バイトダンス、香港上場計画示す2つのシグナル:中国版TikTok「抖音」分離か

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TikTok運営元バイトダンス(字節跳動)の香港法人が社名を変更した。香港で会社登記を管轄する公司註冊処(Companies Registry)によると、「字節跳動(香港)有限公司(Bytedance(HK) Limited)」は今月8日、「抖音集団(香港)有限公司(Douyin Group(HK) Limited)」と社名を変えた。他にもバイトダンス傘下の複数の企業が社名を「抖音」関連に変更しており、中国の企業登記情報サイト天眼査(Tianyancha)によると、「北京字節跳動科技有限公司(Beijing Bytedance Technology)」も「北京抖音信息服務有限公司」に変更された。「抖音(Douyin)」とは、TikTokの中国版の名称。

そのわずか2週間前、バイトダンスは新CFOに高准(Julie Gao)氏を迎えたと発表した。米スキャデン・アープス法律事務所でシニアパートナーを務めた人物で、これまでにスマートフォン大手シャオミ(Xiaomi)、生活関連サービスプラットフォーム美団(Meituan)、ソーシャルECプラットフォーム拼多多(Pinduoduo)など複数のインターネット企業の上場に携わってきた。高氏は香港とシンガポールに常駐して業務を執り行う。

前後して明らかになった2つの重要情報は、バイトダンスが香港市場に上場し、なおかつ短編動画プラットフォームの抖音事業を切り出して単独で上場させるとの情報の信憑性をさらに裏付けるものとなる。

最も容易な選択は、抖音の分離上場

バイトダンスが上場するとの噂は2017年ごろから絶えない。20年10月には抖音事業を単独で香港市場に上場させることを検討中とも報じられた。同社の担当者は当時、報道に対して「一部の事業を上場させる計画はあるが、最終決定には至っていない」と述べている。

バイトダンスにとって、現段階では抖音事業を分離して上場させることが最も容易な選択だ。

昨年11月、バイトダンスは組織再編を発表し、6大ビジネスユニット(BU)として短編動画「抖音(Douyin)」、教育ブランド「大力教育(Dali Education)」、オフィスツール「飛書(FEISHU)」、クラウドプラットフォーム「火山引擎(Volcengine)」、ゲームブランド「Nuverse(朝夕光年)」、抖音の海外版「TikTok」を設立した。そして抖音BUにニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」、動画共有アプリ「西瓜視頻(Xigua Video)」、検索エンジン「頭条捜索」、インターネット百科事典「快懂百科」と国内向けサービスを組み入れた。同BUは単体でバイトダンスの収益の70%近くを占める。

子会社を分離して上場させる方法は中国のインターネット企業の間では定石となっている。EC大手京東集団(JD.com)は20年12月にヘルスケア事業「京東健康(JD Health)」を、21年5月に物流事業「京東物流(JD Logistics)」を上場させた。ゲームなどのオンラインサービス大手ネットイース(網易)も21年5月に音楽配信事業「網易雲音楽(ネットイース・クラウド・ミュージック)」を切り出して上場させている。

別の角度からみると、こうした上場の方法は法令遵守を考慮したものでもある。

長年にわたり資本業務に携わってきたある弁護士によると、中国では現在データ・セキュリティに関する監督管理が厳しくなっている。国家インターネット情報弁公室は今年1月に「サイバーセキュリティ審査弁法」を改正し、100万人以上の個人情報を有するインターネットプラットフォームが海外で上場する場合、サイバーセキュリティに関する審査を受けることを義務付けているほか、中国証券監督管理委員会(証監会)も中国企業が海外で上場する場合の規制を強化している。

証監会は昨年末にも「国内企業が海外市場で株式を発行し上場する際の国務院の管理規定(意見募集稿)」を公布しており、中国企業が海外で上場するための直接的あるいは間接的な活動について統一した届出管理を実施していくとした。

つまりバイトダンスが上場する過程でこの新規定が施行され、証監会に対する届出制度が実施されれば、バイトダンスは香港上場の手続きと同時に証監会に対しても届出の手続きを行っていく必要がある。

新CFOの高准氏

今回、バイトダンスの新CFOとして高准氏が抜擢された背景の一つは、同氏がこれまでに多くの中国企業の米国・香港上場に携わってきたこと、もう一つはバイトダンスが法令遵守を重視していることだ。

また、抖音事業だけを切り出して上場する選択は、バイトダンス全体の評価額が膨らんだため市場が受け入れられない可能性を考慮してのこととも考えられる。中国の民間シンクタンク胡潤研究院の昨年の推算によると、バイトダンスの評価額は2兆2500億元(約42兆6900億円)。証券会社で香港上場業務を担当する業界関係者は「この規模からみると抖音事業が単独で上場したとしても、香港の株式市場から莫大な資金が吸い取られてしまう。バイトダンス全体ならばなおさらだ」と述べる。

上場に向けたシグナルはすでにいくつも発しているが、バイトダンスは現在のタイミングで急いで上場することはないかもしれない。上記の業界関係者によると、現在は市場からの評価額や資金の流動性が低いため、上場を申請済みの多くの企業が上場のペースを緩めているという。

また、米ブルームバーグは関係者からの情報を引用し、証券取引市場でのバイトダンスの現在の評価額が2500億ドル(約32兆2500億円)以上だと報じた。市場が低迷する現在、バイトダンスが上場を急げば理想の価格には届かないかもしれない。これまでバイトダンスと提携してきたと思われる多くの投資銀行はいずれも、抖音が本格的に上場準備を始めたとの情報は聞いていないとし、向こう半年は動きはないだろうと推測している。
(翻訳・山下にか)

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