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エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)向けのデータサービスを手がける中国スタートアップ「枢途科技(Synapath.Ai)」はこのほど、エンジェルラウンドで東方富海(Oriental Fortune Capital)と兼固資本(JG Investment)から数千万元(数億円)を調達した。資金はデータ収集システムの改良および商用化の加速に充てる方針だという。
枢途科技は2024年に設立され、画像・音声・動作などのマルチモーダルデータの収集とAIモデル技術の開発に注力している。オープンかつ低コストの汎用データプラットフォームを構築することで、物流・製造・サービスなどの分野におけるロボットの大規模な実用化を目指す。
エンボディドAIが実用段階に進みつつあるなか、高品質で多様な学習データが不足しており、それがAIモデルの性能向上を阻むボトルネックとなっている。遠隔操作で収集する従来の手法はコストが高く、実環境の複雑性を十分に再現できない。一方、シミュレーションデータは細部の再現性に欠けるため、実世界での汎用性や推論能力の向上には限界がある。こうした課題を背景に、低コストで拡張性のある現実世界データの取得が業界の急務となっている。
ネット動画を「学習素材」に転換
枢途科技が打ち出したのは、インターネット上の実際の動画から人間の行動データを抽出する革新的な手法だ。YouTubeやTikTokに投稿されている動画には、動作の軌跡、力の伝達、環境との相互作用といったリアルな物理情報が豊富に含まれており、これを活用することでデータ収集コストを大幅に削減できる。
同様のアプローチは、米テスラやFigure AIなど海外企業でも効果性が実証されている。テスラのイーロン・マスクCEOは過去に、同社のヒューマノイド(人型ロボット)「Optims」の学習に、遠隔操作ではなく、YouTubeの動画を活用する方法へと移行する構想を明かしている。Figure AIが開発したロボット用AIモデル「Helix」も、人の視点から撮影した動画をもとに学習し、ロボットの動きを自律的に制御できるようになっている。
データ生成を自動化する独自システム
枢途科技は独自開発したデータパイプライン「SynaData」を通じて、一般的な動画を標準化された学習データに変換し、外部企業のロボット用AIモデルに提供している。このシステムを活用すれば、データ収集にかかるコストを業界平均の200分の1にまで削減できるという。
たとえば、人がフードデリバリーの袋をつかみ上げるシーンでは、システムが手の動きや対象物の移動ルートなどを抽出し、それをそのままロボットの学習データとして活用する。テストでは、袋をつかみ上げる動作の成功率が88%に向上し、さまざまなシーンへの対応力が高まったことが示された。
SynaDataはすでに全工程にわたる技術検証を終えており、数千時間にわたるさまざまな環境の動画データを処理して、ものをつかむ・置く・組み立てるといった100種類以上のタスクに対応した標準化データセットを構築した。その一部は、清華大学のロボット用AIモデル「RDT」や、米Physical IntelligenceのVision-Language-Action(VLA)モデル「π0(パイゼロ)」など、主要なオープンソースモデルでも検証が進んでいる。
精度・汎化・エコシステムの三本柱
データの質を高めるため、同社は主に次の3分野でシステムの改良を図っている。
精度の向上:遮蔽物を考慮したモデリングやマルチビュー再構成などの技術を使って、軌道や姿勢の再現誤差を2ミリ以内に抑える。
汎化能力の向上:人型ロボットやロボットハンド、ロボットシャシーを含む100種類以上のロボット本体に対応できるようにする。
エコシステム構築:シミュレーション環境の開発企業と提携し、データ生成から学習、実装までをシームレスにつなぐ仕組みを実現する。
年内には、実世界の動画を元にしたオープンソースの行動データセットをリリースする計画だ。枢途科技の林嘯CTOは、インターネットがロボットにとって「無料の学習の場」になりつつあると指摘する。今後の目標は、SynaDataを通じてインターネット動画という「データの宝庫」を解放し、ロボットを「自ら見て学ぶ」段階へと進化させ、エンボディドAIの実用化を加速することだという。
*1元=約21円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)
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