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重度の聴覚障害者にとって最も有効な補助器具が埋め込み型の人工内耳だ。マイクで集めた音をスピーチプロセッサで電気信号に変え、体内に埋め込んだ電極から聴神経を直接刺激して、音として認識する。
現在、埋め込み手術を含めた人工内耳の価格は17~27万元(約270~430万円)。多くの患者が二の足を踏む金額だ。なぜここまで高価なのか。
人工内耳は、小さな本体に複雑な電子回路やスピーチプロセッサ、埋め込み電極、エンコーダなどを組み込んでいるうえに、体内装置を小型化したり、防水性を持たせたりする必要があり、高度な技術が求められるからだ。
また、人工内耳は最も要求水準が高い医療機械に分類されることも一因。販売許可を得るためには動物実験や臨床実験などのプロセスが必要で、販売後も患者や執刀医に対して継続的なサポートを行わなければならないのだ。つまり人工内耳には新薬開発に匹敵する時間とコストがかかる。
「諾爾康(Nurotron)」は中国国内で初となる人工内耳を開発し、2011年に国家食品薬品監督管理局(CFDA)第三類医療機器認証、2012年にCEマークを取得した。この10年近くの間に数億元(1億元=約16億円)を費やしたという。
高度な技術が求められる人工内耳は、市場集中度が極めて高い。諾爾康の製品が販売されるまでは、中国の人工内耳市場は外国企業4社の独占状態だった。中でも世界で約60%のシェアを持つオーストラリアの「コクレア(Cochlear)」が中国市場で7割以上のシェアを有していた。
外国企業の市場独占で価格が高止まりしたことに加え、海外製品では中国語特有の四声(編注:音の高低)に十分に対応できないことから、国産の人工内耳が必要なことは明らかだった。そこで諾爾康は製品価格を海外製品の3分の2に抑え、7年かけて中国市場でのシェアを約17%にまで伸ばした。
同社CEOの李楚(Li Chu)氏によると、中国に900万人以上いるとされる重度聴覚障害者のうち、人工内耳手術に適応する患者は少なく見積もって600万人だが、実際に手術を受けた患者はわずか7万人ほどだという。患者一人の費用を平均10万元(約16万円)とすると、潜在的な市場規模は約6000億元(約9兆円)に上る計算になる。
人工内耳市場に進出している国内企業はまだ少数だが、環境が好転してきた。北京や上海、広東省などで人工内耳が医療保険適用となってハードルが下がったことや、人工内耳の埋め込み手術を行う手術用ロボットの実用化で医師の負担が軽減されたこと、人工内耳用の「汎用型」チップが流通するようになったのだ。
この先の5~10年は中国の人工内耳技術の急成長期になるかもしれない。
(翻訳・畠中裕子)
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