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カード型の人工知能(AI)ボイスレコーダーを開発するスタートアップ「Plaud.AI」が、わずか数年で年商1億ドル(約147億円)を達成し、注目を集めている。製品の知名度が高まるにつれ、企業の実像にも関心が寄せられている。
Plaud.AIは、中国の連続起業家の許高(Nathan Xu)氏が2021年に米国で創業した。許氏は、中国では音声認識技術が成熟している一方で、海外ではユーザーのニーズを満たすボイスレコーダーが未だに存在しないという市場のギャップに着目した。当時、ソニーやオリンパス、フィリップスといった大手メーカーの製品は長年モデルチェンジがなく、録音データの保存機能にとどまり、リアルタイムの文字起こしや多言語対応、クラウド同期といったAI技術の実装が遅れていた。Plaud.AIはその市場の空白を狙い、機能の多様化や操作のしやすさ、斬新なデザインで人気を集め、創業からわずか半年で黒字化に成功したという。
2023年6月、Plaud.AIはフラッグシップ製品「Plaud Note」を正式に発売した。AI機能を搭載し、ワイヤレス操作が可能な携帯型スマートボイスレコーダーとして、会議や電話、インタビュー、授業、医療現場など多様なシーンで活用できる。
Plaud Noteは、厚さわずか3ミリという超薄型設計で、MagSafe対応の磁力吸着機能を備えており、iPhoneなどのスマートフォンの背面に取り付けて使用できる。ユーザーは本体のボタンを軽くタッチするだけで録音を開始でき、内部には高感度マイクを3基搭載しており、雑音を抑えたクリアな録音も実現。満充電の状態で最大30時間の連続録音が可能で、約480時間分の音声データを保存できる。また、録音内容はリアルタイムでクラウドに同期されるため、万が一のデータ消失も防止される設計となる。
最大の特徴の一つは、世界で初めて「ChatGPT」を搭載した録音デバイスである点だ。録音内容を100に近い言語に対応して自動で文字起こしできるだけでなく、その内容をマインドマップ、メモ、日記形式などに自動整理することも可能だ。許氏は「ユーザーが本当に求めているのは、ただの録音機能ではなく、録音情報をいかに効率よく整理・活用できるかだ」と説明する。
Plaud Noteは一般消費者向けの製品であると同時に、法人向け(BtoB)展開にも対応可能な拡張性を備えている。企業は、Plaudが提供するAPIを自社の顧客管理(CRM)や統合基幹業務(ERP)システムと連携させることで、業務効率の向上や営業成果の最大化が期待されている。
デバイス本体の販売価格は159ドル(日本では2万7500円)で、すべてのAI機能を利用するにはサブスクリプション契約が必要となる。米調査会社Z Potentialsの報告によれば、2024年11月時点でPlaud.AIの年間収益は1億ドルに達し、2年連続で前年比10倍の成長を記録した。さらに、Plaud.AIは2025年7月23日、全世界での累計販売台数が100万台を突破したことを公式に発表している。
より幅広いユーザー層のニーズに応えるため、Plaud.AIは製品ラインの拡充にも積極的であり、2024年8月にはウェアラブル型の「Plaud NotePin」を発売。価格は169ドル(日本では2万7500円)。
この製品は非常に小型で、カプセル状のボディデザインを採用。ストラップやリストバンド、クリップなど多様な装着方法に対応しており、1回の充電で最長20時間の連続録音が可能だ。「Plaud Intelligence」プラットフォームを搭載し、GPT-4、Claude、Gemini Proといった大規模AIモデルに対応。これにより、多言語の自動文字起こしや話者の識別、要点の自動要約など高度な処理ができる。さらに、クラウドでの暗号化保存や複数デバイスの連携といったセキュリティ・利便性面の機能も強化されている。
現在、Plaud.AIは深圳、東京、シアトルなどにチームを設置し、グローバルなオペレーション体制の構築を進めている。2025年4月には東京で記者発表会を開催し、日本で法人向けサービスを提供すると発表した。同社によると、2025年5月時点で日本国内のユーザー数は15万人を突破しており、日本はPlaud.AIにとって重要な海外市場の一つとなっている。
注目すべきは、Plaud.AIがほかのテック系スタートアップと異なり、外部資金に依存せずに成長してきた点だ。ある投資家は、「AI録音機という製品カテゴリ自体に目新しさが乏しく、差別化のポイントが初期段階では見えづらかったため、投資判断が難しかった」と振り返える。実際、多くの投資機関が慎重な姿勢を崩さず、初期には出資に至らなかったという。しかし、Plaud Noteが大ヒットを記録した後は、出資を希望する投資機関が次々と名乗りを上げるようになり、中には創業者にすら会えなかった投資家もいたという。
Plaud.AIの“成長神話”の裏には、単なるAIデバイスのヒットにとどまらない、ニッチ市場での製品力と実行力が、資本に頼らずとも世界に通用することを示すストーリーがある。
*1ドル=147円で計算しています。
(翻訳・編集:36Kr Japan編集部)
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