テスラでもBYDでもない、新しいEV「Zeekr」の正体〜世界最大級ギガキャスト工場の実力

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テスラでもBYDでもない、新しいEV「Zeekr」の正体〜世界最大級ギガキャスト工場の実力

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中国の電気自動車(EV)メーカー「Zeekr(ジーカー)」は、急速に進化するEV市場において独自のポジションを確立しつつある。親会社である中国自動車大手・浙江吉利控股集団(以下、吉利グループ)のもと、2021年に誕生したZeekrは、プレミアムEV市場を狙う新興ブランドとして急成長中だ。

2024年の販売台数は前年比87%増の22万2123台で、競争の激しい中国EV市場でも存在感を急速に高めている。吉利グループのリソースを活用しながらも、Zeekrは自社開発・自社生産を積極的に進めることで、開発スピードの向上、品質の最適化、コスト削減を実現している。

今回、中国にあるZeekrの旗艦ショールーム、および同社が誇る最先端のスマート工場を視察し、その最前線をレポートする。

Zeekrの主力車種:性能・スマート化・デザイン性を融合

Zeekrは幅広いユーザー層に対応するため、多様な車種ラインアップを展開している。実際に複数モデルに試乗し、インテリアやスマート機能を操作してみたところ、どれもが高い走行性能、スマート機能、そして洗練されたデザインを兼ね備えていると実感できる。

たとえば、フラッグシップモデル「001」は中型5ドアのセダンタイプで、価格は25万元(約520万円)からと高いコストパフォーマンスを誇る。すでに中東やエジプト市場への輸出も始まっている。

Zeekr 001

「007」は加速性能に優れたセダンタイプで、0-100km/hを3秒以内で達成。スポーツEVとしての存在感を高めており、2025年4月にはクーペタイプが上海モーターショーで発表予定だ。

グローバル展開を前提に開発された「7X」は、特にSUV人気の高い中国市場で累計4万台以上を販売。今後は右ハンドル仕様を投入し、東南アジアやオーストラリア市場に拡大予定だという。

Zeekr 7X

独特な設計が目を引く「MIX」は、回転式シートやピラーレス構造など、先進的なインテリア設計が特徴。CES 2025でも披露され、国際的にも高い評価を得た。なお、Zeekrは米Waymo(ウェイモ)と自動運転タクシー(ロボタクシー)向けのEV「RT」を共同開発中だが、そのベースとなっているのがこのMIXだ。広々とした車内空間や高い乗降性が特徴で、ロボタクシーとしても理想的な構造となっている。

Zeekr MIX

ミニバンタイプの「009」は、通常モデルと上位版「グランド」の2種を展開する。その外観からも伝わる圧倒的なラグジュアリー感は、Zeekrのラインアップの中でも群を抜いており、価格も最上級クラスとなる。特に「グランド」は約80万元(約1700万円)と、ハイエンド市場をターゲットにしている。右ハンドル仕様も用意されており、香港市場ではミニバン部門でトップシェアを獲得している。また、高度な自動運転機能も搭載され、ファミリーユースはもちろん、法人ユースにも適した一台だ。

Zeekr 009

コンパクトSUVの「X」は2023年に登場し、Zeekrの中でも最もグローバル展開を強く意識したモデルだ。初期段階から右ハンドル仕様を想定し、海外市場への導入ハードルを大きく引き下げた。また、ライド式フロントモニターなどのインテリジェント装備を搭載し、Zeekrの「次世代ユーザー体験」を象徴する1台となっている。

Zeekr X
Zeekr Xの車内

Zeekrはすべての車種において共通プラットフォーム(SEAアーキテクチャ)を採用しているため、迅速なラインアップ拡充とコスト削減の両立を実現。また、いずれも800ボルトの超高速充電に対応しており、同社独自の「ゴールデンバッテリー」搭載車であれば、わずか20分でフル充電が可能となる。さらに、音声認識AIにDeepSeekを取り入れたり、ナビゲーションシステムやエンタメを統合する大型ディスプレイ搭載のスマートコックピットを導入するなど、インフォテインメント分野にも注力し、他社との差別化が図られている。

Zeekrの充電スタンド

Zeekrのデザイン責任者によると、同社の車両設計は「モダン」「最先端テクノロジー」「豪華さ/エレガントさ」という3つのキーワードに基づいているという。中でも特に重視しているのは、ユーザーの「デジタル体験」であり、「直感的に操作できるインターフェイスとUI設計」は、Zeekrの車づくりの核心にあると語る。

