原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録
Z世代の台頭、3年に及んだコロナ禍による価値観の変化、そして景気停滞……中国の消費は複数の要因が絡みあい、転換点を迎えている。成長は鈍化したものの市場規模は圧倒的に大きく、質を求める消費者が増えたことで高級品やニッチな商品の需要も高まっている。日本企業は中国の消費者にどうアプローチしていくべきか。
6億人が利用するショートムービープラットフォーム「抖音(Douyin)」傘下のEC事業「抖音商城全球購(Douyin EC Global)」と中国テックメディアの「36Kr Japan」が12月に、共同開催したイベント「日本企業に知ってほしい“一歩先“~中国新・消費市場の再認識セミナー」では、中国マーケティング関係者が小売りの変化について紹介した。そこで語られた体感や洞察を参考に、小売り・ECに関する10大トレンドを選んだ。
➀ショートムービーで情報を入手
中国インターネット情報センター(cnnic)の2023年の調査によると、中国のショートムービーユーザーは10億人を超え、ネットユーザーの94%に達した。ネットユーザーは1日のインターネット利用時間の31%、2.5時間をショートムービーに消費し、全ユーザーの半分近くがショートムービーから情報を入手している。
「今の消費者は、ニュースやファッションなどの情報もショートムービーで検索する。動画を楽しむこととショッピングも一つの行動になっている」(王喬氏)
②KOLからKOCへ
中国向けマーケティングでは以前から「KOL(キーオピニオンリーダー)」、いわゆるインフルエンサーの活用が鍵とされていたが、最近は自分の所属するコミュニティで影響力を持つ消費者「KOC(キーオピニオンカスタマー)」の活用がトレンドになっている。
「KOCは素人に近い立場だが、好きなものに対する専門性は持っている。それが消費者にとってはよりリアルに感じられる」(王喬氏)
アパレルECの「SHEIN」は、KOCをうまく使ってSNSで口コミを産み、成功につなげた会社の代表格と言われる。
③日本は2023年がライブコマース元年
中国は2016年にライブ配信が一気に浸透し、(配信しながら商品を売る)ライブコマース市場も開いた。今では個人や企業、プラットフォームが日常的にライブコマースを行うようになった。
「対して日本は、企業が月に1度などのイベントで実施するのが主流。2023年の日本は、ライブコマース元年と言われた中国の2016年の状況に近いのではないか。まだライブコマースを行うKOLは少ないが関心は高まっている。今後、中国のようにもっと身近な手法になっていくだろう」(藤瀬公耀氏)
④ECでのAI活用が加速
中国ではAI(人工知能)でつくったバーチャルヒューマンをKOLに登用したり、EC店舗で商品説明をさせる取り組みが数年前から進んでいるが、ChatGPTの登場で生成AI技術が大きく進展し、活用のハードルは一気に下がった。
「EC に必要な画像や動画のコンテンツは、 これまで数日かかっていたものがAIで数時間でつくれる世界に突入している。生成AIの進化が速すぎて将来像は見通しにくいが、民主化が加速するのは間違いない」(藤瀬公耀氏)
⑤KOLから自営店ライブコマースへ
中国のネットセールを盛り上げる上で重要な役割を果たしてきたのがKOLだ。「口紅王子」の愛称で知られる李佳琦氏は、越境ECに関わる日本人にも周知の存在だろう。
一方、消費者とブランドのエンゲージメントを強めるために、KOL頼みのマーケティングからの脱却も求められている。
「KOLに依存したライブコマースは、コストもかかってしまう。自社でライバーを雇って自前のライブコマースを行い、売る力を高める施策に取り組んでいる。KOLと自営店ライブコマースの比率を同じくらいにしたい」(坂部智久氏)
⑥小売りチャネルのデジタル化
ECだけでなく、実店舗もデジタル化、テクノロジー化が進んでいる。たとえばカフェチェーンのアプリで事前に注文・決済して店頭に取りに行ったり、SNSでお勧めされたレストランのクーポンを購入して訪問するようなスタイルが当たり前になってきた。
「リアル、EC問わず認知から消費までの一連の行動にプラットフォームが重要な役割を果たすようになった」(黄益氏)
⑦消費が「冷静に」
2023年11月のEC商戦「独身の日(ダブルイレブン)」では、経済の減速や消費の成熟を反映し「冷静な消費」がキーワードとなり、セールを行うプラットフォーマーの多くが割引のルールを簡素化した。
「以前はセールの熱気で衝動買いをしていた消費者も、良いものを適切な価格で購入したいという考えに変化している。高級品を買うとしても、各プラットフォームや店舗を比較して最もお得に買おうとする」(黄益氏)
⑧日本ブランドの人気続く
中国人の消費力が高まり、海外旅行者が激増した2010年代は「インバウンド消費」「爆買い」が注目を浴び、多くの日本ブランドが中国市場開拓に力を入れるようになった。日本ブランドの人気は継続しているが、中国ブランドが台頭したこともあり、かつてのような「日本ブランドというだけで飛ぶように売れる」時代ではなくなっている。
「Douyin ECのプラットフォームでの国別人気ランキングで日本ブランドは3位に位置しており、安定した人気を誇る。だが中国の消費者の選択肢が増えているので、そういった市場変化を理解し、現地に合ったプロダクト開発やマーケティング手法が生き残る上で必要」(黄益氏)
⑨動画でストーリー伝える
2016年ごろから成長が始まったライブコマースは、店舗の営業や対面活動に制限が出たコロナ禍に爆発的に広がった。農家や工場など生産者自らライブコマースを行うことで、商品の背景がより深く伝わったり、消費者との結びつきが深まるメリットが広く知られるようになった。
「(越境ECを支援している)日本のブランドのショートムービーでは、ブランドの背景についてお問い合わせをいただくことが非常に多い。商品のストーリーを伝えやすい動画を、日本ブランドの権威付けや付加価値を高めるために活用したい」
⑩移住者のデータ分析をマーケに活用
博報堂生活総研(上海)が2022年に発表した調査によると、従来の中国の移住はより大規模な都市への移動が標準だったが、コロナ禍で働き方の柔軟性が増したことなども背景に、QOL(生活の質)を重視して大都市から小さな都市に移住するなど、自分の望む生活スタイルに合わせ住む場所を決める人が増えた。
「調査では移住によって可処分所得が増えた人が約7割いた。経済成長が減速し、マーケティングも新規顧客の獲得から他社からシェアを奪うブランドスイッチにシフトしていく中で、移住者の特徴をデータ分析してエリア別のマーケティングを行うことで機会を見つけることができるだろう」(鐘鳴氏)
<イベント登壇者>
博報堂生活総研(上海):所長 鐘鳴氏
Ocean Engine(巨量引擎):Senior Product Strategiest 王喬氏
株式会社いつも: ライブコマース事業 事業責任者 兼 合同会社ピースユー 代表社員 職務執行者 藤瀬 公耀氏
株式会社いつも:ジェネラルマネージャー 坂部 智久氏
Douyin EC Global(抖音商城全球購): Senior BD Director 黄益氏
参考:https://eventregist.com/e/1XrPO9FL5p2S
(作者:浦上早苗)
原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録