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中国の車載電池メーカーが欧州での工場建設に向けて動き出している。今年に入ってからは、欧州の自動車メーカーが車載電池の現地生産を明確に求めるようになった。ドイツのBMWやダイムラー、フォルクスワーゲン、フランスのルノーやグループPSAなどは一様に、2027年以降は車載電池を現地生産するよう要求しており、「現地工場を27年までに建設する計画がないなら、発注はしない」スタンスだという。
欧州自動車メーカーが求める現地生産のリミットはいずれも2027年だが、生産に関わる条件については各メーカーでいくらか異なっている。例えば、ドイツの自動車メーカーは車載電池の総コストのうち65%を現地生産するよう要求しているのに対し、フランスのメーカーは正極材料の塗布とその後の工程を欧州かモロッコで行うよう求めている。
これらの条件は2023年8月に施行された「欧州電池規則」に基づいているのではないかと、関係者は分析する。電池製品のライフサイクル全体を規定するこの規則では、27年から欧州向けに輸出される車載電池に「電池パスポート」を実装することを義務づけている。電池パスポートとは、電池の製造元や製造日、産地、容量などの情報を電子的に記録し、QRコードを使って読み取れるようにしたものだ。
また、欧州向けの車載電池は2024年7月からカーボンフットプリントの申告が義務化されるため、それまでにカーボンフットプリントに関わる規制値を満たす必要がある。もし27年までに、電池パスポートの実装やカーボンフットプリントの基準達成が間に合わなかった場合、中国から欧州へ車載電池を輸出することはできなくなる。
ただ、欧州電池規則の詳細はまだ整備されておらず、同規則が車載電池の現地生産率まで直接規定するかどうかは不明瞭だ。現時点で十分に整った車載電池産業がないとはいえ、欧州が世界の自動車産業の中心地であることには変わりなく、これからの時代を担う新エネルギー車の中核部品をみすみす手放すとは考えにくい。
業界の現状に目を向けると、仮に電池パスポートやカーボンフットプリントの条件を満たせたとしても、現地生産は一朝一夕に達成できるものではない。
車載電池の工場を建設するには、正極や負極、電解液など主要材料の関連産業を周辺に整えて連携する必要がある。正極材料はドイツのBASFやベルギーのUmicoreなど地元企業から調達できるが、負極材料の生産は欧州最大の弱点となっている。
負極材料のグラファイトは生産工程で環境負荷が高いため、欧州で負極材料の生産施設を建設しようにも環境保護の観点から多くの壁にぶつかる。ある関係者は、現時点で理想的な解決策はないと漏らす。
もし規制されるのが正極材料のみ、もしくは材料別ではなく総コストで判断するのであれば、電池の現地生産にも光が見えてくる。
しかし、欧州での工場建設は依然としてハードルが高い。厳しい環境規制、設備の認証取得、現地雇用の問題など大きな壁がいくつも立ちはだかる。現時点で欧州工場の建設に成功した中国の車載電池メーカーは業界最大手CATL(寧徳時代)のみだが、同社のドイツ工場では最初の電池セル生産から1年以上たつ今も、大規模供給を始めたとの情報は聞こえてこない。
中国の車載電池メーカー各社は海外進出に目を向けている。しかし、リミットの2027年まで時間的猶予がないなか、欧州での現地生産が発注の条件になるなら、当面は中国国内で市場シェアの拡大に注力せざるを得なくなる。そうなれば、すでに白熱している国内市場の攻防戦がさらにエスカレートするのは間違いないだろう。
(翻訳・畠中裕子)
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