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2023年の中国はこれまでになく消費が落ち込んだ。当初はゼロコロナ体制が終わり、全面的な景気回復と遅れた分を挽回する年になると思われていたが、最初の3カ月しか続かず、その後、低迷した消費で好転しない話ばかりが目立った。
実際に訪日中国人観光客は他国がコロナ前まで回復しているのに対し2019年比77%減と少なく、中国最大のEC商戦「ダブルイレブン(双11)」は盛り上がりに欠け、翌12月に開催されたEC商戦「双12」は開始以降初めてアリババが商戦を取りやめるなどネガティブなニュースが多かった。
もうひとつ大きな動きとしては、中国トレンドの変化がより早くなった。つまりトレンドが盛り上がっても数カ月もすると鎮静化するのだ。中国最新のトレンドを追いかけても「トレンドの変化が早すぎる」という悲鳴も聞いた。こうした逆境の中でも比較的安定して盛り上がった2023年の中国トレンドについて以下に紹介したい。
今年は景気に影響されて消費者の財布のひもが固くなった。市場調査会社「QuestMobile」が行った中国の消費調査によれば、20代の高額消費が減少し、入出金を管理するアプリや中古ECアプリの利用者が増加し、着回しできる服が人気になった。一方で医療・健康・娯楽・教育への消費が増加したということでモノよりもコト消費に進んだともいえる。
店舗数を増やし続けているラッキンコーヒーが販売した高級白酒「貴州茅台酒」とのコラボラテは数少ない今年を代表するヒット商品のひとつだ。格安でカジュアルに茅台を体験できるとあって大きな話題となり、茅台も将来の見込み顧客を増やした。ラッキンコーヒーほか各ティードリンクチェーンは今年様々なIPコラボを行い、他のキャラクターの入ったグッズのプレゼントなどを販売し話題作りに走った。
モノのトレンドよりもコト消費のトレンドの話題をよく見た。特に中国国内での消費の話題が多く、新しい形の旅行や遊びが流行した。
例年中国国内の旅行先は大都市が人気になるのだが、今年はこれまで話題に挙がったこともない地方都市の話題がたびたび話題になった。特に貴州省の「村超」と山東省「淄博」市の淄博串焼(淄博烤肉。淄博バーベキュー)は今年中国メディアやAIによるトレンドワード10選に選ばれるほどの人気っぷりで、中国の新しい地域おこし手法として評価された。村超は貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州の村対抗サッカー(村FA)と村対抗バスケットボール(村BA)という狭い地域内での催事だ。それにもかかわらずネットで注目されるや毎回5万人以上の観客を引き付け、数百億ビューの動画再生数を記録した。
一方淄博串焼は、串焼屋台通りを用意するだけでなく、専用列車やバスも用意し祭りの雰囲気を演出するだけでなく、騙されることなく徹底して安心して楽しめる、おもてなしを重視した町おこしで、こちらも今年前半は大きな話題になり地方再生手法として多くの自治体関係者が視察しに行った。
かつての日本のバックパッカーの再来のような「特殊兵式旅行」が若者の間で人気になった。これは「限られた時間で」「できるだけ多くの場所に行き」「庶民的なモノ・コトを体験する」というのがモットーだ。移動には交通費の安い硬座(ハードシート)を好んで使い、宿泊は物価が安く景徳鎮などの観光拠点によい江西省南昌などで安く泊まるか、高いところであれば野宿、そしてやることといえば多くの観光地で訪問記念にご当地スタンプを集めるという旅のスタイルだ。
また、音楽フェスが地方都市を含め多数開催され、それを求めて旅行する人も話題になった。その人気から蜜雪氷城や元気森林や隅田川珈琲といったドリンクブランドや化粧品各ブランドなどの企業が音楽フェスを開催し、ブランドの認知度向上とポップアップショップによる商品体験への誘導を狙った。現場でアーティストの応援グッズ販売で便乗する商魂たくましい人が出てくる一方、会場や各種機材や警備に係る費用も上昇し、チケット代がどんどん上がる一方でアーティストは一向に稼げないという悪循環も明るみになった。
都市内の旅行も盛り上がり、街の魅力を深堀して再発見するぶらり旅「シティーウォーク(CityWalk))」が人気に。これは地域に詳しい人が、歴史や文化やお勧めする店などを紹介しながらぶら歩きするイベントで、その人気から小紅書などのサービスもこの流れに乗り、地域の店舗と提携した街歩きスタンプラリー用のカードを販売。また、中高年が利用する若者には不便な「農貿市場(生鮮市場)」がぶら歩き先として再評価された。
一方、海外旅行は控えめだった。例年人気の日本ではALPS処理水の海洋放出が、タイをはじめとした東南アジアでは特殊詐欺でイメージ悪化があり客足が遠のいた。だが例えば化粧品をとっても処理水問題以前から日本ブランドの人気は下がっていたし、他の国への海外旅行も話題としてそれほど見なかったので、そもそも反向消費なのか中国国内旅行だけで満足する人が多かったのではないか。中国で様々な日本の商品が買えるようになったこともあり日本への爆買いは一見落ち着いている。日本での中古のブランド品や貴金属の中国への転売を行う代理購入業者はいて、中国でのニーズは局所的にある。
今年の中国トレンドを象徴するキーワードのひとつが「反向消費」だ。買い物をするときに商品が人気があるかどうかを優先して買うのではなく、自分のスタイルにとって合うのかというのをより注意して消費するという意味だ。そこで闇雲に高い商品を購入しようするのではなく、安くて良い製品を選ぶようになった。企業側はより高い製品へと誘導しようとしたが、高額なスマートフォンが軒並み売れなくなったほか、高すぎる値段のティードリンクやコーヒーやアイスに手を出さない傾向になった。今年からのトレンドではないが、以前はライブコマースで人気インフルエンサーが売れば飛ぶように売れていたが、ブランド担当者や関係者がちゃんと説明すると欲しい人に声が届いて買うようになったというのも反向消費のひとつといえる。
(作者:山谷剛史)
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