「人間の脳を模した」スマート補聴器、中国新興が開発 低コスト・高性能も実現

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音響技術を手がける「音科思技術(INCUS)」がプレシリーズAで数千万元(数億円)を調達した。出資はリードインベスター「GRC富華資本(GRC SinoGreen Fund)」のほか、「博通集成電路(BEKEN)」も参加した。

音科思は革新的な音響技術や製品を有するスタートアップ企業で、ニューロモルフィック(脳の構造を模した)生物工学の技術と先進的な半導体製造工程を融合させ、 セルフフィッティング(自己調整)や雑音除去が可能な補聴器を実現。聴覚障害者に快適な聞こえの体験を提供する。

音科思創業者の張健鋼氏(左)と蘇孝宇教授(右)

利用率わずか5% 巨大な中国の補聴器市場

中国で近年高齢化が進み、消費者向け電子製品が普及するにつれ、聴覚障害者が増え続けている。北京聴力協会が2019年に発表したデータでは、中国では現在、程度はさまざまだが聴力に障害を抱える人が7200万人にのぼっている。うち老年性難聴者が6000万人に迫っているが、補聴器の利用率は5%に満たず、先進国とは大きな隔たりがある。

現在、中国の補聴器市場は二極化している。高価格帯補聴器市場は長年にわたり海外ブランドに独占されており、しかも補聴器は基本的に保険適用外であるため自費で購入するケースが多い。六大メーカーに代表される医療機器レベルの補聴器は一般的に2万元(約34万円)以上する。

長年にわたる技術研究の結果、音科思は2020年に軽中度の聴覚障害者向けの高性能スマート補聴器「風筝(Kite)」を発表した。ニューロモルフィック生物工学技術で実現した自動雑音除去性能を独自の優位性とし、補聴器を装着する本人自身の声を除去したり、Bluetoohイヤホンへ切り替えできたりする機能をセールスポイントとしている。同製品の雑音除去効果は品質指標 PESQ(Perceptual Evaluation of Speech Quality)に準じており、どの音量レベルでも高価格帯補聴器の世界五大ブランドの製品に勝っている。さらに先進的な半導体製造工程を駆使して開発したSoC(システム・オン・チップ)により、高性能・低消費電力を実現し、海外ブランドよりも大幅な低価格を実現した。

林鄭月娥(キャリー・ラム)香港特区行政長官(左から三番目)に風筝を紹介する音科思創業者の張健鋼CEO(右端)

自社開発のSoCが強みの一つに

音科思はもともと音響学研究や音響処理分野で技術的優位を有する。さらに今回の資金調達ラウンドに参加した博通集成電路は、無線通信用チップ設計で有名な上場企業だ。同社が音科思のチップ設計を支援したことで、独自のSoC「音科魔笛(Magic Flute)」を開発することに成功した。

風筝が搭載するSoC「音科魔笛(Magic Flute)」

音科魔笛のコアアルゴリズムはニューロモルフィック工学に基づく聴覚モデルをベースとする。複数の人物がいる環境や騒音のある環境下でも対応できる人の脳の信号処理メカニズムを模しており、自己適応アルゴリズムを通じて能動的に環境に適応し、信号と雑音を自動的に分離してターゲットの信号を増幅させる。また強力な演算処理能力を有しており、従来型の補聴器が左右それぞれにチップを搭載していたところを一つのチップで両耳の信号を処理できるようになったため、左右が独立しながら協調処理が可能だ。

創業者の張健鋼CEOは「今回の資金調達を通じて音科思はコア技術と競争優位を引き続き向上させ、最先端のニューロモルフィック動体補正技術、ハウリング抑制技術、AIによるシーン検出・適応技術、環境音除去技術、ニューラルネットワークによる音声強調技術と高水準の半導体製造工程によるSoCとを協調させ、音科思の技術や製品の武器としていく」と述べた。

同社の技術は補聴器以外にも通信機器、音声雑音除去、音声認識、スマートホーム、インテリジェント車載システム、ヒューマンマシンインターフェースなどに幅広く応用できる。すでに家電メーカーの康佳(Konka)、TCLなど中国国内で有名な複数のメーカーとも提携しているという。
(翻訳・愛玉)

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