しくじり中国企業の失敗事例、勢いある企業も陥る落とし穴とは

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中国記事を執筆していて時々読者から「成功よりも失敗談を紹介してほしい、そこにビジネスのヒントがある」と頼まれる。中国メディアは前向きな記事が多く掲載されているが、とはいえたまに企業の失敗を考察する記事もある。そうした記事から近年の中国企業の失敗例を振り返ってみよう。

「競争過多で商材がなくなって共倒れ」 

今、中国各地で賞味期限が近い商品を安価で販売するディスカウントストアを見ることができる。中国メディアはしばしば日本のドン・キホーテをモデルケースとして紹介していて、いかに成功するかをドン・キホーテから学ぼうとしている。そのうちの1社で上海の「BOOMBOOMMART(繁栄集市)」は2020年に創立して以降、1年で20店舗以上展開し、2021年初めには資金調達を発表するなど目覚ましい成長を遂げた。ドリンクブランドの元気森林とも資本と商品調達で提携し、2023年には1000店舗まで増やし、IPOを実現すると自信を見せた。しかし2022年には破産を発表している。

創立者の范智峯氏は中国の名門である同済大学で経営学を専攻し、後に転職を経てコンビニを経営した。しかし新型コロナ感染拡大に伴い観念してスタッフを解雇し在庫一掃処分を行うや連日行列ができるほどの人気になり、これはビジネスになると専門店をはじめた。ディスカウントストアが商機だと感じたのは范氏だけではない。他にも2020年から2021年前半にかけて好特売(HOTMAXX)など数多くのディスカウントチェーンが登場し、これらの企業は2021年から2022年前半にかけて資金調達した。投資家は若者の賢く消費というトレンドの変化をとらえ、ディスカウントストア市場に期待していた。実際も景気はよくなく、若者の消費は控えめで堅実になっている。

ではなぜ予想できない失敗となったのか。どの業界でもあることだが、商機とばかりに多くの企業が参入した。その結果賞味期限切れ近い商品はすぐに枯渇に直面した。それでも商品を陳列したいという店舗は、包装や食べ物自体の損傷した商品や、ニセモノや、見たことのないブランドを入荷し、ディスカウントストア業界全体のイメージを悪化させた。やがてブームは収まり、立ち止まって冷静に考える人がでてきた。消費者が立ち止まっただけでなく、投資家もビジネスモデルを疑問視しだし、それまで投資を検討していた人々が投資を見送りだした。資金がなければ店舗拡大はできず、消費者は買わなくなり、サプライヤーへの支払いが滞りはじめた。そして企業の売却や破産の検討に至った。

AI開発にしろ商品販売にしろ、旬のビジネスには中国の企業はよく一斉に参入し競争となる。商品が供給不足になりやすく共倒れというのはディスカウントストアだけではない。中古ビジネスなどについても盛り上がれば同様の事は起きうる。

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「出遅れたフランチャイズ加盟」 

「クラフトビール1本9.9元」と、他店と比べても破格の値段で提供するバー「Helen’s(海倫司)」は、各店で統一された雰囲気のいい世界感も相まって若者に人気で、ゼロコロナまでは破竹の勢いで店舗展開した。 

Helen’sが展開するドリンク

外食チェーンの多くが商品単価を上げて儲けようとする中、Helen’sは人件費、家賃、原材料などを徹底的にチェックしコスト削減を実現。Helen’sは費用対効果と標準化されたサービスを武器に10年間で800店近くの店舗をオープンし、特に全国の大学周辺エリアを占拠することに成功し、大学生に人気の安くてかっこいいブランドとなった。新規店舗を続々と開店し、2021年には香港株式市場でのIPOも果たした。しかしゼロコロナ政策で人が動かなくなり同社も逆境に立たされる。 

ここでHelen’sは失敗をする。火鍋の海底撈(ハイディーラオ)は稼げない店舗を閉店し人員を整理し、景気回復を待ってその後持ち直した。対してHelen’sは同じように店舗とスタッフを減らすも、その一方で攻めの姿勢で店舗を開店した。店舗の開店と閉店を繰り返した結果、コストを掛けた内装が次々と無駄遣いとなり、そのコストが重くのしかかった。

またHelen’sは時流が読めなかった。同社は2022年下半期から店舗拡大を目指しフランチャイズモデルを試みた。ところが外食のフランチャイズブームはそれ以前から起きていた。「フランチャイズに投資して店舗を構えても儲からない」という空気感が既にあり、誰もやりたがらなくなった。その結果、フランチャイズの店舗が増えず、ひいては開店前に売るはずの内装や飲料や機器類も売れずじまいとなり、資金繰りは悪化していった。もっと早くフランチャイズをはじめていれば、スピード感に対応していれば、今も多くの店舗数を抱え、コスパを武器にうまくいったのではないか。

「夜のスターバックス」に向けて一歩前進 Helen’s、中国バー業界初の上場企業へ(一)

「高すぎても、安すぎてもいけない」

日本にも進出した ミルクティー大手の「蜜雪冰城」は、安さと親しみやすいデザインを武器に、中国や日本だけでなく東南アジアにも店舗を展開し人気を博している。さらに中国でミネラルウォーターのペットボトル「雪王愛喝水」と「雪王覇汽」をリリースし、550mlで2元という蜜雪冰城のブランドイメージにあった低価格で販売した。しかし同価格帯のミネラルウォーターは農夫山泉、娃哈哈、康師傅などの定番ブランドから発売されていてそのシェアは高く、人気にはならないまま蜜雪冰城のペットボトルは消えていった。崩す壁はあまりに固く高かった。

蜜雪冰城のミネラルウォーター

2023年に消費者はより堅実な消費に向かったのでパフォーマンスに見合わない高価なブランドは嫌われた。コスパ重視の空気を読めず、日本円で1000円を超える高級アイスを販売したアイスブランドの「鐘薛高」や、中国を代表するライブコマース配信者の李佳琦氏が、販売するアイブローの値段が高いと言う視聴者へ「安いよ」と対応をして炎上したコスメブランドの「花西子」は、ブランドにも傷がつき売上が大きく下がった。いずれも中国ブランドブーム「国潮」の中で伸びたが、それにあぐらをかいた商品を出した結果、消費者にそっぽを向かれた。 

中国「アイス界のエルメス」に暗雲、賃金未払いなど経営悪化のうわさ

2023年に失敗した企業は資金調達を受けた成長企業ですら数多くあるが、欲望と実力の不一致が根本的原因というのが最も多い。タイムリーなトレンドと消費者のニーズを常に把握し、それに適応し需要に合う製品を開発していくことが、中国のベンチャー企業にとっても大事なことなのだ。

(作者:山谷剛史)

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