中国ITメディアがやってきた – 山谷 剛史

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中国ITメディアがやってきた – 山谷 剛史

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36Kr日本語版がスタートするという。中国では近年人気が上昇する中国ITサイトの日本語版で、大変いいことだと思う一方、日本でのITサイトとは全く異なるので、読者が誤解をしないか心配だ。

日本語でIT事情を紹介するだけなのに、全く異なるのだ。その違いは「モノづくりの日本」と「商売の中国」のようだ。日本のIT系メディアがモノづくりに注目するなら、中国のIT系メディアはマネーの動き、つまり投資・企業買収・企業合併・経営者人事や、その噂話が注目のポイントである。中国メディアにとって分解記事も製作者インタビューも主役にならない。圧倒されるモノのクオリティよりも、まずはマネーをどれだけ調達するかが最重要事項であり、興味の対象であり、デジタル製品のこだわりやスペックのすごさはあまり紹介されない。人口13億の中国のITニュースを読む多数派は、マネーの動かし方を日々読まされている。モノ作りから入った日本の記事とは大きく異なる。

そんな36Krが伝える中国のITに、日本が世界が注目している。正確に言えば、2018年現在、注目している人と注目していない人がはっきり分かれている。中国に注目している人は、その関心度が非常に高い。QRコードによる電子決済しかり、シェアサイクルしかり、フードデリバリーのバイクしかり、配車サービスしかり、インターネット企業が一気に変えた世界に驚いている。ついこの前までは貧しい人々と思われたガサツな男たちが、スマートフォンを駆使して、配車サービスやフードデリバリーサービスで動き、昭和レトロのような雑貨屋で、アントフィナンシャル(螞蟻金服)の「Alipay(支付宝/アリペイ)」、テンセントの「WeChatPay(微信支付/ウィーチャットペイ)」といったQRコードによる電子決済を活用している。

AlipayやWeChatPayの電子マネーが投資にまわせることで巨大な投資金が動く一方で、Alipayの芝麻信用(セサミ・クレジット)により、クレジットカードがもてない人々に信用情報を与え、お金のない人でもお金を借りて、オンラインショップや農機の購入など、起業資金や運転資金が借りられるようになった。

ITに関心がある地域に限らず、幅広い地域で、幅広い層に新しくも定番のサービスは人々にリーチしているが、そこまでの中国全土での広い普及には、圧倒的な投資が必要だ。投資が不十分だった数年前とは状況が異なる。自転車などのハードウェア量産や、広告宣伝に投資を行い、認知させることで、アーリーユーザーが一気に増え、彼らが周囲を巻き込んでユーザーを増やしていく。投資を受けるだけでなく、また合併や買収により規模を大きくしていく。2012年の動画サイトの優酷(Youku)と土豆(Tudou)の合併、2015年のアリババによる、合併した優酷と土豆の買収、2015年の滴滴打車(DiDi)と快的打車(Kuaidi)の合併後、そこに投資するアリババとテンセントをはじめ、それより小さい企業の投融資や買収は数多くある。最終的に残った、中国メディアの間では「AT」と呼ばれるアリババとテンセントをはじめ、その後に続く百度(バイドゥ)、京東(ジンドン)、美団(メイトゥアン)などは、オンラインとオフラインをつなぎ、中国の生活空間を一気に変えてくる。一気に変えるからこそ、世界は驚き、その変化を学ぼうとしている。

また中国企業は海外への進出に積極的だ。「一帯一路」「走出去」といった政治的な海外進出を推す背景もあるが、海外に出ることで投資家を呼び込み納得してもらえるという経済的な意味合いもある。中国人にとって日本は有名だ。日本に中国発のサービスが進出すれば中国で十分に話題になるから、中国企業の進出先としては日本は実に魅力的だ。

若者にとっての日本といえば、そのコンテンツ力であり、中国人にとって魅力のある国だ。ある中国の調査においては、中国人の趣味に日本語が唯一語学として挙がった。日本のアニメや漫画やゲームなどのコンテンツを求めて中国人が日本語を学び、そんな日本的なサブカルを伝えるポータルサイト「ビリビリ(Bilibili)」はニューヨークのNASDAQ市場に上場し、日本でのスタジオ立ち上げ、日本発のアニメコンテンツ作りをはじめようとしている。ゲームもしかり。日本の声優を大勢採用した網易(ネットイース)の「陰陽師」や、ビリビリが中国で運営するFate/Grand Order(FGO)などの様々な日本的タイトルが中国人の日本サブカルファンに人気となっている。またその影響で日本の声優も人気になっている。

中国から見た日本といえば越境ECや、日本への海外旅行にも注目が集まる。またEC祭りは年々盛り上がる。アリババ傘下の天猫(Tmall)という毎年11月11日に新記録をたたき出す巨大サービスと、アリババ包囲網のECの京東とSNSのテンセントが提携して新しい仕掛けを行う。天猫や京東では、毎年取引額の新記録が更新されるとともに、無人倉庫やドローンや無人運転車がお披露目され、リアルショップをも巻き込んでお祭り会場を拡大していく。ECだけでなく、中国に暮らしていると、インターネットの流行の変化が当たり前になる。中国にいるとむしろ変化がないほうが不思議な感じがしてしまうのだ。市民の「変化するのが当たり前」という気持ちがあるからこそ、変化への対応はスムーズだ。

一方で、ITに限った話ではないが、中国は新しい事柄やイベントを紹介していく一方、その後どうなったかという話は長く追わない。失敗談があまり出ず、過去を振り返らないことから、大風呂敷を広げやすい。「白髪三千丈」という言葉には、本来の意味とは別に「中国人は表現が大げさ」という別解釈ができているが、中国メディアでは日常的に大風呂敷を広げたニュースが報じられる。

日本のITメディアと中国のITメディア、どちらが正しくてどちらが誤っているかではない。……いや、世界における中国のITの存在感が日増しに高まっていて、メディア記事に乗せられて消費者も企業も踊る中で、中国ITメディア式報道が勝者であり正義かもしれない。日本のIT系メディアをそれほど読み続けてない、若い読者が増えていけば、中国式の報じ方やエコシステムがスタンダードになるかもしれない。日本のIT系メディアを読み続けていた読者は、前提として中国メディアのクセを理解していただければと思う。そしてそんなクセのあるニューカマーであり黒船が、この36Kr日本語版なのだ。

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