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中国スマートフォン大手の小米科技(シャオミ)が、家電分野で急速に存在感を高めている。2025年4~6月期決算によると、売上高、純利益はともに過去最高を更新した。
シャオミは電気自動車(EV)事業ばかりが注目を集めているが、家電部門の売上高は前年同期比66.2%増となり、過去最高を更新した。特にエアコンや冷蔵庫、洗濯機といった大型家電で販売が急伸し、伝統的な大手家電メーカーに迫っている。
4~6月期にはエアコンの出荷台数は前年比60%増の540万台を突破する新記録を打ち立てた。冷蔵庫は25%増の79万台、洗濯機は45%増の60万台となった。これまでスマートフォンや機器をインターネットでつなぐ「IoT家電」で知られてきたが、大型家電でも 業績への貢献が拡大している。
コスパ武器に大手支配打破
中国のエアコン市場は長らく、東芝の白物家電事業を買収した美的集団(Midea Group)や格力電器(GREE)、海爾集団(ハイアール、Haier)の大手3社が支配してきた。シャオミのその市場打破の戦略はほかでもなく「コストパフォーマンス」だった。
2020年から美的などの主要メーカーが次々にエアコンの価格を引き上げ、2000元(4万円)前後の普及帯モデルが減少した。市場に空白が生じた隙を突き、シャオミは低価格戦略で市場に参入し、販売台数を一気に伸ばした。
ただし、低価格で奪い取った市場は、同じく低価格戦略によって容易に切り崩されるリスクも抱えている。
近年、美的は傘下ブランド「華凌(WAHIN)」をリニューアルし、オンラインの低価格帯に特化させ、電子商取引(EC)ではコストパフォーマンス重視のエアコンや冷蔵庫を前面に打ち出している。今年の「618セール」では、華凌のインバーターエアコンが、シャオミの同等の省エネ性能などを備えた機種よりも低価格で販売された。
中国の家電調査会社によると、本来エアコン販売の最盛期である5月、6月において、シャオミのエアコンのオンライン販売のシェアはそれぞれ前年同月比で0.5ポイント、2.39ポイント減少した。一方で、華凌やハイアールなどがシェアトップに立ち始めている。
弱点克服で市場争奪
シャオミの価格優位性はすでに崩れ始めている。もっとも、既存の家電大手にとって、シャオミが高いコスパを武器に市場へ割り込んできたこと自体は、必ずしも大きな脅威ではない。むしろ彼らが本当に警戒しているのは、シャオミが弱点を着実に克服しつつあることだ。
シャオミの家電業界における弱点は明白だ。第一に、オフライン販売チャネルが不十分で、巨大な販売網を持つ既存ブランドに対抗するのが難しい点である。第二に、OEM(受託生産)モデルに依存しており、技術的優位性を構築しにくく、消費者が「OEM製品」だとのイメージを覆すのが困難である点が挙げられる。
もともと、シャオミがこれらの課題を短期間に突破することは難しかった。しかし、EV市場で驚異的な成果を上げたことで、結果的に家電のオフラインチャネル拡充や自社開発技術が連動して引き上げられた。
オフラインチャネルを例にとると、EVを販売するために「小米之家(Xiaomi Store)」の店舗が各地に展開され、これらの店舗では車両だけでなく、家電の展示スペースも設けられている。また、新車は大きな集客力を持ち、家電製品が消費者に届く機会を生み出した。
生産面でも、従来のOEMから技術の自社開発へと移行し始めている。自動車の「スーパーファクトリー」、スマートフォンの「スマートファクトリー」に次ぐ、三つ目のシャオミの工場として家電工場を設立、生産能力で大手メーカーを追い上げている。
さらに注目すべきは、自動車製造の成功によって、シャオミの製造能力に対する消費者の見方が変わり、一定の信頼を得ることができた。この信頼がシャオミの家電製品にも波及している。もしシャオミが徐々に弱点を補っていけば、家電大手との対決は、いよいよ本番を迎えることになるかもしれない。
シャオミの「ナマズ効果」
ここ数年の家電業界の動向を振り返ると、冷蔵庫、エアコン、洗濯機といった「白物家電」は、すでにスマート化の旗を高く掲げているにもかかわらず、毎年発表される新製品は基本的に既存機能の小さな改良にとどまり、革新的な新製品はほとんど登場していない。このため、伝統的な大手家電の技術革新はほぼ停滞状態に陥ってきた。
例えばエアコンでは、定速運転から室温を感知して運転を細かく調整できるインバーターエアコン、さらにスマート化への大きな革新を経た後、業界としては大きな技術的な進歩はほとんど見られなくなった。スマート化の面でも、遠隔操作から空気質モニタリング、自動清掃機能が導入されて久しいが、新たな機能革新はほとんど見られない。さらに重要なのは、これらのスマート機能の多くが技術的な見せかけに過ぎず、消費者が実際に使用する頻度は非常に低いという点である。
また、スマートプロジェクター、ロボット掃除機、水拭き掃除機などのスマート家電を挙げると、これらの製品はある程度、消費者の認識を覆す革新的な製品であるにもかかわらず、ほとんどがスタートアップ企業によって開発されており、従来の家電大手からはほとんど生み出されていない。
イノベーションの停滞は、長年にわたって固定化された家電市場の構造と無縁ではなさそうだ。近年、白物家電の業界は低成長、あるいは縮小の段階に入っている。典型的な「強者がさらに強くなる」市場において、美的、格力、ハイアールという三大家電メーカーは、強固な基盤と強力な参入障壁を武器に、安定した成長を維持している。家電製品のイノベーションの余地がますます狭まる中で、これらの企業の革新はますます保守的になっている。
シャオミが家電市場で急速に台頭してきたことは、まだ伝統的な家電大手の地位を揺るがすほどではない。しかし、市場に緊張感をもたらす「ナマズ効果」として存在感を高めている。その家電事業の成長に伴ってもたらす脅威も次第に大きくなっている。そして、まさにこの危機感こそが、現在の家電業界に最も必要とされる刺激なのだ。
*1元=約20円で計算しています。
作者:道总有理(WeChat公式ID:daotmt)、編集・翻訳:36Kr Japan編集部
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