中国の自動運転業界、熱狂から一転。企業が「身売り」か、より激しい競争へ

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中国の自動運転業界、熱狂から一転。企業が「身売り」か、より激しい競争へ

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一時期、異様な熱狂ぶりを見せた中国の自動運転業界だが、収益性が低く短期的には事業化が望めないため、多くの企業が「身売り」に走り始めた。

「手元にはもう1年やっていくだけの資金はある。ではなぜ今(会社を)売るのかって?来年(24年)は順番待ちになるかもしれないからだよ」。自動運転開発企業の共同創業者・黄海氏はこう語った。同氏は売却先を見つけるため、自社の評価額を自ら70%引き下げることまでした。

黄氏が懸念するのも無理はない。2022年には意欲に燃えてIPOを目指していた経営者たちが、23年に入ると売却を考えるようになったと、複数の自動運転開発企業の幹部が明かしている。

資金難や事業拡大の難しさという問題が、あらゆる自動運転技術を手掛ける企業の上に重くのしかかっており、リストラや事業縮小が業界の至る所で見られている。

自動車メーカー40社余りの50車種以上で協業してきた「Freetech(福瑞泰克)」は、23年10月に全従業員に宛てたメールの中で、業界全体の冷え込みにより年度末の賞与の支給は未定だと告げた。事情に通じた人物によると、中国EV最大手BYD(比亜迪)向けに自動駐車機能を開発していた「宏景智駕(HongJing Drive)」は、23年中にほぼ全ての部門で約3割に上る従業員をリストラし、オフィスも縮小したという。

合併買収の話も絶えず伝わってくる。36Krが得た情報によると、自動運転システム開発の「禾多科技(HoloMatic)」は、出資者である広汽集団(GAC Group)と合併買収についての交渉を進めているところだという。

自動運転技術が儲からないというのは、業界関係者の間では共通の認識だ。黄氏は過去に地方政府からの資金援助も考えたが、このタイプの出資には現地で研究開発センターか本社を設立し、そこで自動運転車のテストを行うなどの厳しい付帯条件がある。しかも出資金も実際には分割で振り込まれるため、巨額を投じて条件を満たしても「資金はほとんど手元に残らない」という。

儲けがないばかりか、支出は膨らむ一方だ。黄氏によると、自動運転技術を開発するエンジニアの給与は決して低くはなく、平均年収は100万元(約2000万円)前後だという。従業員300人を抱える自企業なら、人件費だけで毎月3000万元(約6億円)が出て行く計算になる。

未来の見えない自動運転の実用化

これまで自動運転開発企業は極めて高い評価額で業界の羨望を集めてきた。2022年には少なくとも8社の上場計画が報じられたが、わずか1年で業界は様変わりしてしまった。

ロボタクシーはかつて自動運転の中で最も魅力あふれるストーリーを紡ぎ出し、未来のモビリティーに対する人々の期待を支えていた。それは企業の評価額にも表れていた。例えば、中国で最高評価額をつけた自動運転開発企業「Pony.ai(小馬智行)」は、22年3月時点で評価額が85億ドル(約1兆2000億円)に達している。しかし、ロボタクシー事業は収益化が難しい。情報によると、Pony.aiの21年の売上高は約2億元(約40億円)にとどまった一方、損失額は1億ドル(約141億円)以上に膨らんだ。ロボタクシーの大規模運営は非常に難しく、実現までに短くて3~5年、長ければ8~10年はかかると関係者は語っている。

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際限のない資金投入といつまでたっても実現しない商用化に、投資家たちも魅力を感じなくなった。「この1年は自動運転に関心を示す投資家はほとんどいなかった。今のトレンドは大規模言語モデルだよ」

幹線物流を担う無人運転トラックも同様の困難に直面している。「図森未来(Tu Simple)」の自動運転トラックは業界でも突出した成功者と見なされていたが、実際の運用では多くの問題が噴出していた。しかもソフトウエアの問題よりも、部品の緩みやパンク、電源障害など整備工でも簡単に修理できそうな車両の故障が圧倒的に多かったという。関係者は「システムは直ちに故障を検出し、即座に対応策を講じなければならない。これには車両のセンサーや車体構造の設計が関係している」と語り、この種の問題を最小限に抑えるには、自動車メーカーと共同でトラックの車体構造やセンサー配置を再設計し、自動運転に適したトラックを製造することが必要だと指摘した。

