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世界的な高齢化の進行や歩行が困難な人々の増加を受け、「車椅子の概念を再定義する」スマートモビリティーが登場した。
11月13日、米国サンフランシスコで一人乗りの低速パーソナルモビリティー「Strutt ev1」が公開された。開発したのは、ドローン大手DJI(大疆創新)の元幹部・洪小平氏が2023年に設立したテック企業「若創科技(Strutt)」。製品のリリースと同時に、プレシリーズAでMatter Venture PartnersやVertex Venturesなどから数千万ドル(数十億円)を調達したことも明らかにした。
Strutt ev1は、車椅子という既存のカテゴリに収まらない革新的な製品だ。運転支援機能やロボット向けの環境認識システム、自動車のシャシー設計などを融合させ、屋内外を自在に走行できる「椅子型のスマートカー」として設計されている。
世間では「電動車椅子」とみなされがちなStrutt ev1だが、創業者の洪氏は「従来製品とは一線を画す」と強調する。特定の利用者に限定されないユニバーサルなスマートモビリティーであり、将来的には家庭用のコンパニオンロボットへ進化させる構想も示す。
すべての人に“尊厳ある移動”を
世界保健機関(WHO)によると、米国では毎年1000人に3.3人が車椅子を必要としている。世界全体では、病気や加齢で身体が不自由になった人を除いても、10億人以上が移動に何らかの困難を抱えている。
従来の電動車椅子ではジョイスティック操作を採用しているが、細かな制御が難しく、狭い場所では扱いづらい。また周囲の視線を気にして、足腰の弱った高齢者や、ケガなどで一時的に歩行が困難な人も使用をためらうケースが多い。Strutt ev1が目指すのは、移動のサポートを必要とする全ての人に、“恥ずかしさなく、安全に移動できる手段”を提供することだ。
同製品は自動車規格のシャシー構造を採用している。前輪操舵・後輪駆動に、独立サスペンションを搭載することで、正確な操作や旋回が可能になり、斜面や芝生、狭い通路などでの走行性能が大幅に向上した。最大積載荷重は160kg、本体は5つのパーツに分解でき、最も重いパーツでも20kg以下に抑えられているため、安定性を備えながらも持ち運びしやすい。
段差を乗り越える衝撃を繰り返し加える走行耐久性試験では、業界基準の20万回をはるかに上回る200万回を基準として実施。頻繁にパーツを脱着しても、全ての接続部が高い安定性を維持し、水気やほこりの多い場所でも問題なく使用できる。さらに、車載レベルの部品を採用しつつ、独自のモジュール化設計や生産の自動化などでコストを抑えたという。
AIによる賢い運転支援システム
Strutt ev1の最大の特徴は、自社開発の「Co-pilot運転支援システム」だ。LiDARや慣性計測装置(IMU)、カメラなど約20基のセンサーを組み合わせ、SLAM(自己位置推定と環境地図作成)によるマッピングとリアルタイムの軌道計画を取り入れることで、5メートル以内の環境をセンチメートルレベルの精度で認識できる。
その設計哲学は「ユーザー操作を主体に、システムが応じて知能的に補助する」というものだ。洪小平氏は、「主導権はユーザーが持ち、システムは安全と微調整を担う。それが特に高齢者にとって重要だ」と強調する。例えば、前方に障害物があれば自動で減速・停止し、曲がりきれず壁にぶつかりそうなときは、方向を微調整して衝突を回避する。さらに、あらかじめ「冷蔵庫」「リビング」など目的地を設定すれば、そこまで自動走行するナビ機能も備える。
将来的には、大規模言語モデル(LLM)の能力が加わることで、単なる移動ツールを超えて、細かな指示を出さなくても利用者の文脈を理解して、半自律的に行動する“家庭用ロボット”へ発展させる構想もある。
当初からグローバル市場に照準
若創科技の本社はシンガポールにある。洪氏は、グローバル市場を視野に入れる企業にとって、創業段階から海外展開を前提とした戦略設計が不可欠だと強調する。
高齢化が進み、インフラ環境も整ったシンガポールは、製品テストに最適な市場であると同時に、東西の文化が交差するグローバル展開の理想的なハブでもある。同社はまずシンガポールと香港へ製品を投入し、その後、北米や欧州市場への拡大を図る計画だ。これらの地域は高齢化が加速度的に進み、信頼性の高い移動デバイスに対する需要が最も強いという。
洪氏は「Strutt ev1はオンライン販売よりも、実際に座って体験することで価値が伝わる」として、主に体験型の実店舗での販売戦略を採用する方針を示している。
*1ドル=約157円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)
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