)から85%もの減少となった。
業績不振の最大要因とみられているのは新型コロナウイルスの流行だ。しかし、2019年の財務報告によると通年の純利益は16億1000万元(約241億円)で、前年比42%減少となっている。つまり業績悪化の兆しは昨年からすでにあり、それがコロナ禍によって加速したに過ぎないといえる。
苦境を打開するためにBYDが目をつけたのは半導体事業だ。
4月14日、BYDは傘下の子会社「比亜迪微電子(BYD Microelectronics)」の組織再編を行い、新名称を「比亜迪半導体(BYD Semiconductor) 」としたことを発表、さらに単独で上場することに意欲的な姿勢も見せた。
存在感を増す半導体事業
比亜迪微電子はもともと、BYDの新エネルギー車向けパワー半導体「IGBT」を開発するために設立された。この特殊な半導体チップはバッテリーの電力をエアコンや駆動モーターに分配するなど電力の変換や制御を担うもので、現時点で第4世代まで進化している。
名称変更後の比亜迪半導体は、BYDグループ傘下の半導体産業チェーンを集約し、スマートICチップや光チップなどを含む幅広い事業を手がける。
BYDの意図は明確だ。新エネルギー車向け車載チップを中核に、工業用チップとコンシューマー向けチップをサブに据えて、国産チップへの移行が進む半導体業界でシェア拡大を図り、業績回復への望みをつなごうというものだ。
実際、ベンチャー企業への投資に慎重な姿勢が見られる中で、半導体分野への影響は比較的小さい。2000億元(約3兆円)規模の第2期「国家集積回路産業発展投資基金(通称、大基金)」が始動したことも業界にとっては追い風となっている。
看過できない現状
BYDが半導体に本腰を入れたのも苦しい裏事情があるからだ。
同社の公式データによると、2014~2018年の純利益率は5.3%から2.73%へとほぼ半分に低下しており、自動車業界の平均水準に遠く及ばない数字になっている。2019年の業績速報では売上高や純利益など主要指数が軒並み前年を下回った。
その背景にあるのは主力事業である新エネルギー車販売の低迷だ。2018年6月以降、新エネルギー車の購入補助金が削減され、中国の新エネルギー車の販売台数は大きく落ち込み、BYDの成長に大きな影を落とした。
さらに2019年、米テスラの快進撃によりBYDは新エネルギー車の販売台数世界一の座を明け渡す。テスラが中国工場での生産を始めると消費者の多くがテスラに流れ、BYDの販売台数は急落した。
バッテリー事業も困難が山積みだ。
BYDは得意とするリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを武器に2016年のバッテリー市場で中国トップ、世界ではパナソニックに次ぐ第2位の座を獲得した。しかしわずか1年後、三元系のリチウムイオンバッテリーを主力とする「CATL(寧徳時代)」が41.2%という圧倒的な市場シェアを奪って、業界の王者に君臨することになる。
今年3月にBYDは熱安定性の高い次世代バッテリー「ブレード・バッテリー」を投入して首位奪還に意欲を見せたが、苦境に立たされているという事実に変わりはない。
追い詰められたBYDとしては、業績回復の足がかりを見つけることが喫緊の課題となってきた。
立ちはだかる2つの壁
この状況で多大の期待を背負っている半導体事業だが、この道のりも決して平坦とはいえない。簡単には超えられない2つの大きな壁がそびえ立っているのだ。
まず、競合する新エネルギー車メーカーにとって、BYDの半導体チップを採用することはライバルにお金を払い、そのうえ製品を無料で宣伝するようなものだ。わざわざ自社が不利になるような選択をするメーカーがどれほどいるだろうか。
次に技術面の問題がある。IGBTチップを例に挙げると、BYD製の最新版は第4世代だが、海外大手企業はすでに第6世代を製造している。この技術の隔たりは簡単には埋められない。現在、中国のIGBTは大部分を輸入に頼っており、海外メーカーの独壇場になっている。
苦戦する新エネルギー車販売や首位奪還を狙うバッテリー事業で形勢を逆転し、さらなる飛躍を実現するには、半導体産業への参入が最も確実に思える。だが、そのためには並々ならぬ努力が求められるはずだ。BYDはその重圧に耐えうる実力を持ち合わせているか、真価が問われる。
作者:鋅刻度 (Wechat ID:znkedu) 陳鄧新
(翻訳・畠中裕子)
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