中国企業の「日本進出」が熱い、電通が中国ブランドの伴走支援を強化

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日本を代表する広告代理会社・株式会社電通と36Kr Globalは6月下旬、中国企業向けに日本進出を促進するセミナーを共同開催した。中国企業の海外進出がトレンドとなる中、200社を超える中国企業から申し込みがあり、日本市場に対する期待の高さがうかがえた。既に日本に進出している多数の中国企業と信頼関係を築いている電通は、海外ブランドが日本で成功するために必要な考え方や事前に学ぶべき商習慣などを紹介、日中間のビジネスに携わる専門家と共に議論を進めた。

電通は昨年以降、特に中国企業の海外進出支援に力を入れており、中国発アウトドアブランドのグローバル展開でブランディング強化を支援した実績もある。

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今回のセミナーでは、株式会社電通からCXC(Dentsu China Xover Center)のStrategic Planner西海瑠依氏とGBC(Global Business Center)のSolution Development Director馬亦農氏、海外アパレルブランドを支援する株式会社KMTTOKYO代表取締役の兒玉キミト氏、日本のAIスタートアップ企業Sparticle株式会社創業者の金田達也氏といった日中ビジネスの最前線で活躍する専門家や経営者が集まり、中国企業にとって参考になる多くのノウハウを共有した。

信頼できる現地パートナーとともに、正しいチャネルで適切なアプローチ

電通の西海氏からは、日本の消費市場の複雑性について説明があった。新興国などと違って日本市場は成熟しており、伝統的なメディア広告(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の重要性が高い。電通の統計によると、23年の日本の総広告費の31.7%を伝統的なメディア広告が占めた。日本ではブランド認知度や訴求力を高めるため、日本の有名人をアンバサダーに起用したり、テレビなどの伝統メディアを通じて宣伝したりするなど、日本に合わせたマーケティングやキャンペーンで消費者にアプローチする必要がある。専門知識の豊富な日本のパートナーとの連携は欠かせない。

また、日本の消費者は製品の品質や細部に非常にシビアで、安さだけでは売上に結びつかないことが多い。日本では消費者とブランドとの長期的な関係性が重視され、ブランドロイヤルティも高い。一方、社内の意思疎通や決定は中国よりも慎重さが求められる。中国企業は辛抱強く現地のパートナーや消費者との関係を培っていく必要があるだろう。裏を返せば、短期間で成果が見えないからといって諦めてしまうと、将来のチャンスを逃すことになりかねない。

電通の馬氏は、実際に日本市場に適応して成功した中国企業の事例を分析、その結果得られた示唆を中国企業に共有した。このところ、日本に進出して成功を収める中国企業が増えている。家電大手のHaierやEV大手のBYD、デジタル製品のAnkerは代表例で、日本の消費者に的確にアプローチし、順調に業績を伸ばしている。

BYDの挑戦を分析すると、長期的な市場調査と準備、そして的を絞った緻密な市場戦略に成功のカギがあるという。バッテリー販売や自治体と協力したEVバスの導入など、B2Bビジネスから徐々に事業を拡大、日本にEV市場がなかった当時から現地との関係を構築してきた。 2023年からは日本で乗用車販売を開始。現地流通網を構築したほか、日本の有名女優・長澤まさみをCMに起用するなど、適切な日本市場戦略を進めている。

電通も支援するAnkerは、アマゾンを通じて日本市場へ参入、洗練されたページデザイン、商品説明、徹底したアフターサービスなど、日本の消費者の嗜好を研究した。日本の大手通信キャリアと協力関係を構築することで、Ankerブランドの信頼性も築く。特筆すべきは、Ankerの日本チームが高い独立性を維持しながら運営されており、重要な意思決定が現地に任されていることだ。そのため、オフラインの直営店舗の運営やテレビ広告など、中国とは異なる施策を打ち出すことに繋がり、日本でのブランド確立のカギにもなっている。

馬氏によれば、スタートアップや中小企業にも日本における成功のチャンスはあるという。重要となるのが長期視点でブランド・イメージを構築する意識だ。様々な広報活動も短期の成果を目的とせず、ユーザーや業界に関わる関係者との関係構築に必要なステップと捉え、業界団体や専門メディアといった影響力のあるパートナーを積極的に開拓することが大事になる。

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スモールスタートで日本の消費者の反応を確認、長期視点で行動

複数の中国アパレルブランドの日本進出を支援してきた兒玉氏は、中国の消費財ブランドが日本市場に参入する際の課題や戦略について語った。

兒玉氏が普段から中国企業にアドバイスする点は、電通が指摘するポイントとも重なる。日本のビジネス環境は保守的で、長期的なパートナーシップが好まれるため、より長期的な視野と戦略が必要になる。最初から高い数値的目標を設定し、達成できずに自信を失うよりも、まずは幅広い消費者を対象としたポップアップストアや多くの事業者と出会える受注会などを開催して、日本市場での反応を試しながらブランドの認知度を高めつつ、徐々に事業展開を進めるべきだと兒氏は提案する。

中国では、若いデザイナーや創業者が仕掛ける新進気鋭の国産ブランドが立ち上がり始めている。長年にわたり日本と中国のアパレル業界に携わってきた兒玉氏から見ても、中国ブランドの製品は質が高く、世界で十分に勝負できるという。兒氏が支援する「MIZUTOKI」はその1つで、生地の品質にこだわり、コストパフォーマンスにも優れ、中国国内では既にD2Cブランドとして成功を収め始めている。日本進出にも意欲的で、今年4月には福岡県でポップアップイベントを開催し、消費者から多くのフィードバックを得られたという。

(MIZUTOKI)

日本のテクノロジー・エコシステムでは、ニッチな領域の深堀りが勝ち筋

Sparticle創業者の金田氏は、テック分野での長年の経験と日本市場への深い理解に基づき、日本に進出する中国テック企業についての見解と洞察を披露した。

金田氏が注目する生成AIの領域は世界的に急成長しており、日本市場も例外ではない。 特に興味深いのは、日本企業は新しい技術を非常に受け入れやすく、その価値を認識すればAI技術を積極的に採用し、普及させようとする点だという。日本企業は一般に人件費が高く、効率性を強く求められる。これらの課題の解決に向け、生成AIがカスタマーサービスやコンテンツ作成、翻訳サービスなど多くの分野に応用される可能性は高い。 中国企業にとっても、挑む価値のある市場だ。金田氏は、日本市場ではカスタマイズされたサービスに対する需要が高く、中国企業の強みが発揮できるはずだと指摘する。

中国企業が日本の商習慣で特に注意すべき点として挙げたのは、中国や東南アジア市場で実証されたロジックや多くの成功体験が、日本では全く通用しない可能性がある点だ。日本で適切にビジネスを行うには、日本社会や日本市場に深く入り込み、経験を積む必要がある。例えばソフトウエア製品に関して言えば、日本市場は総合的な製品にはあまり関心がなく、代わりにニッチで洗練された製品が受け入れられやすい。日本独特のテクノロジー・エコシステムを理解し、ニッチでもニーズのある分野を見つけ、独自の足場を築くことが重要だという。

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今回のセミナーの参加者は、誰もが知る大手企業から創業したばかりのスタートアップまで、テクノロジー企業から消費財ブランドまでと幅広く、日本進出に向けた強い意欲が感じられた。BYDやSHEINなどの日本での成功が刺激になり、期待感が高まっているようだ。

(36Kr Japan編集部、田村広子)

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