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中国電子商取引(EC)大手のアリババグループは10月上旬、日本市場に特化した新たな越境ECアプリ「TAO(タオ)」をリリースした。12月12日に東京都内で開かれた小規模なメディア交流会で、TAOの市場運営責任者である劉慧娟(Karen Liu)氏は、マーケティングや広告に多くのリソースを投入していないにもかかわらず、TAOはリリース後わずか2カ月でApp Storeの無料ショッピングアプリランキングで4位にランクインできたとし、「幸先のよいスタートを切った」と語った。
Taoの運営は、アリババグループの国際EC事業部門「Alibaba International Digital Commerce Group」(以下、アリババインターナショナル)が担う。同部門には、世界最大級のB2Bマーケットプレイス「Alibaba.com(アリババドットコム)」やグローバルに展開するB2C向けECプラットフォーム「AliExpress(アリエクスプレス)」、東南アジアで人気のECプラットフォーム「Lazada(ラザダ)」などが含まれている。
今回のTAOのサービス開始に伴い、アリババインターナショナルは日本法人「淘宝日本(タオバオニホン)」を設立。日本語対応のカスタマーサポートスタッフを配置するなど、日本のユーザーへのサービス強化に注力している。
なぜ日本市場なのか?
日本市場に参入した理由について、劉氏は「日本は世界で4番目のEC市場ではあるが、ECの普及率はアメリカや中国などと比べるとまだまだ低く、成長の余地が大きい。越境商品の需要が高まっているというデータもある」と説明した。
とはいえ、日本はオフライン小売が発達しており、消費者が商品の品質だけでなく、ショッピングする際の体験やサービスも重視するため、EC企業が容易に成功できる市場ではない。そのため、TAOは単に安い商品を提供するのではなく、日本のユーザーに新しいオンラインショッピング体験を届けていく考えだという。
TAOは、中国国内で成功を収めた「淘宝(タオバオ)」で蓄積したノウハウを生かし、日本のユーザーニーズに合わせた「上質なライフスタイルECプラットフォーム」として設計され、「高品質な商品を適正な価格で提供する」ことを強みとしている。
淘宝に掲載されている商品は、世界最大規模の40億点。TAOはその中から、日本のユーザーの審美眼とニーズに合わせて300万点の商品を厳選。主なカテゴリーは、アパレル・アクセサリー、インテリア家具、家庭用収納、バス寝具、アウトドア用品、ペット用品、調理器具、オフィス用品などで、ライフスタイルに焦点を当てる。また、高度なAI翻訳を活用し、商品ページの効率的な更新を実現。今後はさらにカテゴリーと商品点数を増やし、ラインアップを充実させる予定だという。
TAOはさまざまなテクノロジーを駆使してユーザ体験の向上に取り組んでいる。たとえば、各ユーザーの趣味や行動に基づくパーソナライズされたアルゴリズムを通じて、最適な商品ページを表示する「AI商品推薦」機能や、商品名がわからなくても写真1枚あれば簡単に商品検索できる機能などを実装。さらに、バーチャル試着などの体験型テクノロジーも順次導入していく計画だ。
越境ECの利用で心配されがちな品質管理や物流については、アリババ傘下で最先端の物流サービスを提供する菜鳥網絡(Cainiao Network)が担当。商品が中国の倉庫に到着したらすぐセキュリティチェックを実施するほか、日本から出荷前に検品と再梱包をした上でヤマト運輸や佐川急便を通じて配送するなど、万全な体制を備えているという。
競合について
TAOのリリース当初、同じく中国発の格安越境EC「SHEIN(シーイン)」や「Temu(テム)」と競合する可能性があると多くのメディアが報じたが、市場運営責任者の劉氏は「競合することはない」と明言。SHEINとTemuが低価格戦略を前面に打ち出しているのに対して、TAOは独自性のある良質な商品を手頃な価格で提供することを重視している。劉氏は、TAOは日本市場向けのライフスタイル商品に完全に特化している点でも、SHEINやTemu、さらにアマゾンジャパンや楽天とは一線を画していると強調した。
筆者が実際にTAOアプリをダウンロードして使ってみたところ、中国発の格安越境ECによく見られる割引キャンペーンやクーポンの派手なバナーがなく、低価格商品で勝負しているような印象はなかった。著名なUI(ユーザーインターフェース)デザイナーの田中良治氏が担当しただけあって、インタラクションやサイトデザインからは、日本市場に対する本気度がうかがえる。しかし、現在のところ「TAOを積極的に使いたい」と思わせる決定的な魅力は見つからなく、AI翻訳の商品ページにも限界を感じたのが正直なところだ。
TAOの参入により、日本のEC市場はさらに盛り上がると予想されるが、既存のプレーヤーが数多く存在するなかで、TAOの強みをどこまで発揮できるかは未知数だ。今後の展開に注目したい。
(36Kr Japan編集部)
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