メタバースで注目、中国のVRオフィスを訪問してみた。リアル再現はなお課題

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インターネット上の巨大な仮想空間「メタバース」で何ができるようになるのか。この1年でさまざまなアイデアが示されてきた。このうち最も普及が進んでいるのが、仮想現実(VR)端末を使うVRオフィスだ。

米メタ(旧フェイスブック)は2021年、新たなサービスとしてVRオフィスプラットフォーム「ホライゾン・ワークルーム(Horizon Workrooms)」を発表。VRゴーグルを使えば、分身のアバター姿で個人が自由に会議を開いたり、参加したりできるようにした。同社は続いてアプリ版の「ホライゾン・ワールド(Horizon Worlds)」を打ち出したが、完成度を疑問視する声も出た。こうした中、多くのソフトウエア会社がVRオフィスのあるべき姿を模索し続けている。

中国上海市に本社を置くIT企業「花動伝媒(Huadong Media)」は今年2月、自社開発したVRオフィスプラットフォーム「ARK」を公開した。姜民求・創業者兼最高経営責任者(CEO)は36Krに対し、「当社のオフィスは今年6月30日に賃貸契約満了を迎える」とした上で、「契約は更新せず、オフィス機能を全面的にARKに移行する」と明らかにした。全従業員の「出社」がARK上で済むことになる。

VR端末は依然として普及率が低く、機能にも限界がある。花動伝媒は、ARKに複雑なレンダリング(データを演算処理して可視化する)効果を加えず、ブラウザからログインするだけで仕事を始められるようにしたという。

今回36Krは、ARKで運用されている同社のVRオフィス「花動タウン」を訪ねて取材した。オフィス内を歩くアバターの後ろには社員の顔が表示され、画面右端には接続中の社員のアイコンが並ぶ。

デスクを囲む社員のアバターに一定の距離まで近づくと、ログイン中の社員の顔が表示され、音声通話もできた。

新型コロナウイルス流行の影響もあり、世界的に多くの企業がテレワークを導入するようになった。しかし、従来型のテレワークでは、人材の採用活動や新入社員とのコミュニケーションが難しいという問題があった。ARKはこれらの解決に努めたという。

姜CEOは、メタバースの基本理念は「『楽しさ』と『主体性』だ」とした上で、「リアルな没入感と、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用する次世代インターネット『Web3(3.0)』という独特の価値が全く新しい体験をもたらしている」と説明。10代から20代前半のZ世代の働き方に触れ、(VRオフィスは)仕事に楽しさと主体性を求めるZ世代の感性に合っているとの見方を示した。

ARKは、世界中からハイテク人材を呼び込むのにも役立っている。花動伝媒が21年12月にARKを利用して開いた就職説明会には、米ハーバード大学をはじめ世界の名門大出身者100人超が集まった。現在、韓国やフランス、日本など各国の社員がARKを通じて働いているという。

同社によると、ARKの導入により、運営コストは従来から9割近く減った。オフィス賃料やデスクなど事務用品の経費が不要となったためだ。一方で、コスト削減分を還元する仕組みを作り、全社員に「リモートワーク環境づくり支援金」を支給したという。このほか、ARK内のVRオフィスを他の企業に貸し出すビジネスモデルも展開中だ。

普及し始めているVRオフィスだが、依然として短所も存在している。「仕事と私生活を切り離して考えられない」「1人のランチは寂しい」といった声もよく聞かれる。

しかし、花動伝媒の技術系幹部によると、社員同士の交流の問題さえ解決できれば、オフラインと同様の休憩時間を過ごせるようになり、同僚と一緒に仕事をしているリアルな雰囲気が味わえるという。同社の商品管理責任者は、ARKの中に社員同士が自由に会話できる専用ルームを今月中に開設すると明らかにした。総務的な役割を担う担当者も配置する予定という。
(翻訳・田村広子)

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