しかしこれは簡単なことではない。図森未来は自動運転トラックの量産に向けて多くの自動車メーカーと協力してきたが、その提携はいずれも初期段階のまま進展がないという。「従来型トラックの市場は依然として大きく、自動車メーカーはまだ新車種を開発する必要性を感じていない」のが現実だ。

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L4からL2へダウングレードし量産市場にシフト

現時点で考えられる活路は、自動車メーカー向けに量産型パッケージを提供するサプライヤーへの転身しかないようだ。自動運転のレベルで言えば、当初のレベル4のロボタクシーから、レベル2+にダウングレードすることになる。高い評価額を誇る自動運転開発企業がこれまで見向きもしなかった市場だ。

典型的な事例に「軽舟智航(QCraft)」がある。創業メンバーはグーグル傘下の自動運転開発企業Waymoの出身で、創業時から自動運転バスの運営を目指し、TikTok運営元のバイトダンス(字節跳動)からの出資も獲得した。しかし2022年初め、業界の冷え込みを受けて軽舟智航ではレベル2の量産事業へのシフトを考え始める。

量産事業は最も確実な市場だ。乗用車の販売台数は年間2000万台に上り、人気の車種なら出荷台数が数十万台に達する。この市場向けにパッケージを提供すれば、自動運転開発企業も安定した売上高が見込める。とはいえこれもライバルひしめく険しい道に変わりない。

まず、量産に伴うエンジニアリングの問題を解決する必要がある。これまで多くの企業は自動運転技術のデモ開発にフォーカスして事業を展開しており、量産経験は持ち合わせていない。しかもコストパフォーマンスを考える必要性もなかったため、高性能チップを惜しげもなく使用していた。しかし量産車になればチップの性能は大幅に下がり、「アルゴリズムを圧縮するだけでも数カ月を要する」ほどだという。

量産経験がないことを理由に、自動車メーカーは少しでも買いたたこうとする。黄氏が過去に大手メーカーとの提携を検討した際、1300万元(約2億6000万円)の見積もりに対してメーカー側は200万元(約4000万円)しか出せないとの返答だった。「相手は量産の機会を提供していると聞こえのいいことを言うが、こちらはプロジェクトの投資額だけで400万元(約8000万円)かかるのだ」

自動車業界そのものも競争が激化しているため、自動車メーカーは量産経験があり、大量出荷が可能で、納期の短いサプライヤーを好む傾向にある。量産経験のない参入したばかりのサプライヤーであれば、特別優れた技術でもない限りチャンスはほとんどないだろう。

量産事業にシフトするライバルがますます増えているだけでなく、従来の自動車大手メーカーも着々と参入を進めている。

23年11月末、長安汽車はファーウェイと共同で独立経営の新会社を設立すると発表した。ファーウェイはスマートカー事業部門を分離して新会社に移管し、ファーウェイが60%の株式を保有する。長安汽車のほか賽力斯集団(SERES)などが出資の打診を受けているという。

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ファーウェイが販売やマーケティングを担う「スマート・セレクション(華為智選)」モデルを通じ、ファーウェイは25万~30万元(約500万~600万円)の市場を獲得し、さらに多くの車種を投入することで、ミドル~ハイエンドEV市場でも存在感を増すことになるだろう。

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20万元(約400万円)以下の市場には、ソフト・ハードの開発能力を併せ持つドローン大手DJI傘下の「DJI Automotive(大疆車載)」が参入している。すでに自動車メーカー5社と提携しており、25年までに20車種以上にDJI Automotiveの技術を搭載するという。

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生き残りをかけた戦いが続くなか、どれだけの受注を獲得できるか、それが自動運転スタートアップにとって喫緊の課題となっている。

*2023年12月28日のレート(1ドル=141円、1元=約20円)で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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