スマートファクトリーで実現する次世代EV生産

Zeekrのスピーディーかつ多様な製品展開を支えるのが、浙江省・寧波市にあるスマートファクトリーだ。総面積130万㎡という広大な敷地に構えられた同工場は、2018年の着工からわずか3年で稼働を開始。溶接・塗装・組み立て工場に加え、ギガキャスティング専用の工場も別途設置され、大規模かつ柔軟なEV生産体制を確立している。

スマート技術活用や環境への配慮

工場全体には5G通信技術のインフラが整備され、リアルタイムで生産ラインの監視と最適化が行われている。溶接ラインには830台のロボットアームが導入され、大幅な自動化と人員削減を実現。重要な生産プロセスについては、デジタルツイン技術を取り入れており、トラブル発生時の迅速な原因特定とプロセス改善を可能にする。

また、持続可能な生産を目指し、屋根には大規模な太陽光発電システムが設置されており、晴天時には最大70000kWhの発電が可能となる。

高い安全基準と品質管理

Zeekrの車両は、安全性を最重視して設計されており、衝撃テストの結果でも高い耐久性を誇る。特に、バッテリー損傷を防ぐ設計が施され、横からの衝撃にも強い構造を実現した。

衝撃テストされた車両の展示

品質管理面では、親会社である吉利グループの30年にわたる技術基盤と、ボルボとの提携による世界基準の品質管理体制が、Zeekr製品にさらなる信頼性をもたらしている。

「ギガキャスト」による生産革新

同工場の最大の特徴のひとつが、「ギガキャスト(超大型アルミ一体鋳造)」技術の導入だ。車体の一部を一体成型することで、部品点数を減らし、車体剛性の向上と軽量化、製造コストの削減を同時に実現している。

ギガキャストは米テスラが「Model Y」への導入をきっかけに注目を集め、現在では中国EVメーカーでも採用が広がっている。Zeekr工場では2023年より導入を開始、しかも7200トン級のギガキャスト装置を採用し、テスラの既存設備(6100トン)を上回る世界最大クラスだという。

​一体成型部品のため、損傷時には部品全体の交換が必要となり、修理費用が高額になる課題もあるが、Zeekrはギガキャスト部品の部分的な補修が可能な方法を導入、修理コストの抑制も両立した。

Zeekrのシャーシ

柔軟な生産体制

Zeekrの全車種は共通のSEAプラットフォーム上で設計されており、モジュール構造により、車体サイズ・モーター構成・サスペンションの有無などを柔軟にカスタマイズできる。これにより、同一ラインで複数車種を製造することが可能になり、生産効率とライン運用の柔軟性を高次元で両立している。

工場担当者によると、基本的に受注が決まってから製造する方式を採用しており、たとえば上海エリアでの注文であれば、受注から製造・納車までを最短1週間で完了できるという。顧客ニーズに応じたスピーディーな供給体制も、Zeekrの競争力を支える重要な要素となる。

Zeekr工場内にあるグッズショップ

Zeekrのグローバル展開 – 日本市場にも進出間近

Zeekrは現在、中国国内市場の成功を足掛かりに、積極的なグローバル展開を進めている。すでにスウェーデン、オーストラリア、アラブ首長国連邦(UAE)、シンガポール、メキシコなどを含む40以上の国と地域に進出している。今年初頭には、オーストラリアで1万5000台目の納車を達成したと発表されており、その勢いは加速する一方だ。

昨年からは日本市場への進出も視野に入れ、準備が順調に進めば、2025年中に国内販売開始を予定している。具体的な車種は未発表だが、「X」や「009」の右ハンドル車が最初に投入されるとみられる。さらに、手ごろでコンパクトなサイズ感の「MIX」の早期導入にも期待が寄せられている。現在のところ、日本におけるZeekrの知名度は高くないが、上質なブランドイメージやスマート機能が充実している点で、日本のユーザーにも十分アピールできるだろう。

中国EV「ZEEKR」、2車種の日本販売を決定?打倒アルファードは現実的なのか実現なるか

トヨタ、日産などが主導してきた日本のEV市場では、テスラやBYDなどの海外EVメーカーが新たな競争軸で食い込んでいる。次にこの流れに加わるのがZeekrかもしれない。

今後、Zeekrがグローバル市場でどのように存在感を高めていくのか、そしてその技術が海外のEV市場にどう影響を与えるのか、引き続き注目していきたい。

(36Kr Japan編集部)

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