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大阪・関西万博で導入された「EVバス」をめぐり、トラブル報道が相次いでいる。
大阪メトロが万博専用に発注した150台のEVバスを扱うのは、北九州市に本社を構えるEV モーターズ・ジャパン(佐藤裕之社長、以下EVMJ)という会社だ。加えて大阪市内を走る「オンデマンドバス」40台もEVMJが受注し、今年1月より大阪市内で稼働を開始したが不具合多発によりすでに全車両が運行停止となっている。
また、万博を含む各地の自動運転実証でもトラブルが報告されている。4月28日の会場内事故について、EVMJは6月13日に「原因は車両側ではない」と公表したが、搭載インバータ(中馳製)など車載機器が一因となっていることが社内調査で判明している。
国土交通省は9月3日にEV モーターズ・ジャパンに対して総点検を指示。さらに9月26日には環境省が「不具合多発の電動バスにつき補助金申請には留意してください」という旨の警告を出している。
合計190台のEVバスを供給するEVMJだが、その輸入車両はすべて中国メーカー製である。本稿では、導入された3社の車両について整理する。続編では、日本で実績ある中国BYDだが、結局採用されなかった経緯も探っていく。
EVバスを作る中国メーカー
福建威馳騰汽車(日本名:WISDOM)
万博に150台納車されているのはすべてこのWISDOM製となる。
使用されている主なモデルは以下の2種:
・F8 series4-Mini Bus 6.99m(コミュバス)114kWh
・F8 series2-City Bus 10.5m 210kWh
2019年4月8日、EVMJ設立の一週間後に福建省で設立された企業で、EVバスを輸出するために地元政府の支援を受けたという情報もある。EVMJが扱う3社の中では品質は「一番マシ」と言われている。
南京恒天嶺鋭汽車有限公司(日本名:YANCHENG)
日本への導入台数はまだ少ないが品質の悪さが凄まじい。そして1台4500万円という高額であることも驚きだ。今年4月に福岡県筑後市筑後南小学校用に「九電でんきバスサービス」のサブスクを通じて4台が納入され、日本初のEVスクールバスとして話題になった。しかし、3月のテスト段階から不具合が多発しており、4月の運行開始からわずか2週間でディーゼルバスに切り替えた。6月に一度復活したがその日に自動ドアのセンサー不具合で結局4台とも再びEVMJに戻されたという。

報告されている不具合は数十件に及び、以下のような深刻なものも含まれる。
・交差点で突然停止
・ハンドルを切るとクラクションが鳴り続ける
・ブレーキが利かず強く踏み込んでようやく停止
・車速50km/hでブレーキペダルを少し踏んだ時、回生ブレーキが効かない
・両面テープがはがれてフロントカメラ(AEBSモジュール)が脱落
幸いけが人は出ていないが、小学生が乗るバスとしては危険であるため復活の見込みはない。
YANCHENGブランドで7車種が補助金対象車両として登録されている主なモデルは以下の通り:
V8-Micro Bus 6.99m高床仕様(筑後市スクールバス)
V8-Coach Bus 12m観光バス 350kWh(伊予鉄バス)
愛中和汽車(日本名:VAMO)
愛中和汽車は中国最大の鉄道会社「中国中車」の子会社で、主に商用EVを製造している。大阪メトロに40台が納車され大阪市内を走るオンデマンドバスとして稼働していた。
しかし、9月1日に「ハンドルがきかなくなり中央分離帯に乗り上げる事故」が発生。以降は愛中和製のバスはすべて使用中止となっている。
車種は以下の1車種のみ:
VAMO E1乗合ベーシック 59kWh 仕様
「なぜ“真の国産EV”バスを使わないのか」という疑問もあるが、万博バスの仕様選定が行われた2020~2022年当時、量産段階の国産EV路線バスは未発売だった。国産の量産モデルとしては、いすゞ自動車のBEVフルフラット路線バス「エルガEV」が2024年5月に発表され、同年11月に量産開始。調達スケジュール上、選択肢に入らなかった経緯がある。

つづく次回(下)(https://36kr.jp/376379/)では、なぜ世界的に実績を持つ中国BYDのEVバスが採用されず、EVMJが1社独占で受注したのか。その経緯を詳しく取り上げる。
(文:自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子)
※※本記事は寄稿によるもので、記載内容は公開情報や取材をもとに編集しております。当メディアはその正確性や完全性を保証するものではありません。
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