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独自動車部品大手ボッシュグループ傘下のベンチャーキャピタル「ロバート・ボッシュ・ベンチャー・キャピタル(以下、RBVC)」のパートナー・蒋紅権氏は、英オックスフォードにある「WaveOptics」のオフィスを2015年に初めて訪れた。当時AR向けレーザーモジュールの研究開発を手掛けるスタッフは10人に満たなかったが、彼らのラボは蒋氏に鮮烈な印象を与えた。特に驚きだったのは、ARグラス用のオプティカルイメージング技術が可能にした広い視野やレンズの薄さ、高い良品率だ。
当時、ボッシュグループは世界トップの自動車部品および工業技術のサプライヤーであることを武器に、ARの工業分野での実用化を目指していた。傘下のRBVCは投資を通じ、ハードウェアを起点に業界の主流サプライヤーをけん引することを目指した。
RBVCはその後、WaveOpticsに対するシリーズAでの出資を主導した。同時期、「戈壁創投(Gobi Partners)」のパートナー・朱璘帯氏もAR分野の開拓に苦労していた。ボッシュと戈壁創投は長年の提携関係にあり、戈壁創投は2017年に中国のベンチャーキャピタルとしては唯一、WaveOpticsへの出資に参加した。
その後、RBVCと戈壁創投はシリーズB、シリーズCと続けてWaveOpticsへ出資した。WaveOpticsの現CEO・David Hayes氏もRBVCの蒋氏の紹介でWaveOpticsに加わった。これらを機に製品の実用化が加速し、後に写真共有SNS「Snapchat(スナップチャット)」を運営するSnap社によるWaveOptics買収へ繋がった。
2021年5月末、Snap社は、WaveOpticsを5億ドル(約550億円)で買収すると発表した。買収費用の半分は買収完了時点で株式で支払われ、残りは2年後に現金あるいは株式で支払われる予定だという。
今回の買収によって、RBVCと戈壁創投も大きなリターンを手にした。
産業界での立ち位置
2015年前後は、世界中でAR/VR技術への注目がピークに達していた。海外ではヘッドマウントディスプレイを開発する米「Magic Leap(マジックリープ)」が5億ドル(約550億円)の巨額の資金調達を行った。中国ではVRヘッドセットを開発する「暴風集団(Baofeng Group)」を始め多くのメーカーが資金調達や新製品リリースに踏み切った。
しかしブームはまもなく終息し、Magic Leapの新製品は遅々としてリリースされず、製品のデモ映像も特殊効果を使って撮影されたものと判明した。暴風もリストラの危機に陥り、最近では音沙汰もなくなった。シャオミなど、業界参入を目指していた企業も次々に撤退している。
今回のSnap社による巨額買収は、業界にとって一種のカンフル剤となったようだ。
WaveOptics買収後、Snapは公式文書の中で、今回の案件が特にARグラスのリリースを計画している競合相手に対する強力な対抗手段になり得ると表明している。
Snap社はARへの野心を鮮明にしている。スマートフォンの成長は頭打ちで、フェイスブックを含むソーシャルメディア大手は、アプリではスマートフォンの応用シナリオをこれ以上発展させるのは難しいと認識している。一方、ARは新たな可能性を孕む。
しかし現実は過酷だ。今年上半期は、動画配信プラットフォーム「愛奇芸(iQiyi)」傘下のVR関連企業「愛奇芸智能(iQIYI Intelligent Entertainment Technology)」、VRヘッドセット開発の「Pico」、VR用インタラクション技術の「NOLO(凌宇智控科技)」などが相次いで資金調達を発表したが、多くの業界関係者は「資金調達の話題は多いが、売り上げに繋がっている企業はひとつもない」と述べている。
エコシステムが崩壊する前にAR/VRメーカーは産業界での立ち位置と価値を見出さなければならない。
B2B市場はARの実用化の希望になると考えられている。蒋氏は「ボッシュは例えばオートバイ用ヘルメットに搭載するディスプレイや自動車のフロントガラスへのディスプレイ搭載などを模索中だ。もちろん、製品には高い品質が求められ、工業全体が成熟して初めて、自動車や工業分野からの需要に応えられる」と述べている。
B2C市場では、決定的な応用シナリオが生まれ、デバイス価格が1万元(約17万円)を切らなければ、大規模な普及は難しい。Snap社のCEOも「ARグラスが主流になるまでには10年ぐらいかかるだろう」と述べている。
(翻訳・普洱)
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