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「好きにフィギュアを作れるようになってうれしい!」常に“他人とは違う何か”を求めている中国のZ世代だが、いま3Dプリンターで、専門知識なしで自分だけのグッズを作り出している。
かつて3Dプリンターといえば、思い通りの造形ができず、プラスチック製の“謎の物体”を出力してしまうことも多かった。Blender、AutoCAD、Fusion 360といった3Dモデリングツールを使いこなせないとデザインすらままならず、3Dプリントに憧れていた初心者を絶望の淵に突き落としていた。
しかし今や、こうしたハードルは大きく下がった。3Dプリンターは、“プログラマーやデザイナーのおもちゃ”から、“誰でも使える新しい製造手段”へと変貌を遂げている。
3Dプリンターが広げる若者の“創造熱”
3Dプリンターを手ごろな価格と高品質、使いやすくしたのが拓竹科技(Bambu Lab)、創想三維(Creality)、縦維立方(Anycubic)、智能派(Flashforge)といった中国の3Dプリンターメーカーだ。これらの企業の躍進により2024年には世界のエントリーレベルの3Dプリンターの96%が中国メーカー製になったというレポートもある。
拓竹科技の設立は2020年と比較的新しいが、他の3社は2015年前後の設立で、それから10年は経過する。その間に品質は向上し、造形物を作るための土台とノズルとの高さや平行度を調整する「水平出し(レベリング)」や、素材の装着といった、初心者がつまずきやすい作業が自動化され、失敗しにくい設計となった。
主要メーカーはそれぞれユーザーコミュニティを形成し、3Dモデルの共有ライブラリを用意している。例えば、拓竹科技は「Bambu Handy」、創想三維は「Creality Cloud」というプラットフォームを運営している。その中で、モデリングスキルを持つユーザーが新作デザインをアップロードし、他のユーザーがダウンロードして自分のマシンで直接印刷することができる。絵が描けなくとも画像素材をダウンロードして印刷するような感覚で利用でき、3Dモデリングツールを使わずともプリントできるわけだ。
数百万点に及ぶモデルが公開され、人気作品は数千回以上ダウンロードされることもある。中国語圏のSNSで人気を集めるのは、コレクション性の高いフィギュア系モデルが中心だ。人気クリエイターには、印刷材料などと交換できるポイントが付与され、創作活動のインセンティブにもなっている。
生成AIがモデリングの壁を崩す
さらに、AIによる3Dモデル生成の進歩が、3Dプリンターの裾野を一気に広げた。生成AIがトレンドとなった2023年以降、ハードルが急激に下がったわけだ。今や3Dプリンターでは音声やテキスト入力だけで立体モデルを自動生成する「生成AI For 3D」が登場し、モデリングスキルのない初心者でも簡単に作品を制作できるようになったのだ。
テンセント、極視科技(VAST)、Meshyなど複数の中国企業が次々と参入しており、中でも、極視科技の3Dモデル作成生成AI「Tripo」は、初期から品質の高さで国際的な評価を得ている。
一方で、AI生成機能はあくまで“入門者向け”だ。熟練ユーザーからは「AIモデルの調整が煩雑」との声もあり、プロの現場では補助的なツールとして扱われている。
政府の後押しと悪質業者の流入も
「既製のモデルをダウンロードして新しいものをプリントしたいという衝動を抑えられない」「3Dプリンターが一日中ノンストップで稼働し、フィギュアやモデルガン、カップまで作っている」といった声が中国のSNS上にあふれる。
この動きを後押しするのが中国政府の政策だ。9月には、商務部など8部門が「3Dプリンターはデジタル製品消費の重点分野に含まれる」と明記した文書を発表し、デジタル製品購入時の補助金支給対象となった。これにより一部製品は1000元余り(約2万円)で購入できるほどに安くなり、消費者の購入意欲を煽っている。ただし、新しいデジタル製品にありがちな“熱しやすく冷めやすい”側面もあり、ブーム後の市場定着には課題が残る。
紙に印刷するプリンターと同様に、3Dプリンターもまたメーカーの利益の源泉は製品本体ではなく、純正品のPLAフィラメントなどの材料である。そしてプリンターがそうであるように3Dプリンターもメーカー非公認の格安な互換品や汎用材料が流通する。純正品の半額かそれ以下で入手できる互換品や汎用材料の市場浸透率が年々高まった結果、純正品の材料を大きく上回っているという報告も出ている。
純正品ではない材料は安くて使えるのでいいかというと、品質と互換性にばらつきがあるため、プリントヘッドや機械部品が損傷することがあり、ひいては消耗品の目詰まり、融点の不安定化、印刷不良といった問題を引き起こす。
その先にはフィラメント出力の不安定化や造形精度の低下といった不具合ならいいほうで、売れればいいという悪質な業者もこの業界に入り込み、品質の悪い素材を使った結果、有害物質が発生するリスクもある。そのリスクから利用者が3Dプリンターの導入を嫌がる動きも今の中国社会ではありえそうな話だ。
(文:山谷剛史)
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