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ゼロコロナ体制が終わり、ビザを取得すれば中国に旅行に行けるようになった。中国に関心がある日本人はいて、中国に行くのを心待ちにしている人もいる。しかし中国に行けるからといって、中国で外国人が観光できる環境になっているかというと、そうではなないという指摘が中国である。その理由としてビザの取得が必須になったことや、航空券やサーチャージの高騰、日本の事情としては進む円安が挙げられるがそれだけではない。中国の事情から中国旅行、特に中国ツアー旅行について難しくなった理由を挙げていく。
中国人観光客向けに最適化された観光の環境
3年間ゼロコロナ体制となり、外国人観光客向け市場は多くの大きな変化を遂げた。
観光地だが、スマート化によりオンラインで予約を入れないと入れない観光地が増えた。これが微信でないと対応できないし、キャッシュレスでないと支払えないし、身分証ではなくパスポートだとオンライン予約という場所もあり一苦労する。
中国人は「観光地に行く前に予約をする」ことに慣れており、旅行会社が国内旅行者とチケットを争うのは難しく、まとめてチケットを用意するとなるとダフ屋から高額でチケットを買わなければならないケースも発生する。ハイシーズンになると、故宮博物院をはじめとした人気の観光地の入場券はすぐに予約完了となってしまう。旅行代理店でどうにかなるわけではなく、旅行商品の値段を上げても解決しない。
多数派で支払いのよい中国人観光客のニーズに応え、観光地は音と光による派手な演出や体験型サービスを強化した。歴史ある痛んだ建物は新しくなり、「多くの都市で似たようなつくりの街並みしか見られなくなった」と関係者は語る。沿岸部だけでなく、内陸西部の地域まで多くの中国人が飛行機、鉄道や自動車を駆使して観光にいくことで観光地は変わった。同関係者は「例えば、顧客を西部の貴州省に連れていき、少数民族の村を見に行こうとするなら、さらに奥地まで行かなければならないかもしれません」と語る。中国の昔ながらの風景を色濃く残すところを探すのも難しくなった。
鉄道や高速鉄道の切符の入手も困難になっている。以前は旅行代理店は団体チケットの申し込みと発券を1カ月前から行うことができた。しかし現在は団体予約と発券の時間が一般のチケット取得時間より24時間遅くなった。旅行代理店でチケットを予約した場合でも、駅の窓口や端末でパスポートを提示し認証作業を経て、紙のチケットを印刷して乗車する必要がある。
食事と宿も変わった。コロナの3年間でほとんどの団体向け観光客向けレストランは倒産した。生き残ろうとするところは基本的に団体観光客を受け入れず、たとえ受け入れたとしても食事の値段が旅行代理店の予算をはるかに上回るものに。ホテルはOTAの変動価格設定に慣れ、旅行代理店と低価格で固定個室の契約を結ぶことに消極的となっている。コロナ前の段階でも既にほとんどのホテルは旅行代理店に提供する客室数の割合を非常に小さくしていた。「見積書に参考価格を出している主要ホテルもありますが、あくまで参考価格で、旅行代理店と年間契約をしてくれるホテルはありません」と関係者は語る。
不足するツアーガイド
また大きな問題として、ツアーガイドが圧倒的に不足しているということがある。個人旅行者には関係のない話にはなるが、コロナ以前を振り返ると日本の旅行代理店の店舗に上海、北京や西安などの中国ツアーのパンフレットが置かれていたのを覚えている読者もいよう。
ツアーガイドの基本給は非常に低い。そこをお土産屋の誘導で賄っていたが、それもだんだんとなくなっていき、それをフォローする形で会社が負担し給料を上げた。それでも外国語ツアーガイドの給料は安い。中国旅遊集団のスウェーデン語ツアーガイドの劉叢氏は「話者が少ないので収入の上限は見えていて、2012年から2015年までスウェーデン語ツアーガイドとして働いていたとき、月収はせいぜい5、6000元でした。あるとき中国人海外旅行団体のガイドをはじめてやっと所得が上がりました」と自身の状況を説明した。
中国人の所得が上がり、現地で爆買いした中国人観光客によりガイドも潤った。中国人の海外旅行者を案内したほうが稼げるようになり、中国の新商品が高級化し、高価格化を目指しているのと同様に、多くの旅行会社が旅行商品の変革とアップグレードを実施し、高品質のツアーと小規模のツアーの数が大幅に増加した。
つまりツアー料金が高くなり、そこでもガイド代金は値上がりした。もはや相対的に稼げない外国語でのサービスは善意、プライドや趣味のレベルになる。外国語ツアーガイドは実は「民間外交」の仕事で、一般の添乗員よりも高い学歴や語学力、コミュニケーション能力が求められるにもかかわらず、外国語ツアーガイドが得られる収入は一般の添乗員よりも低いという「パラドックス」に陥っている。そこに止めを刺したのが人の流入を止めたゼロコロナ政策だ。
中国政府(文化和旅遊部)の「全国旅行社統計調査報告」によれば、中国のツアーガイド数は2019年の約12万1700人から2021年には9万4000人へと減少。成都ガイド協会副会長の王栄氏は「3年間で8割減った」と語った。ゼロコロナ期間も多少は需要があった中国国内旅行向けのガイドはまだ良いほうで、外国語で説明もできる外国人向けのガイドが壊滅的だ。
中国金メダルツアーガイドで海外インバウンド観光推進家の竇俊傑氏は「現在、外国人向けのサービスはもうありません。外国人向け観光ガイドのガイドポストに残る人は10%もいません。たとえ一部が戻ったとしても、コロナ前と比べて人材不足が続いていくでしょう」と語っている。外国人向けガイドもコロナ以前まではまだ頑張っていたが、ゼロコロナで全く客が来ないので、そのほとんどが中国人向けガイドに職を変えてしまった。
王氏は「中国のインバウンドとアウトバウンドの観光は完全には始まっていない。そもそもツアーガイドの大規模な採用は行われていない」と語る。ゼロコロナを経て中国人観光客向けに最適化した観光業はいつ海外からの観光客に目を向けるのか。本来の中国の外国人観光客受け入れ態勢は来年、あるいは再来年まで待たなければならないかもしれない。
(作者:山谷剛史)
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