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ブラジルのフィンテック企業、EBANX(イーバンクス)は日本顧客の開拓を強化する。同社は中南米やアフリカの消費市場に商品・サービスを売りたい海外企業に越境決済サービスを提供することが主力事業で、中国アリババグループの「AliExpress(アリエクスプレス)」や米国のメタ(Meta)、東南アジアの「ガレナ(Garena)」など世界のネットサービスやゲーム会社が積極的に活用している。EBANXとしてはアジア太平洋地域で中国に次ぐ得意先として、日本でオンラインゲーム会社などの新規顧客の獲得を強化する計画だ。
EBANXでアジア太平洋事業バイスプレジデント(VP)を務める段瑋(Duan Wei)氏が36Kr Japanのインタビューで日本重視の方針を明らかにした。同社は2012年の創業で、ブラジル南部の都市クリチバに本社を置く。ブラジルのほか中国、米国に主要拠点を構え、約700人の従業員を抱える。中南米、アフリカ、インドなどの新興市場でデジタルサービスを提供する海外企業向けに、支払伝票からクレジットカード、現地特有のデジタルウォレットや即時決済システムに至るまで、国ごとの商習慣に即したさまざまな決済手段をワンストップでカバーする決済ソリューションを提供し、顧客の越境ビジネスを支援している。
株主は3人の共同創業者のほか、米グロース・エクイティ「FTV キャピタル」や米プライベートエクイティ(PE)ファンド「アドベント・インターナショナル」などで構成している。2019年より、EBANXの評価額はすでに10億ドル(約1450億円)を超え、ブラジルを代表するユニコーン企業の1社となっている。
段氏はEBANXの競争力について、「新興国の消費市場や商習慣に適した決済サービスを展開している」点を挙げた。例えば、ブラジルは人口が約2億1000万人の一大消費市場だが、クレジットカード、コンビニエンスストアでの現金払い、中央銀行が開発した即時決済システム「PIX(ピックス)」などの決済手段が混在している。海外企業は商品・サービスを販売するには、新興市場の決済では文化的な側面が大きく影響するという。
EBANXの強みは、ブラジルだけではなく、ほかの世界28カ国の新興地域における特有の決済方法にもすべて対処できる点にある。創業から1年足らずで、2013年に初の顧客企業として越境EC大手のアリエクスプレスと契約した。その後も、テンセント、バイトダンスのTikTokなどブラジル向けの越境ビジネスを手がける中国の大手ネット企業を相次ぎ顧客として獲得しており、段氏は「ブラジル市場で越境ECやオンラインゲームの中国企業のほぼすべてが当社のサービスを利用している」と語った。
EBANXが越境決済サービスを展開している国は現在、29カ国まで拡大している。ブラジルやメキシコなど中南米の17カ国、南アフリカやケニアなどアフリカの11カ国に加え、23年9月よりインドでもサービスを始めた。段氏は「新興国の消費市場の決済手段には共通点が多く、当社のサービスの強みを発揮しやすい」と解説した。これらの市場の1億5000万人に対し、100種類以上の手段で1日当たり200万件の決済サービスを提供しているという。
新興国市場で決済サービスを提供するEBANXだが、会社としての収益はこれらの市場で商品・サービスを販売する全世界の300社超のグローバル企業から得ている。顧客の業態としては一般的な越境EC、SaaSやオンライン旅行代理店(OTA)のほか、映画や音楽・ゲームなど娯楽コンテンツの配信会社が多いという。具体的な顧客として、巨大アパレルECプラットフォームのSHEIN(シーイン)、音楽配信大手Spotify(スポティファイ)や韓国ゲーム大手のグラビティの香港支社などを公表済みだ。
EBANXが世界の大手顧客に信頼され、事業拡大を続けている理由について「決済サービスだけでなく、各国の消費市場に対する深い洞察や蓄積したノウハウも提供し、新規市場開拓のパートナーとして顧客の成長をサポートしてきた点が高い評価を受けている」と述べた。
段氏が担当するアジア太平洋の顧客としては現在、中国の企業が圧倒的に多い。ただ、中国の越境EC会社などの海外進出は一巡しており、今後は日本、韓国、オーストラリアなどで新規顧客の獲得を目指す方針だ。「韓国ではオンラインゲーム、オーストラリアでは教育コンテンツなどの会社が中南米、アフリカやインド市場に進出することを越境決済で支援したい」としている。
EBANXは日本ではすでにSONY(ソニー)を顧客として抱えている。今後もゲーム業界で新規顧客の獲得を目指す方針だという。このため、EBANXは9月末に幕張メッセ(千葉市)で開かれる世界最大級のゲーム見本市「東京ゲームショウ2024(TGS)」に段氏ら幹部を派遣し、日本のゲーム会社と商談を進める予定だ。また、 同社は上海にオフィスを構えており、プロダクトから技術面のサポート、マーケティングなどの業務に加えてアジアの地域に精通するチームメンバーが日本の業務を担う。
段氏は「中南米では日本のコンテンツの人気が根強く、アニメやグッズなどゲーム関連商品・サービスにも商機はある」と分析した。この地域のデジタルユーザー数は今年3.5%増加すると予想されており、APACの3.2%や米国の1.8%よりも高い割合となっている。 さらに「中南米の消費者は、グローバル企業のオンラインゲームに対して非常に開放的であり、消費を楽しむ傾向が強い。日本企業がもっと発掘すべき市場だ」と語り、自社の決済サービスを生かして進出することを呼びかけた。
(36Kr Japan編集部)
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