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急激に店舗を増やし「VR版ラッキンコーヒー」と形容される店舗がある。「STEPVR(北京国承万通信息科技)」の「未来戦場」という店舗であり、そこで「未来戦場」というゲームを遊ぶことができる。STEPVRは今年シリーズA+とシリーズBで連続で計1億元近い資金調達を行った。10月中旬の時点で130店舗程度だが、年内には500店舗を、来年には3000店舗オープンを目指す」と意気込んでいる。
未来戦場は文字通り未来の戦場をモチーフにしたVRを用いた対戦ゲームだ。VRというと体を座るなり立って固定するなりして遊ぶのがこれまでの常識だったが、広い店舗内でゴーグルを装着したまま歩いて移動し、銃型のコントローラで敵を狙い撃つ。映像は以前のVRゲームよりも表現が豊かでリアイティが高まり、3DCGの世界の中で動きまわれる。未来戦場は「MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)」と呼ばれる2対2か5対5でパーティーを組んでの対戦ができるが、STEPVRによれば、1000平方メートルの場所で40人同時プレイが可能で、将来的には更に広い6000㎡の空間で遊べるようになるとのこと。STEPVRはバーチャルで歩いて遊べる未来戦場を「eSports2.0」というキーワードでアピールしている。
中国各地のモールに続々と新店舗ができていて、プレイ代金は2時間で300元(約5000円)前後と決して安くはない。それにもかかわらずその新体験を経験しようと多くのユーザーが利用した。中国各地の店舗での美団点評での評点では数百人が評点、5点満点中で満点を叩き出すなどコメントでも評価は高い。
VRはこれまで失敗続きだった。2015年に中国のVR熱は高まり、VR機器が続々と登場し話題を呼び、モールにはVR体感ゲーム機が置かれた。しかし2016年から2018年はVRにとって氷河期時代と称されるほど冷え込み試練を迎えた。かつてVR熱が盛り上がった2016年11月時点で中国全土でVR体験店は儲けを見込んだ人々が続々と設置し3000店舗を数えるほど急増したが、動画を見るだけだったりシンプルなゲームだったりすることから消費者はすぐにそれらに飽き愛想をつかし、リリース当初は1日20~30人は利用していたのが、1日2人の利用まで減った。 新たにVRゲームをその後開発し新たな体験を提供するも、盛り上がりは少なく遊んだ人もつまらないと判断すれば離れていく。多くのVR企業がゲーム用途は期待できないとして、個人ユースからビジネスユースにシフトした。
STEPVRはそんな「VRゲームなんて面白くない」というイメージを、店舗拡大の勢いと話題性と良質なコンテンツで覆し、ひいてはエンタメとしてのVRが広く注目される可能性がある。成功の要素と失敗の要素を挙げていこう。
成功要素は中国で最も人気のゲームジャンル「MOBA」をそのまま体を動かしVRにする形で拡張しているということだ。中国でMOBAといえばテンセントのスマートフォン向けゲーム「王者栄耀」であり、若いインターネットユーザーなら誰もが知るところ。ゲームルールを飲み込みやすく、また遊び方のツボは何かをネットユーザーは心得ている。これが口コミ評判のよさにもつながっているのだろう。
また技術力が高いことが挙げられる。STEPVRは新たに発明した特許が60超あるなど、技術的に高く目新しい。投資を行った一社の上海国盛は「我々がSTEPVRへの投資に参加したのは、人間と機械のインタラクションとレーザーキャプチャのコア技術において、中国国内だけでなく、国際的にも主導的な地位を占めているという強みがあること。また2019年以降、3年連続で収益を上げているてこの事業の発展見通しに楽観的であること」と語り、また「STEPVRが上海にオペレーションセンターを設置するが、これにより現地の戦略的新興産業に新鮮な血液をもたらし、Win-Winの関係を実現する」ともコメントしている。
その技術力ととっつきやすさから、南昌で行われた中国のVR企業が一堂に集う「世界VR大会」では、「未来戦場」のゲーム大会が大々的に行われた。また新たなタイトルも投入することから、未来戦場だけで続けるわけではないのも安心材料だ。
他方失敗の要素としては、中国人は流行に敏感で熱しやすく冷めやすいということが挙げられる。これまでモール内のハイテク系トレンドは、導入された当初は盛り上がるが、数か月もしないうちに熱気がなくなるということばかりだった。モール内の各施設や店舗が消費者が滞在時間を取り合うわけだが、この先VR以上に面白く話題のトレンドが投入されたら消費者はそこに足が向いてしまう。そうなってしまうと利用者はぐんと減る。
またVRで優良なコンテンツを遊ぶのはこれが初めてではない。中国開発のVRのほかにPlayStationVRのタイトルが遊べるネットカフェのような施設が長らくあるが、それほど盛り上がっておらず、マニアのための機器にとどまっていた。遊べるゲームが用意されていても必ずしも遊ばれるわけではない。
STEPVRは中国で最も進んだコンシューマー向けのVRゲーム提供企業だ。同社のほかにも体を動かさないタイプではネットイースなどがVRの新規タイトルを用意したゲームセンターのようなVR体験スペースをオープンするほか、VRを活用した最新映像作品を見るイベントも開催されている。相乗効果でVR業界が盛り上がる可能性は大いにある。
また海外進出も視野に入れているので、興味があればSTEPVRなどのVR企業に声をかけてみてはいかがだろう。
作者=山谷剛史
アジアITライター。1976年東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。単著に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』などがある。
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